1759.大魔王ソフィVS天従十二将
「華親、事情が変わった……。コイツはあの人間の命令の範疇に留めておける奴じゃない。呑気に足止めなど考えずに『天従十二将』全員を向かわせて、さっさと奴を含めたこの場に居る全員を殺してしまうのじゃ!」
ソフィの形態変化を見た後、明らかに人間ではなかった事を理解した天狗達だが、いち早く『天魔』にしてこの天狗族を束ねる『帝楽智』は隣に居る『華親』に対してそう命令を下すのだった。
「て、天魔様……! わ、分かりました」
かつては天狗族の副首領として、あらゆる苦難を天魔の片腕として乗り越えてきた『華親』は、此度に訪れたソフィ達を天狗族始まって以来の最大の危機として、警戒を最大限にまで押し上げた様子であった。
「良いか、この場に居る全ての天狗達よ! これより司令官としてこの『華親』が指揮を執る! 『天従十二将』を除いた全天狗で『呪詛』を用いて背後に居る人間達の動きを止めるのだ! そして『前従五玄孫』はあの黒い羽を生やした存在の足止めに全力を注げ、次に『中従二孫』は『呪い』を用いて奴に『魔力』を使わせるな! 『後従三子』の『甘青』『煩欲』『邪未』は散らばり、一気に持ち得る『魔』の概念で奴の距離を殺せ! 出来得る限り何もさせずに『世来二親』に繋げろ! そしてよいか『世来二親』の『担臨』と『寿天』よ! お主らは一気に力を開放して全力で奴を叩き潰すのだ!!」
「「御意!!」」
『座汀虚』に世代交代を行った事で、長らく表舞台を離れていたかつての優秀な司令官『華親』は、再び全天狗に対する全権の指揮を『天魔』に任せられた事で、十全に才を発揮するかの如くに、その采配を振るのであった。
ソフィの変貌振りに呆然と眺めていた仲間達だったが、敵の天狗達から一斉に『魔力』の高まりと、自分達に向けられた敵意を一身に浴びた事により、妖魔退魔師に妖魔召士、それにテアも自分の背丈よりも遥かに長い得の武器である鎌を具現化させて戦闘態勢に入り始めるのだった。
しかし大魔王ヌーだけが何も行わず、隣で戦闘態勢を取り始めたテアの肩に手を置くと、静かに口を開くのだった。
「テア、何もしなくていいからお前は俺の背後に居ろ」
「――?」(えっ? お、おいヌー! それは一体どういう意味っ……!?)
「――」(うふふ、私の可愛いテア。どうやら貴方と契約を交わしているそこの魔族は、貴方を守ろうとしているようね? ふ、ふふふっ! どうやら中々に話の分かる御仁のようね? 確かに貴方は何もする必要はないわ。貴方はこの私と同じ特等席でソフィの行う素敵な殺戮ショーを一緒に楽しみましょうね?)
「――?」(えっ、えぇっ……?)
