1719.絶望と恐怖心
※誤字報告ありがとうございます!
「ん? 何だお前ら」
「これまで王琳の客だと静観していたが、悟獄丸様に手を掛けた以上は我らも黙ってはおれぬ」
……
……
……
(あ、あいつら……!)
殿鬼の視線の先、シギンの元に現れた数体の異形の妖魔を見て、殿鬼は狼狽をしながら歯噛みする。どうやら現れた妖魔達は、それぞれが王琳と同様に殿鬼の見知った者達だったようである。
虎の妖魔である『炎虎』、鷺の妖魔の『賀鷺』、そして鵺の妖魔で『楼』。
この妖魔山の『禁止区域』に居る者達は互いにあまり干渉を行う事はないが、この者達は妖魔神の中でも『悟獄丸』をより深く慕っている者達であり、同様に鬼人族でこの『禁止区域』に居る殿鬼とは、王琳と同じ程に親しい間柄であった。
(や、やめろっ! こ、殺されてしまうぞ!)
殿鬼は悲痛な表情を浮かべて胸中で叫ぶが、そんな声が彼らに届くわけもなく――。
「後悔をさせてやるぞ、人間!」
四肢に力を込めて一気に地を蹴って走る『炎虎』に、身体がブレて見える程の速度で空から急襲する『賀鷺』に、その場でシギンを動けなくしようと『呪詛』を呟き始める『楼』。
妖魔ランク『9』に到達している『禁止区域』に生息する妖魔達――。
彼らは全員が雀の黄雀よりも強く、楼に至っては天狗の王連や江王門よりも強力な『呪詛』を放つ事を可能としており、それは相手を直接死に至らしめる程の『呪い』に匹敵する。
前時代の『最上位妖魔召士』や、同じこの『禁止区域』に生息するランク『9』の妖魔達であっても、この三体の妖魔に同時に襲い掛かられてしまえば、ひとたまりもなく一瞬でやられるだろう。
――しかし、彼らが襲い掛かった相手はランク『9』ではなく、妖魔神の神斗を相手に『魔』で圧倒し、同じく妖魔神である悟獄丸を屠ってみせたランク『10』の人間にして『妖魔召士』である。
シギンが何やら呟くと同時に楼の口が動かなくなり、空に居る賀鷺に『青い目』を向けると、そのまま賀鷺は地面に墜落してそのまま狙い定めたかの如く、地を蹴って襲い掛かってきていた炎虎の頭上近くに落ちていく。
いきなり空から自分に向かって落ちてきた賀鷺を躱そうと、本来の向かっていたルートを強引に避けて、衝突を避けた炎虎が再び人間の方を向こうとした瞬間、自分の体が思うように動かなくなったかと思えば全身に激痛が走る。
「ごっぁ――!」
炎虎が最期の声を上げると同時、空から地面に落ちてきた賀鷺と、遠くで呼吸が出来ずに窒息しながら横たわっていた楼の三体の妖魔達の全身が細切れにされて、そのまま同時に即死するのだった。
「襲ってくるのならば、私も遠慮はしないぞ」
殿鬼は目を見開いて顔見知りの者達の最期を見届けると、すぐさま両手で口元を押さえながら踵を返して全速力でその場から離れるのだった。
……
……
……
(あ、あああっ!!! た、たすけっ……! こ、ころさっ……! ころさっれるっ!! あ、あそこに居れば、お、俺も……、殺されるっ!!)
もはや鬼人族の長であった頃の傲慢な様子は見る影もなく、殿鬼は悲鳴を上げないように両手で必死に口元で押さえると、脇目もふらずに一目散に駆け出した。
しかし殿鬼は必死に逃げてはいるが、足音などは全く周囲に響かずに気配も隠し続けられている。
それはまるで狩猟者から見つからないようにと、自分に出来る最善を本能で理解しているような生物の動きだった。
――必死に駆けている間にも全身が粟立っている様子が、自分で感じられている。
あの男の視線が自分に向いていたらどうしよう、後を追って来ていたらどうしよう、という考えが頭を埋め尽くしており、彼は怖くて決して振り向く事が出来なかった――。
(は、早く、ど、どこでもいいから、か、かくっ、隠れられるっ、と、ところに!!)
全力疾走を続ける殿鬼だが、いつの間にか『禁止区域』にある森の奥の方にまできてしまう。
そして森の中、前方にある見知らぬ洞穴が目に入ると、彼は慌ててその穴の中へと必死に身を隠すように入っていくのであった。
……
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