1756.大魔王ソフィを崇拝する魔神の覚悟
※誤字報告ありがとうございます!
「お主らに敵う敵わぬの話をしているのではない……が、もういい。そこまで他種族を見下して、自分本位な物事の考え方を押し通す以上、いくら我が言葉で説いたところで今更考えを改めるつもりはなさそうだ」
ソフィが溜息交じりにそう告げると、帝楽智の横に立っていた『華親』の眉がぴくぴくと動き、苛立ち混じりに口を開いた。
「弱者の人間風情のお主がいったい何を言うつもりだったのだ? 自分がどれだけ強いと思っているつもりなのかは知らぬが、天狗の恐ろしさを理解しておらぬお主に、少しだけ痛い目に遭わせてやろうではないか!」
華親はそう言うと、事の発端となった『邪未』の方を一瞥して小さく頷いて見せる。すると直ぐに『邪未』は笑みを見せて頷きを返した。
彼にしてみれば小生意気な人間とみられるソフィに、直接手を下せる他でもない好機を『華親』から許可が出された事が嬉しかったのだろう。それもこれだけ大勢の天狗達に見られている中で自分の強さをアピールする絶好の機会に恵まれたのである。喜びもひとしおという気持ちが、その表情に強くあらわれていた。
そして場の空気が変わった事は、ソフィやヌーだけではなく、ここに居る全員が感じ取るのであった。
「もうよい。素直に非礼を詫びて『玉稿』殿たちに今後は手を出さぬと口にするのであれば、イバキ殿や、動忍鬼達に行った事を堪えようと思っていたが、どうやら頭の固い貴様らには何を言っても無駄のようだ。生かしておいても碌な事にならぬのであれば、我がこの手でその命を全て摘み取ってやる」
第二形態になっている時とまでは言わないが、彼の言葉の端々には棘があり、苛立ちを募っている様子がよく伝わってくる。
何より生かしておいても碌な事にはならない。自らの手で命を摘み取ると口にしている事からも普段通りではないという事は明白であった。
「『無限の空間、無限の時間、無限の理に住みし魔神よ、悠久の時を経て、契約者たる大魔王の声に応じよ、我が名はソフィ』」
ソフィの詠唱によって直ぐに『力の魔神』がこの『ノックス』の世界に顕現を果たすと、直ぐにソフィの元に転移を果たして慈しむような笑みを向けた。
もうすでに魔神は前回の出現と共に、ソフィから預かっている『魔力』の大半の返還を済ませてある。そして自分を呼ぶという事は、この世界の崩壊に繋がる程の『魔力』を用いて、愚者共に対する粛清を行う事だろうとアタリもついていた。
たとえ魔神は『聖域結界』を張らされる為だけに呼ばれているのだと理解していて尚、他の誰でもない『ソフィ』という絶対者に頼られている事に対して、喜びの感情を表現するかの如く、恍惚とした表情を浮かべていた。
「――」(あぁっ、ソフィ! 今度はどんな理由で私を呼んでくれたのかしら! また殺傷能力を最大限にまで高めた『魔法』をこの世界に放とうというのかしら? それとも世界そのものを消滅させるつもりかしら? うふふ、貴方が『天上界』を本気で相手にしようというのであれば、いつでも私は貴方の為にこの身を捧げる覚悟は出来ているわっ!)
もはや『魔神』がソフィに対して抱く感情は『敬服』という言葉ですら生温い。
彼がやるべき事に対して『盲信』や『妄信』をしているわけではなく、その先に待ち受ける出来事を全てしっかりと『魔神』自体が理解したその上で、絶対者であるソフィであれば全てが上手く行く事は間違いがないと、確定した未来を既に彼女は思い描いているかの如く、大魔王ソフィという下界に生きるいち『魔族』に対して、天上界の神々である『力の魔神』は『崇拝』しているのである。
それは例えば大魔王ソフィに仇名す者が天上界に君臨する神々であろうとも、彼女の中での『絶対神』といえる大魔王ソフィに明確な敵意を向けるのであれば、その存在そのものを消し去る事に全力を注ぐつもりであり、あらゆる世界に存在する『神々の使徒』が、神の天啓を受けて尚、代弁者としてのその神託に於ける全行使命令を出してきたとしても、その全ての行使に抗い『神々』を相手にする事も辞さないと同義である。
そしてすでに『力の魔神』は『リラリオ』の世界の調停者とされた神々の使徒であった『龍族』に対しても、ソフィと刃向かう事で抗ってみせている。
もしこの世界であっても同様に、神々の使徒が立ち塞がろうとも『力の魔神』は、喜んでその神託を受けた使徒を敵に回すだろう。
すでにこの場に居る『天狗族』が視界に入っている『力の魔神』は、ここに呼ばれた理由を大方理解し終えていた。
つまり大魔王ソフィは、ここに居る人間ならざる『存在』の種族を打ち滅ぼす為に、その強大な力を示そうというのであろう。
そこに自分が呼ばれた理由とは、この『ノックス』という世界の崩壊を防ぐために『魔神』たる所以の力の権利を私に指し示せと命令する為だろう。
――大魔王ソフィを崇拝する力の魔神は、その命令を今か今かと待ち続けるのだった。
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