1656.人間に対する興味
「どうやら君の覆っている『魔力』を見るに、先程から感じていた事は勘違いではなく、紛う事なく私の『魔力』のようだ」
イダラマが『神斗』の『魔力』の感覚を確かめていると、他でもないその『神斗』からそう言葉を投げかけられて視線を上げた。
「流石にお主ら程の者達であれば、他者が扱う『魔力』であっても直ぐに気づけるか。その通りだよ『神斗』殿」
この世界では『漏出』といった『魔法』などは存在せず、また対象の『魔力』を推し量る技法もまた、この世界独自のモノであり、人間達であれば『妖魔召士』や一部の退魔士でしか感知が行えない。
それ程までに他者の纏う『魔力』を感知する事が難しい高度な『魔』の『技法』なのだが、どうやら当然のように『理』のない世界にして『妖魔』である『神斗』や『悟獄丸』は、イダラマの纏う『魔力』の正体を看破して『魔力感知』が行ったようである。
「それで君はそこから先に、何を用意しているというのかな?」
――薄く笑みを浮かべながらそう告げる『神斗』。
イダラマに対して鋭利な視線を向けたその瞬間に、恐ろしい程の圧がイダラマに圧し掛かるのであった。
『神斗』の言葉通り、ここから起こす行動こそが重要である。あくまで今のイダラマは『神斗』と同じ種類の『魔力』を得たに過ぎない。
『神斗』と同種の『魔力』を得たからといって、魔力値が増えたわけではない。あくまで本来のイダラマが使う『魔力』とは違う『魔力』を使えるようになっただけの事であり、その先に繋がる要素がなければ『妖魔神』の『魔力』と同種のモノを扱えたとて何の役にも立たない。
イダラマの他者の『魔力』を操る『術』などは、この世界のこの時代では確かに類を見ない技法ではあるが、この世界に『理』はなく『魔法』というものは存在していない。
ここが『リラリオ』や『アレルバレル』の世界といった『理』のある世界であれば、自身の扱う『魔力』と違った他者の『魔力』の種類に応じた『系統』の『魔法』で新たな展望を見出せるのだが、この『ノックス』の世界ではその『魔法』がないために、そういった方面で他者の『魔力』を得たからといって、イダラマの『術』を活かすことは出来ないのである。
――それを踏まえた上での『神斗』のイダラマに対する質問であった。
「さあ? 何を用意しているかを貴方自身が確かめて見てはどうだろうか?」
イダラマは『妖魔神』を前にして、普段通りの振舞いを崩さずにそう告げた。
そして二体の『妖魔神』は確かにこの瞬間に笑うのだった。
『神斗』と『悟獄丸』が同時に笑ったのには、イダラマの言動から『その先』を用意していると察したからではなかった。
何かがあるからこその、イダラマのこの『態度』ではあるのだろうが、そんな用意している『先の事』よりも、何かあると思うのならば確かめろと口にした、イダラマの『妖魔神』である自分達に対する態度そのものに新たな興味を示したのであった。
この『神斗』と『悟獄丸』が同時に抱いた感情は、ソフィのような長い年月を生きてきた『魔族』達でしか共感が出来ない事でもあった。
「いいね! 別に君がこの先に何も用意をしていなかったとしても失望はしないよ。それじゃ、先に答えを確かめてみようかな?」
そう言って『神斗』が今のイダラマが纏っている『魔力』と同一のモノ、というよりも本家本元の彼自身の『魔力』を体現させた時、ようやくイダラマは真剣な表情を浮かべ直して『神斗』の『魔力』に仕掛けを講じ始めるのだった。
どうやらイダラマが真にやりたい事とは、目の前の『神斗』が『魔力』を用いて先程のように、その『魔力』の矛先がイダラマに向けられた時、その真価を発揮するという事なのだろう。
つまり答え合わせをしようと発言を行った『神斗』が、イダラマを攻撃しようと『魔力』を展開する事こそが、イダラマの真の狙いだったようである。
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