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最強の魔王が異世界に転移したので冒険者ギルドに所属してみました。  作者: 羽海汐遠
妖魔山編

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1810/2220

1793.妖魔召士シギンと四天王

 この『ノックス』の世界では、これまで『(ことわり)』というものが存在せず、当然に『(ことわり)』がなければ『魔法』が使えない為に、妖魔召士となれるような『魔力値』を持つ者は、妖魔と戦える希望の存在であり、その希少性も相まって、妖魔召士となれた者は生活が一変する程の優遇を受けてきた。


 シギンも本来は祖父母や両親のように、畑を耕しながら生計を立てて生涯を終える筈であったが、妖魔召士となれた事で十歳になる頃には、彼はその生涯を閉じるまでの生活を何不自由なく暮らせる程の富を築く事となれた。


 しかし当のシギンはそんな富になど目もくれず、これまで通りの生活を続けていた。


 シギンは妖魔召士となって『魔』の概念に魅了されてしまい、それ以外の事に興味を持てなくなってしまっていたのである。


 自分がどれだけの富を得ているかなど、妖魔召士組織の宿舎から帰省を許される時期に、実家に戻った時の両親の身なりや食事等の生活の違いから、ようやく『妖魔召士』になる事がどれだけ優れていたことだったかを理解する程であった。


 実家で久方ぶりに両親達に会えた事は喜ばしい事であったが、シギンに対して感謝を告げる家族の目を見た時に、彼はその両親の生活ぶりも相まって、欲に溺れているのだろうなと直ぐに悟った。


『魔』の概念に魅了されて研鑽を積み続けている今の彼は、信じられない程の観察眼と、その観察で得た情報を十全に活かす冷静な判断力などが磨かれていた。


 次はいつ家に帰ってこられるかや、これまで通りに妖魔召士組織からの給金は両親が管理するなど、本心が透けて見えるような両親の言葉に、シギンは両親に抱いていた感情などが急激に冷めていくのを感じていた。


 自分が妖魔召士で居る内は、このまま生活の水準を下げずとも生きていけるだろうが、この両親はもう今後は生きていても『成し遂げる側の人間』として、何も成果をあげる事もなく、唯々食べて寝て生きていくだけの『存在』になるのだろうとシギンは理解した。


 ――もちろん彼はそれが悪いと言っているわけではない。


 妖魔に襲われたり、飢餓(きが)によって飢えて死ぬ事も珍しくないこの今の『ノックス』の世界は、今を生きる事だけであっても恵まれているのである。


 その上でシギンの両親たちは、今後も息子のおかげで何不自由なく生きていける生涯が約束されている。


 謂わば『()()()』とされるグループの仲間入りを果たしたわけである。


 別にシギンは自分が受け取る筈だった給金や、彼が今後得られるであろう富なども両親に譲り渡してもいいとさえ考えている。


 だが、シギンはこの一度目の帰省の時に、もう二度と自分は実家に戻る事はないだろうなと、強く意識したのだった。


 シギンはこの息子に対しての媚びるような目や、欲をありありと出し示した両親の態度に、子供ながらにうんざりしたのであった。


 そして『欲』は人を変えるのだという事を理解したシギンは、両親を反面教師に自身の『魔』の概念に対しても、あくまでも手段や手立てとしての活用を最優先に考えて、その『魔』の魅力に身を差し出さないように気をつけようと『欲』に対して制限をかける事に成功したのだった。


 そういった意味ではこの帰省を利用して、実家に戻り両親と再会した事は、彼の人生に対して大きなプラスに働いたといえるだろう。


 実家への帰省から一夜明けて組織の宿舎へ戻る前、シギンはこれから『妖魔召士』として忙しくなるから今後はあまり戻ってはこられないという事や、組織から出る給金や褒章といったものは全て自由にしてもらって構わないと両親に告げると、そのまま二度と家に戻る事はなかった。


