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最強の魔王が異世界に転移したので冒険者ギルドに所属してみました。  作者: 羽海汐遠
妖魔山編

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1661.人生の目標

 イダラマの居た場所の地面から崖まで『神斗(こうと)』から放たれた『魔力波』によって真っすぐに抉れた状態が広がっており、最早見るも無残と呼べる凄惨な状況となっていた。そしてその場所に居た筈のイダラマの姿も見失い、アコウやウガマを含めた退魔士達も最悪のケースを想像するのだった。


 しかしもう勝負はついてしまったという予想をして、絶望する表情を浮かべている『アコウ』達とは裏腹に、神斗と悟獄丸(ごごくまる)の両名は今もまだイダラマの居た周囲近辺に視線を這わし続けていた。


 そして『神斗』と『悟獄丸』が同時に頭上を見上げると、直ぐにその場から後ろへと跳んで距離を取る。やがて『神斗』達が退いた直ぐ後に、空から高密度の『魔力波』が降り注ぐのだった。


 そのまま回避をして見せた『神斗』と『悟獄丸』は、空から無傷のままで降りてきて着地するイダラマの姿を視界に捉える。


「まさか今のでさえ躱されてしまうとは……。やはり、そんなに上手くは行かぬか」


 苦虫を噛み潰したかのような表情を浮かべながら、イダラマは静かにそう呟くのだった。


「いやいや、こっちこそ驚いたよ。君の元に攻撃が届く寸前に、君の『魔力』を感知出来なくなったからこそ、今の攻撃にも気づけたのだからね。まさか君のような人間の短い寿命で『透過』をそこまで使いこなせているとは思いもしなかった。先程の言葉を取り消すよ、君は『魔』に対する才能だけじゃなく、努力と実力もしっかりと伴っていた」


 その言葉にイダラマは隠し切れない嬉しさのようなモノが胸の内からこみ上げてきたようで、悔しそうな表情から一転するような表情を『妖魔神』達に見せるのだった。


 ――しかしイダラマは、この時にはまだ気づいていなかった。


 イダラマを褒めたたえるような言葉を告げた『神斗』の目が、先程までとは違い獲物を見つけたような目に変わっている事を――。


 だが、普段の冷静な時であれば気付けた事であっても、今この時において彼が気付けなかったのも無理はないといえる。


 イダラマは過去、ヒュウガと同様に『妖魔召士』としてなまじ『力』があるせいで、彼らより上に居る存在に目を向けざるを得なくなってしまった。それはつまり比較対象が自分より遥か上に居る『シギン』や『サイヨウ』に向いてしまったのである。


 彼は自分が『妖魔召士』としては、紛う事なき最上位の存在だと理解はしているが、それでも比較対象となる者達に比べれば圧倒的に『力』が足りておらず、また自分の今後の残された『寿命』ではいくら強くなろうとも追いつけないとまで悟った。


 それは差を推し量れる程の強さを身につけているからこそであるが、上に行けば上に行く程にその差というモノが嫌でも目に付いてくるのである。


 しかしそんな()()を抱いてしまった彼が、自分より上である『シギン』や『サイヨウ』たちのような、才能溢れる者達ですら討伐を諦めた『妖魔神』に、直接認められるような言葉を投げかけられたのである。


 そこにどういう意図があろうともイダラマは『妖魔神』に認められるような発言を受けた事で、その届かない者達と同列。いやこの瞬間においては『サイヨウ』や『シギン』達より、僅かながらに秀でた気になるのも仕方がないであろう。


 このイダラマはかつて、生きる目的といえる目標を『諦観』の末に、()()()()()()()()()という妥協点を定めた。


 それは当初、彼自身が『妖魔山』でランク『9』や『10』という領域に居る『妖魔』を自分の『式』とする事で『妖魔山』から再び『妖魔団の乱』のように人里へ下りてくるのを少しでも防ぎ、脅威を遠ざけようとする意味が含まれていた。


 だが、いつしかその目標は、強き者に認められるという意味のままではあるが、内実少しばかり意味合いが異なり始めていき、どこか自分本位となる意味が強まってしまっていた。


 勿論、彼の中では『ノックス』の世界に生きる者達を妖魔から守るという目標は大前提にあるが、彼が妥協せざるを得なくなった諦観の部分が、彼の精神部分に尾を引いてしまっているのだろう。


 だからこそ、こうして『神斗』に認められるような発言をされた事で、イダラマは『満悦』したのだった。


感慨(かんがい)一入(ひとしお)』という言葉があるが、自分の生涯の目標が達成されそうになったのだから、普段の冷静さが些か見られなくなったとしても、それは仕方がないだろう。


 皮肉な事ではあるが、妥協の末に定めた目標にこうして限りなく近づいた事で、彼は大前提となる目標を見失い、そのまま叶わぬ結果を招いてしまう事になるのであった――。

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