いつの間にか、大魔王ヌーと死神のテアの間に割って入るように出現した『力の魔神』は、テアを守ろうとするヌーの態度を気に入った様子で満面の笑みを見せると、貴方は何もする必要はないと告げた後に、ソフィの方を指差しながら一緒に楽しみましょうとにこやかに口にするのだった。
魔神の言っている意味が分からず、テアはソフィさんを守らなくていいのかと魔神に尋ねようとしたその瞬間であった――。
ソフィ達を取り囲んでいた『天狗』達が、一斉に『呪詛』を完成させた様子であり、その敵意を自分達に向けられる感覚をテア達は覚え始めるのだった。
シゲンやミスズ、それにエイジやゲンロク達を含めた各々は、その天狗の攻撃に備えて動きを見せようと構えたが、その先の行動を取る事はなかった。
それは何故なら、大魔王ソフィがこの場で最初の行動を起こしたからである。
――それこそは大魔王ソフィの『特異』であった。
全天狗たちが『魔力』を伴った『呪詛』を放つ寸前、その完成された筈の文言の効力が消失し、何事もなかったかの如く何も発動が行われなかった。
大魔王ソフィの『金色の体現者』としての特異の効果とは、効果範囲に居る自身と相対する全ての存在の『魔力』の『スタック』を最初に巻き直させる事であった。
これによってソフィ達を取り囲む大勢の天狗達の『呪詛』はその全てが最初に巻き戻り、そしてソフィの足止めを華親によって命令された『中従二孫』の『触心』と『学得』の『呪い』の効力もまた発動される事はなかった。
そしてそのまま大魔王の口から天狗達にとっての『虐殺』を意味する詠唱が開始された。
「『敵を滅ぼす力を我は望む。我の視界に入る全ての敵を蹂躙せよ』」
大魔王ソフィがそう告げると同時、彼の両手が身体の正面で交わるように重なると『真っ白な光りの束』が次々と空に生み出され始めていく。
――大魔王ソフィが『魔神』を召喚する以外で『魔法』を扱う時に詠唱を口にする事は珍しかった。
それはつまり無詠唱の時に比べて、展開される『魔法』の威力が上がるという事と同義であり、かつて『魔力吸収の地』に向けて放った時よりも殺傷能力が遥かに上がったことを意味する。
――魔神域魔法、『絶殲』。
ソフィの目が金色に光り輝いたかと思うと、空で待機状態にあった『真っ白な光りの束』が、一直線に伸びて行き、一番ソフィの場所から遠くに居た天狗の胴体を突き破った。
そして尚も『真っ白な光りの束』は具現化されたままとなり、そのまますでに絶命を果たした天狗の身体ごと貫いたままの光りの束が、円を描くようにその場からぐるりと高速で回り始めて周囲に居る天狗を次々と巻き込んでいくのだった。
天狗達は『真っ白な光りの束』に触れた瞬間に、生命を吸われているかの如く命を奪われていく。
単に意識を失っているのではなく、まるでその『真っ白な光りの束』が『九大魔王』である魔族の『エイネ』が放つ『生命を吸い取る鎖』であるかの如く、触れただけでランク『7』以上である筈の天狗族が、その生命を終わらせられていくのであった。
「な、くっ……!?」
グルグルと時計の針のように回り始めていく『真っ白な光りの束』に同胞達が命を奪われていく様を見せられた他の力有る幹部の天狗達は、何とか逃れようと必死に足掻き始めようとしたが……。
「何人たりとも、決してここから逃さぬ……!」
まるで絶望を届けるかの如く、大魔王は冷静にそう告げる。
――魔神域魔法、『転覆』。
光は闇に、天は地に、森羅万象の流転。
変遷する世界、それは止めようのない移ろいを示す――。
迫りくる『真っ白な光りの束』から逃れようとしていた天狗達は、一斉に自らその光の束へと足を運ぶかの如く、そして自ら首や胴体を切断されにいくかのように、近づいて絶命を果たしていく。
自分が何を行っているのか理解が出来ず、またそれを見ていた者達も何をしているんだと叫ぶが、もはやこの場に冷静に何が起きているかを頭で考える余裕がある存在はなく、まるでそれこそが神の意思であるかのように、愚かにも大魔王ソフィに敵対した天狗達は、次々とその生を終わらせられていくのだった。
「か、華親!! なっ、何が起きている!?」
全天狗を束ねる圧倒的な存在である筈の『帝楽智』は、普段の振る舞いとは程遠い焦った姿を見せながら、自らの片腕である『華親』に必死に尋ねるが、その『華親』は『帝楽智』の声が一切耳に入っていないかのように、そちらに反応をせずに言葉を失っていた。
『華親』は茫然とグルグルと円を描くように広範囲に渡って廻り続ける『真っ白な光の束』によって、同胞の天狗達の首や胴体が、ちぎれて血飛沫を上げながら絶命していく姿を目に焼き付けるかの如く、視線を奪われるのであった――。
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