 ――最後に両親が告げた言葉や、その時の表情など今ではもう()()()()()()()()


 それから『妖魔召士』として生きていく事となったシギンは、二十歳の頃に当代の『妖魔召士』組織の長に抜擢された。


 この頃には(もと)となる魔力値でさえ『2000億』を超えており、オーラを纏えばその魔力は『兆』には達しているだろう。


 十代の頃に経験した『任務』での妖魔との初実戦は、新人のメンタルを鍛えるという意味合いもあったようで、それなりの妖魔ランクの相手をさせられるというものであった。


 当然に先輩となるベテランの上位妖魔召士や、その護衛の妖魔退魔師達も付く為に、万が一にも新人の妖魔召士を死なせるわけはないのだが、このシギンの初実戦の時には、そんなベテランの妖魔召士達は何も手を出す必要はなかった。


 初実戦の新人である筈の妖魔召士のシギンは、妖魔ランクが『4』はある筈の鵺を相手に、たった一人で勝負を決めてしまったからである。


 その場にいたベテラン妖魔召士は、新人である筈のシギンが全く本気でやっていない事も理解していた。


 そして流石にこの先輩は『上位妖魔召士』という事もあり、シギンが『捉術』を放った時の『魔力回路』から放出して自身に『魔力』を纏わせるまでの『魔力コントロール』が、ベテランである筈の自分よりも遥かに滑らかであり、そのコントロールが行える理由に、シギンが自身の持つ『魔力値』のほぼ大半を自在に操る程までに把握を終えているのだろうと理解したのだった。


 しかしそんなベテランの上位妖魔召士でさえ、シギンを見誤っていた事は否めないだろう――。


 ――シギンは大半ではなく、自身が持ち得る全ての『魔力』を『1』に至るまで完全に把握しているのだから。


 当然に任務の面だけではなく、シギンは『魔』の研鑽にも変わらずに力を注ぎこんでいく。


 だが、これまでと違うところは、自ら反面教師と定めた両親の『欲』と同じように、自らの『欲』となる『魔』に向ける関心への制限の自制が効くようになった事だろう。


 適度の研鑽に適度の休憩、新たな『魔』への疑問に対しての解決策への乗り出し方。


 自分の最善のルートを見つけて安定させる為に、()べ数年は要したかもしれないが、彼が『最上位妖魔召士』となって、当代の妖魔召士組織の『長』となる頃には、対妖魔の討伐任務には全てに『()』がつくほどの優秀さを示し続ける事となり、研鑽の面でも自身の編み出した『(ことわり)』を用いる『魔法』だけではなく、戦術における『捉術』も全てが高水準の練度を記録してみせた。


 シギンが長となる前の妖魔召士組織は、完全実力主義社会であった為に、妖魔召士シギンが『最上位妖魔召士』と認められた時点から、シギンにオーラの技法の話をした先輩や、初実戦でチームを組んだベテラン妖魔召士達ですら、シギンを組織では格上だと認めて、任務では自分が先輩だからと言うような、上から自分の意見を押し付けるような真似もせず、それどころか決定権は常にシギンにあるとばかりに、案を出す時も敬語で話すようにまでなっていった。


 ベテランたちが次々とシギンを認めていく以上は、シギンと同期に妖魔召士になった者達や、彼より後に入ってきた妖魔召士達もシギンを認めざるを得なくなり、シギンが長となる頃には誰もがシギンに従う組織となった。


 しかしそれでも当の本人であるシギンは、全てが自分の思い通りになる組織を手にした事というのに、全く興味を示さずに、適当に役職を作ったかと思えば、そこに面倒事を放り投げて自分は『魔』の研鑽に勤しみ続ける日々を送り続けるのだった。


