1754.体よく利用しようとする者達
ヒノエはミスズが言葉にした『ソフィについて行きたくなる』という気持ちがよく分かっている為、同じ気持ちを抱いたというミスズに共感を覚えて嬉しそうに相好を崩すのだった。
(そもそもミスズ副総長は、自分が認めた者に対しては過剰なまでの信頼を置く傾向にある。当然その信用を得るまでには非常に多くの時間を要する事になるのだが、どうやらソフィ殿に対してはこの僅かな期間の間にその信用に足る存在だとミスズ殿は認めたのだろうな。それもあのシゲン総長に心酔しきっていたミスズ殿がソフィ殿について行きたいと、少しだけとはいっても思わされる程だ。やっぱりソフィ殿は大した御方だとこうして客観的に見据えても思えてくるな……。が、しかし今回ばかりは私も少し予想外だった。イバキ殿やあの動忍鬼って名の鬼人が天狗の奴に襲われた瞬間のソフィ殿の激怒っぷりはとんでもなかった。この私が一瞬とはいっても、震えて全く動けなくなる程の『殺意』だ。あれ程の『殺意』を私に対して直に向けられていたら、私はどうなっていただろう……)
いつも堂々としていたソフィの振る舞いから、あの激情ぶりを見たヒノエは、ソフィが仲間想いなのだという事を理解したその上で、もし自分がソフィに対してあれ程の『殺意』を向けられていたら、その時は自分はどうなっていたのだろうかと、ソフィの背中に視線を送りながら真剣に考え始めるのだった。
そしてこの時のヒノエはまだ、ミスズやシゲン程までにソフィの本当の強さというものを理解しておらず、あくまで『妖魔退魔師』組織の幹部たちが束になっても、彼には勝てないかもしれないと想像するだけの範疇に留まっていた。
だからこそ、この時に抱いたソフィの『殺意』に、自分ならどう抗えるかといったヒノエ組長の疑問――。
――それこそは、天狗族の縄張りでこの後に起きる想像だにしない凄惨な状況になった後、抱いた疑問すらも馬鹿げていたと悟る事になるヒノエ組長であった。
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そしてソフィ達が『邪未』の後を追って、天魔である『帝楽智』達の待つ天狗族の縄張りへと辿り着くと、既に夥しい数の天狗達が取り囲むようにその場に整列して人間達を待ち受けているのだった。
「おお、来たか。随分と遅かったようじゃが、さては邪未たちと何かあったかの?」
何処まで知っていてそう口にしたのか分からないが、帝楽智は愉快だとばかりにそうソフィ達に告げながら、笑みを浮かべるのだった。
そしてそれは『帝楽智』だけではなく、あの場に『邪未』を含めた『後従三子』達を最後まで残らせた『華親』に、他の『天従十二将』も同様に知っていた様子で笑みを浮かべていた。
どうやら天狗達の最終的な目的は、ソフィ達ではなく『鬼人族』達のようである。
当然にイダラマの命令によって、この山に登ってきた人間達の足止めをせざるを得ないが、それ以上に『歪完』の報告にあった『鬼人族』の『天狗族』に対しての発言が『帝楽智』達には気にくわなかったのだろう。
どうやら『鬼人族』達の客分扱いとなった人間達にわざと残した天狗達を嗾けさせた上で、その客分扱いの人間達に自分達天狗に手を出させる事で無理やりに責任を『鬼人族』達に押し付けさせて、その上で改めて『鬼人族』を攻め滅ぼすか、若しくはこれまで以上に自分達の都合のいいように従属させようと『華親』や『帝楽智』がシナリオを用意したという事だろう。
つまりはこの場に連れて来られたソフィ達は、体よく天狗達に利用されたというわけである。
――だが、彼女達の失敗であった事はこの場に居る『天魔』を含めた『天狗族』が、この場に居る者達を都合よく利用が出来る程度の相手だと見誤った事だろう。
現在の『三大妖魔』と呼ばれた種族の中で最も隆盛を極めたといえる『天狗族』。その首領である天狗の魔王である天魔の『帝楽智』だが、その彼女が利用した相手は単なる人間ではなく、魔族達の王である大魔王ソフィなのである。
そしてその大魔王ソフィの内に秘める怒りを露わにする瞬間が、刻一刻と迫っているのであった――。
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