1657.ゲンロクの術と、イダラマの術の組み合わせ
まず、イダラマは左手で自らの本来の『魔力』を具現化すると、次に身体の周りに覆わせていた『術』で一時的に奪った『神斗』の『魔力』を右手に集約させる。
これだけでも『妖魔召士』と名乗る程のこの世界の『魔』の達人達であっても容易に行える『魔力コントロール』ではないが、イダラマがこれから行おうとする事に比べれば、ここまでは単なる児戯に等しい行いである。
イダラマの眼前では『神斗』が、頭上高くに『魔力』を凝固した高密度のエネルギーで出来た球体を生み出し始めている。
それは少しずつ大きくなっていくが、その速度はゆるやかであり、まるで何かを行おうとするイダラマを待っているかのようでもあった。
その期待を寄せる視線の先、イダラマは着々と準備を進めていく。
イダラマの目が『青い目』に変わると同時、その彼の視線は頭上高くにある『神斗』が生み出した『魔力』が凝縮された球体に注がれる。
そして次に右手にある『神斗』と同一の『魔力』と、視線の先にある『神斗』の『魔力』を完全に合致させるイメージをイダラマは作り出していく。
このイメージの重要なところは、すでにイダラマの右手に集約されている『神斗』の『魔力』を用いて、これからイダラマが扱う『術』に『神斗』自身が関与しているかの如く、成立させた『術』そのものに対して欺かせる事にある。
つまり分かりやすく言い換えると、イダラマがこれから使う『術』に対して、本来は無関係である筈の『神斗』ではあるが、その彼の『魔力』を用いる事で『術』に用いる契約に『神斗』自身の意志で合意させたのだと『術』に対して誤認させようというのである。
これ程までに面倒な手順を踏む必要性がある『術』だが、それはイダラマの編み出した術ではない。それどころかこの世界に居る『妖魔召士』、退魔組に属する『退魔士』達でも扱う事の出来る『術』である。
しかし術式さえ覚えれば『魔力』を持つ者であれば、誰でも扱える『術』ではあるのだが、その術式の手順通り以外に扱おうとするならば、体系的に非常に面倒この上なく、一から新たに『術』を生み出した方が早いと感じる程である。
だがこの『術』を一から生み出して、イダラマの『術』である相手の『魔力』を用いた『術』と組み合わせようとするのならば、更に年月を重ねなければならなくなる。それも成功率がどれくらいのものか予想が出来ない。
つまりは体系的に面倒であろうが、魔力コントロールを非常に要求されようが、この『ゲンロク』が編み出した優秀な術と、イダラマの相手の『魔力』を自在に扱えるようにする『術』を組み合わせる事が、一番効率よく安定が出来る唯一の方法なのであった。
更にこの『妖魔山』で格上にして、自身の『魔力値』を遥かに上回る『帝楽智』を相手に成功させたという前例が出来た以上、今更このゲンロクが編み出した契約紙帳を用いて妖魔と契約を行うという術を『半強制的』ではなく『強制的』に、更には契約をさせる事を無意識に強いるという脅威的な『術』を一から生み出す必要性はイダラマには感じられない。
そして『神斗』がイダラマを葬る為に『魔力』を用いた瞬間を見計らい、イダラマは狙い通りに全ての術式を展開する。
それは妖魔と契約を行う上で禁術と定めたゲンロクの『術』と、奪った『神斗』の『魔力』を用いる事を前提とするイダラマの『新術』である。
――この新術の効果目的は『神斗』という『妖魔』を強制的に自身の『式』にさせる事である。
トリガーとなるのは『式』にしたい妖魔が新たに『魔力』を用いた瞬間であり、相手が自分の『魔力』を展開している時に、イダラマもまた同一の妖魔の『魔力』を展開している必要がある。
そしてこの瞬間にイダラマは『ゲンロク』の『禁術』を発動させて、懐から契約紙帳を取り出して強引に『契約』を行うのだった。
「むっ!?」
「ほう……!」
イダラマの用意する次なる一手を引き出す為に、高密度の『魔力波』を球体に圧縮させて放つという、攻撃技法を行おうとしていた『神斗』は、その攻撃をイダラマに向けて放とうとした瞬間、まるで自分の意志を上書きされたような感覚に陥り、攻撃を行えなくなってしまい驚きの声をあげた。
そして『神斗』の珍しい声を聴いた『悟獄丸』もまた、嬉しそうに笑うのであった。
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