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最強の魔王が異世界に転移したので冒険者ギルドに所属してみました。  作者: 羽海汐遠
妖魔山編

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1691.やれるだけやったと、本当に言えたのか

「お主らが思っている以上に、ここまで辿り着く人間の数は少ない。特にお主らが前回訪れた時に居た連中共は、その全員が並外れた力を有していたしな。未だにこうして記憶に残っておるのも不思議ではないと俺は考えている」


 確かにこの王琳の言う通り、あの時に居た面子は『妖魔召士』組織の歴史でも一、二を争う程の強力な『魔力』を持った黄金世代であった。


 あの時代に『シギン』という化け物じみた『魔』の『力』を有する存在がいたからこそ、妖魔召士の長はあっさりと決まったが、他の時代であれば幹部の誰が長になっていたとしても、全くおかしくはないといえる程の強者揃いであった。


 今の時代に生きる『最上位妖魔召士』達が、そのシギンの時代であれば『上位妖魔召士』でしかないという事実を省みても全くその話に誇張はないだろう。


「そうか。お前程の大妖魔の『妖狐』がワシらの事を覚えておったとは、非常に光栄な事だな……」


 コウエンは死ぬ前にもう一度、どうしても相まみえたかった『妖狐』が自分の事を覚えていたと知り、まず嬉しさがこみ上げたが、次の瞬間には衰えのせいで、戦闘の中で思うように動けずに敗北を喫した現状に後悔という感情に支配されてしまうのであった。


「本当に……、今日という日ほどにお主ら妖魔が、長寿でいつまでも変わらぬ強さを維持出来る種族を羨ましく思った事はないぞ」


 少し前にイダラマに言われた言葉が脳裏を過り、コウエンは心底苦しそうな表情を浮かべるのだった。


「……」


 王琳はコウエンの拳を握る手が震える様を、腕を組みながら見続けていた。そしてやがて王琳は、一度だけ何かを考えるように目を閉じると小さく息を吐いた。


「人間として生まれた以上は、そんな事を嘆いても仕方あるまい? お主とて人間としてその年まで生きてこられたのだ。生きて自由に動く事を可能とする時間を十全に活用してこられたと考えれば文句は言えまいよ」


「!?」


 今度は王琳の言葉を受けたコウエンが、言葉を噤む事となった。


「まぁ、お主にはお主なりの理由があってここに……。いや、俺に会いに来れなかったかもしれぬ。だがな? どんな理由があろうと、お主はお主の意思で今日までここに来なかったのだ。どんな理由があろうとお主は自分で動く足があり、自分の意思でいつでもここに来ようと思えば来られた筈だ。それをせずに今更戦闘を行えるピークを越えた年齢になってからきておいて、それを自分たち人間の寿命のせいにするのは違うだろう? 先程俺がお主に残念だと言ったのは、お主の寿命の短さ云々の問題ではなく、お主自身が俺よりも他の物事を優先して今日になって初めてここを訪れた事を残念だと言ったのだ」


 本当に会いたいと、俺と戦いたいと願ってここにきていたならば……――。


 ――俺はいつでもお前の相手をしてやった。


 自分の欲望を剥き出しに行動を示したイダラマと、何かと理由をつけてこの年齢になるまで欲望から目を背けて今更になって、この場を訪れたコウエン。


 イダラマは自分のやれる事を十全にやり遂げて失敗に終わったが、コウエンは一度辿り着いた自分の力の限界の領域から、時間だけを浪費して衰えた挙句に結果を出せずに終えた。


 ――どちらも結果だけを見れば、自分の欲望における大望を叶える事は出来なかった。


 しかし同じ後悔の念を抱く事になろうとも、その精神的に抱いたモノには、明らかな違いが生まれてしまう事だろう。


 結局は生を終える間際、往生する時にその生物がどう思えたか――。


 自分の出来る範囲で精一杯手を尽くして届かなければ諦めもつく。しかし届き得たかもしれないと思える時を一度は過ごしながら、結局は手を出さずに後になり、年齢や、他の理由を言い訳にして現実から目を背けて、後悔の形を歪に変えながら、自分自身を無理やり納得させようと惨めに宣う。


 当然、この今のこの瞬間を迎えたコウエンが、朗らかな気分のままで、あの時にああしていればよかったと言って、豪快に笑ってみせていたのであればまだよかった。


 しかし王琳の前で見せた表情とその言葉は、王琳という『妖狐』に対して失望を抱かせるには十分過ぎた。


 コウエンはここに来る前に今の王琳の言葉と、同様の事を他でもないイダラマから告げられた。


 ――『大望を成す為に妥協を行っていては、本当に必要なものは手に入らない』。


 好機が訪れたその時に必死に手を伸ばさなければ、本当に欲しいものを掴む事は出来ないのである。


 確かに辛抱強くこの時を待ち、ようやく願いが叶って『妖狐』自体に会う事は叶ったが、そのコウエンに全盛期の力がなければ何の意味も為さない。同じ大望であっても意味合いが異なるのだ。


 如何に理由があろうとも彼は自由に動かせる手足があり、本気で叶えたい願いと思っていたのであれば、いくらでも組織を抜けて自分一人でも『妖魔山』に赴き、この目の前の王琳に会えただろう。


 そしてその王琳が、全盛期の頃に『禁止区域』まで来ていれば、実際に相手をしてやっていたとこの場で告げた以上は、今のように年齢や衰えを言い訳にせずに遮二無二に行動をしていれば、違う結果があったかもしれない。


 ――結果ではなく、過程の話である。


 自分を納得出来るか出来ないか、そして諦観の末に妥協して失意に散るのか。


 手を震わせるコウエンを視界に捉えるその妖狐の目は、人間ではないというのにそのコウエンの気持ちを全て理解しているように細められて尚、瞳は大きく揺れていた。

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