 この時に作った適当な役職が、後に名や形を変えて最後には『四天王』と呼ばれるようになった――。


 そしてこの『四天王』と呼ばれるようになる役職に、最初に就いたのが『イッテツ』と呼ばれる妖魔召士だった。


 何とこの『イッテツ』とは、一番最初にシギンに『オーラの技法』の存在を雑談交じりに話をしてくれた『先輩』なのであった。


 当時はまだベテランとも言えない『中位妖魔召士』であり、シギンが長となってこの役職を作った時もまだ、精々が『上位妖魔召士』でしかなかったのだが、シギンと共に組織を更に盤石にしようと決意を固めてからメキメキと成長を遂げていき、三十代半ばに入った頃に、彼もまた『最上位妖魔召士』の優秀な退魔士として名を連ねる程となっていった。


 そしてこれまたいち早くシギンの才能に気づき、初実戦時にチームを組んだ先輩妖魔召士の『ノマザル』が、二人目の『四天王』の座に就いた。


 ノマザルは役員就任後に『この役職の座に居る者達の中で自分が最古参の先輩なのだから、長であるシギンを含めて誰にでも頼られる者を目指す』と口にしていた。


 そしてその通りにノマザルは、シギンの代の『妖魔召士』組織を最後まで支え続けて、妖魔召士達から頼られ続けた彼は、誰よりも惜しまれながら退魔士の引退を果たした。


『四天王』三人目となる『コウエン』は、シギンと同時期に『妖魔召士』の器があると鑑定されて、組織入りしたシギンの同期の退魔士であった。


 当初は自分の方がシギンより優れている筈だと、一方的にシギンを敵視していたが、初任務時にノマザルと同様にシギンとチームを組んだ事によって、自分とシギンには埋められない差があると理解を示した。


 シギンを一方的に敵視していた筈のコウエンは、これ以後シギンを自分の『魔』の師匠と呼び始めたかと思えば、シギンが一人で研鑽をしようとすると、その度にコウエンはシギンの元に顔を出して、頭を下げて研鑽方法を学んでいき、気が付けばその差は開いてしまったが、コウエンはシギンに友人と認められて、以後は共に『妖魔山』の調査を終えて、戻ってきてから数日後の袂を分かつ日まで善き友人の座を守った。


 そして『四天王』最後の座についた『サイヨウ』は、シギンの後に組織に入ってきた後輩であった。


 シギンは自ら作ったこの役職の中で唯一、自分からこの役職についてくれと声を掛けた人物がこの『サイヨウ』であった。


 その理由として『サイヨウ』は、シギンと同様に『魔』の概念に関して()()()()()()()()()()()()にある。


 しかし別にサイヨウの『魔力値』が秀でているとか、何か特別な力を持っていたというわけではない。


 ただ、サイヨウの『魔』に対する考え方というか、その捉え方が他の妖魔召士達とは異なり、そしてだからといって自分に近いとも言い難いのだが、何故かサイヨウの考え方を否定が出来ないシギンであった。


 例えばこの世界で『魔力』を高めるには元々ある程度の『魔力値』を有していなければならないが、その理由にある『捉術』に用いる『魔力量』を減らす事が出来れば、誰もが妖魔召士になれるのではないか? といった風にシギンとも他の妖魔召士達とも違う観点から入り始めて、ただ提言するだけではなくて本当に可能か不可能かを自分の身で証明しようとするのである。


 当然に全てが上手く行ったわけでもなく、シギンや他の者達がやはり間違いだったなと思う事も多々あった。


 しかし何故かサイヨウの提案には毎度信じさせられる力というのだろうか、そういったものを必ず感じさせられてしまい、頭ごなしに否定を行う事が『魔』の理解者である筈のシギンですら、安易に行えない程なのであった。


 もしかするとこういった人物こそが、()()()()()とまでは行かなくとも、何かで行き詰った拍子に解決へのキッカケを生み出すのではないかとシギンは考えて、自分の代の四人しか居ない最高位となる組織の『役職』の役員にサイヨウを抜擢したというわけであった。

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