1752.大魔王ヌーの受難
ソフィ達はここまでの案内をしてくれた百鬼に挨拶を終えた後、彼と別れて『妖魔退魔師』組織の者達と、 『妖魔召士』組織の長である『エイジ』に前組織の長の『ゲンロク』の両名、更にはイツキ達を連れ立って『天狗』達の縄張りへと向かう事となった。
天狗達が先に空を飛んで自分達の縄張りへと戻って行った為、仕方なくソフィ達も空を飛んで向かう事となったのだが、当然に空を飛べないこの世界の人間達を運ぶ必要性がある為、独自に空を飛べる者達に飛べない者達はしがみついて行かなくてはならなかった。
本来であれば飛べない者達を分担して飛んだり、先に飛べる者達が一度天狗の縄張りに向かい、場所を覚えてから『高等移動呪文』で一気に運ぶという方法もあったのだが、何とソフィが何かを言う前に、率先して大魔王ヌーが空を飛べない者達に、自分とテアが運ぶと指示を出し始めたのであった。
これにはヌーの事をある程度知っている『エイジ』や『テア』も驚いていたが、その他の者達は別段驚くこともなく、空を飛べないのだから仕方がないとばかりに、疑問に思う事もなくヌーの言葉に従っていた。
イツキだけが少し嫌そうにしていたが、ここでまた自分だけゴネて置いて行かれても面白くないとばかりに最後には、ヌーの服の裾をちょっぴりと指で挟むように掴むと、運んでもらう事を了承している様子だった。
本来であれば大魔王ヌーがこのように協力的な事を率先して行えば、ソフィは感心して嬉しそうな表情を浮かべていただろうが、今のソフィはヌーの申し出に静かに頷いて見せただけで、今は無表情のままで先に飛んで行った天狗達を追いかけながら彼一人、単独で空を飛んでいた。
どうやら今の大魔王ソフィは、他の事が頭に入らないくらいに怒り心頭といった様子であった。
そんなソフィの背後を追いかけるヌーだが、大勢の者達にしがみつかれて空を飛んでいる。しかし今の彼はそちらに意識を割かず、前方を飛んでいるソフィの事を一心に考えていた。
(普段の奴と変わらない様子に見えるが、奴の魔力の纏わせ方が全く普段と違う事が、直接『アレルバレル』の世界に居た頃の奴に殺されかけた事がある俺にはよく分かる。今のソフィはどのような存在が相手であろうと、如何なる数で攻められようが、一瞬で自分に向ける敵意に対して瞬時に消滅させられる状態にありやがる)
ヌーは額から脂汗を流しながら、ガキリッと音が鳴る程に歯噛みをしてソフィの後ろ姿を睨みつける。
(どうやらソフィの奴も『レパート』の世界の『理』をフルーフの野郎か、奴の世界に居やがったユファとかいう女から学んでいたというのは本当らしいな。これは非常に厄介な事だぞ……。俺達の居た元の世界である『アレルバレル』の『理』とは違って、 『レパート』の世界の『理』はまさに戦闘を行う上で最も適した『魔力』の纏わせ方が行えやがるからだ。元の『アレルバレル』の世界の『理』とは違って、 『レパート』の世界の『理』では先に使う『魔法』を頭に思い浮かべる。そこから『魔力回路』から少しずつ『魔力』の分量を決めながらスタックを始めるが、今の奴が纏っている『魔力』量は正確な数値を測ってはいねぇが、少なく見積もっても数兆を超えてやがる。つまりそれはさっき野郎が口にした通り、あのうざってぇ真似をしやがった天狗一体だけじゃなく、言葉通りに『天狗』とかいう種族をもろとも消滅させる事を想定に入れてやがる……。それは一歩間違えれば余波でこの山どころか大陸ごと消滅させられる規模の『魔法』だろう)
『レパート』の世界の『理』が、 『アレルバレル』の世界の『理』よりも優れているというわけではないのだが、こうして先に使う『魔法』を思い浮かべた上で、必要な『魔力』を纏わせる必要性がある為、そこから逆算して用いる『魔法』の規模を推測が行える為に、大魔王ヌーは大魔王ソフィのこれから行おうとする『魔法』に戦々恐々としているというわけであった。
――まず、間違いなく大魔王ソフィの脳裏には『転覆』や『絶殲』に、全てを無に帰す『終焉』までを想定しているだろう。
大魔王ソフィの『魔力コントロール』を疑ってはいないが、それでも大魔王ヌーはこの怒り心頭といった様子を見せているソフィに、何か一つでもコントロールにミスが生じるような事があれば、それだけでこの世界は一瞬にしてこの世から消え去ってしまうという事を理解している。
こんな山が消滅しようが、大陸が消滅しようが大魔王ヌーにとってはどうでもいいが、この星そのものが消えてしまうというのであれば話が変わってくる。
『アレルバレル』の世界の『理』から放たれる『魔法』の速度であれば、先にスタックを展開させておいて、ソフィの魔法を放つところを見てから『概念跳躍』を行っても間に合うだろうが、それが『レパート』の『理』となれば、速度差が明らかに変わって間に合わなくなる可能性が生じる。
ここで大魔王ソフィの『終焉』から逃れる為に、先にテアと共にこの世界から脱出を行う事が最善なのかもしれない。
しかしそうする事によって、また別の問題が生じてしまうのである。
それはあの冗談が通用しない大魔王『フルーフ』と、そのフルーフが従える死神皇と名乗っていた『存在』の問題である――。
大魔王フルーフだけならば、今の自分であればまだどうにでも出来ると考えられるが、そこにテアと同じ『死神』にして、その『死神』達を束ねる『死神皇』が関わってくるという事になれば、その同じ『死神』である『テア』にも何らかの影響が生じる事を否めない。
まず間違いなく、ヌーやテアにとって今後に今よりも悪い環境と結果が待つ事となるだろう。
出来る限りソフィとの契約を守って大魔王フルーフを納得させなければ、厄介な展開が今後数千年と続いてしまう事となるのであった。
(クソッタレめ! 天狗だか何だか知らねぇが、エヴィの野郎をもう少しで見つけられそうというタイミングでうざってぇ事をしてくれやがって! ソフィの代わりに俺が天狗族とかいう奴らをこの手で消滅させてやりたいところだぜっ!!)
空の上で大勢の者達にしがみつかれながら、かちっかちっといつまでも歯を鳴らしながら、苛々を募らせる大魔王ヌーであった。
『ブックマークの登録』や『いいね』また、ページの一番下から『評価点』を付けていただけると作者のモチベーションが上がります。宜しければお願いします!




