1664.透過技法の研究の末
イダラマが先程行った宣言通り、彼の『透過』技法の術である『魔利薄過』によって、その影響にある間、全ての攻撃に対して『完全回避』と呼べる状態を作り出していた。
それは別世界に存在する『隠幕』といった、姿が完全に認識出来なくなるような『魔法』というわけではなく、彼に攻撃が行われる瞬間に、その『物理』攻撃や『魔』の攻撃に拘わらず、全ての影響を受けないように、一時的に外界と切り離されたかのような状態になるのである。
この世界に『理』が存在しているのならば、その『理』を生み出した存在の系統の『魔法』などによって、こういった『完全回避』に対抗する為の手立てや、反作用を含めた『魔』の対抗策が発展していたかもしれないが、この世界では『理』を生み出す『精霊』などの存在もなく、実際にこの世界では『魔利薄過』に対抗する術が限りなく乏しいといえるのだった。
そして何よりこの世界に生きる人間で唯一『魔力』を高める事の出来る『妖魔召士』ですら、その『透過』に関する知識は皆無と呼べる程に乏しい状況なのである。
それはイダラマ程の『最上位妖魔召士』と呼ばれる存在であっても、サイヨウやシギンといった卓越した『妖魔召士』の存在が傍に居なければ、ここまで『魔』の中にある技法である『透過』に着目し、実際に覚える為に着手しようとは考えなかっただろう。
それ程までに『透過』という『技法』に目を向けている者は少なく、他でもない人間ですらない『妖魔』の『神斗』が、その事を指摘する程の事なのであった。
だからこそ『神斗』は、人間の身でここまで『透過』の研究を進めて『完全回避』と呼べる程の成果を出せた事に可能性を見出して、改めてイダラマに興味を持ったのである。
――神斗はもうイダラマを山から下ろすつもりはないだろう。
『理』がなく『魔法』が存在しない世界では、この『透過』こそが戦闘において『魔』のあらゆる要素を含んだ上で左右する『技法』であるが、ここまでの『ノックス』の世界の歴史上で、人間が『透過』技法をここまで研究成果を進めた者は居ないのが現実である。
人間の歴史が短い大きな原因である『寿命』のせいで、今でも『妖魔召士』を含めた『魔』に携わる『ノックス』の世界の人間達は、目に映る『魔力』の高さや、その『魔力』を用いた『捉術』と呼ばれる攻撃手段に、目を向け続けている。
先人の教えを愚直に守り、攻撃手法と妖魔を倒す為の『威力』に、その意識を割きすぎているのも要因を担っているのだろうが、それ以上に妖魔に対して殺傷力の面であまり『透過』技法は影響を及ぼさないというのが、この『透過』技法に『妖魔召士』達が着手を行わない原因なのだろう。
同じ『妖魔召士』と戦う経験もないに等しい程に乏しく、主戦場となる『妖魔』との戦いにおいては、膨大な魔力を用いて『捉術』という妖魔を倒す手法が重要となるのである。
つまりそれ以外の要素に目を向ける寿命に余裕がない以上は、その『魔』という世界の大半を占める『妖魔召士』の『力』である『捉術』と基本値となる『魔力』を高める事が重要と考えている為、イダラマのような『魔』に対する『防御』を突き詰めて『魔利薄過』のような『透過』技法の研究成果を挙げる事は、とても稀有な例であるといえるのだった。
――そして神斗という『妖魔神』は、人間が長寿の種族ではないという事をよく知っている。
現時点ではこの『イダラマ』という人間が、その稀有な例を示した唯一の人間であり、その『魔』に関しての研究結果を示せる体力と知識を絞り出せる『適齢』は、神斗という妖魔から見た『イダラマ』という人間の肉体的な年齢を考えた場合、今が丁度ピークといえる『年齢』なのだった。
最早、イダラマという人間にこの先に残されている『時間』は、今の『魔』の『知識』とその身で扱う『体力』を少しでも長く維持する事が関の山と神斗は考える。
この先、イダラマと再び相まみえる事があったとしても、今の『イダラマ』よりも遥かに戦力値が落ちた状態で戦う事になるだろう。その時に今のように戦ったとしても、イダラマの『透過』技法は劣化している事は否めない。
――そうであるならば、妖魔神の『神斗』が今この『時』を逃す意味はない。
現時点での人間側が辿り着いた『魔』の『透過』技法の研究成果を、妖魔側の持ち得る『魔』の『透過』技法で迎えうつ。
同じ世界に生きる二種類しかいない『種族』。
互いに『魔』を扱う存在として、現時点で一体どれ程の差があるのか。それを『神斗』は推し量ろうというのが狙いなのであった。
――それこそが、神斗がイダラマに興味を持った理由にして、山から下ろすつもりがない理由でもあった。
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