1646.世代交代
この場でゲンロクから伝えられた調査の提案は『鬼人』達の縄張りに向かい、この場に居る鬼人の『百鬼』の同胞である『動忍鬼』の捜索、次に『ソフィ』と『ヌー』の目的である『エヴィ』という青髪の少年の捜索、そして最後に両組織間の目的である『禁止区域』の調査の三つの内容であった。
当然ソフィ達はこの事をすでにサカダイの町で聞かされていた為に、別段驚くような内容ではなかったが、エイジやゲンロク達にとっては当初の『禁止区域』の調査以外の内容が混じっている事に驚いたかもしれない。
そう考えてソフィはちらりとエイジ達の表情を窺ってみたが、元々ソフィ達の事情を知っている影響もあってか、どうやら驚いている様子もなく、また提案を反対するような意思も感じられなかった。
あの『妖魔退魔師』組織が妖魔である鬼人を連れているという事に少しだけ驚きはあったが、動忍鬼の一件をすでにソフィから『ケイノト』の裏路地で聞かされていた為に、エイジはそう言う事もあるかと納得をして見せた。
「そちらに異論がなければ、このまま我々の提案を呑んで動いてもらう事になるが構わないだろうか?」
腕を組みながら提案を告げたシゲンが確認を行うと、エイジが返答するために口を開いた。
「それで構わない。すでに『妖魔山』の管理を行う権利を有しているのはそちら側だ。我々はあくまでもそちらの調査に同行をするという立場で今回臨んでいるつもりだ」
少し前までのエイジは『妖魔山』の管理権を『妖魔退魔師』組織に譲り渡す事を認めず、ゲンロクの不始末さ加減に角を立てていたようだが、今回は冷静な様子で調査の同行に臨むと告げるのだった。
「そうか……。理解して頂いた事に感謝する」
そう告げる『妖魔退魔師』組織の総長であるシゲンと、隣に居る副総長のミスズの両名は、ともに『妖魔召士』組織の長であるエイジの目を見て真意を確かめる。しかしその目は両者ともに純粋なモノのように映り、発言に何か裏があるようにも見えなかった。
この世界に計り知れない程の影響力を持つ二大組織のトップ達である。その発言一つ一つにも気を配り、言葉通りの意味として受け取ってもいいのかどうか、それらを判断するのにも確かな『目』が必要となる。
代替わりを果たした『妖魔召士』組織だが、エイジは保守本流筋の守旧派の『妖魔召士』であり、組織の長としてもすでに貫禄が備わっている。
更には当時の『妖魔召士』組織の長であった隣に居るゲンロクに、妖魔退魔師組織との会合の最中に乱入して、決まりかけた案に待ったをかけた程の要注意人物である。
それを踏まえて『妖魔退魔師』組織のトップ達は、同行する仲間といえる『エイジ』に対しても真意を確かめる必要があるというわけであった。
「それでは、こちらの提案を呑んで頂けるという事ですので、改めて『妖魔山』の調査における道順等々の説明に入らせて頂きます」
新調したばかりの眼鏡をくいっと上げて、視線はエイジに固定させたまま、話の内容を深めるミスズであった。
静かに首を縦に振って同意を示すエイジだったが、その隣に居るゲンロクは眉をひそめていた。
(これから『妖魔』の巣窟に命がけで挑む調査を行おうというのに、こんな時にまで人類同士で腹の探り合いをせねばならぬとはな……。責任を取らねばならぬ立場同士であるとは分かっておるが、全くもって気が休まらぬ事よ。エイジには悪い事だが、わしはさっさと引退して正解じゃったな。もう今の若い者達にはついていけんわい)
これまでの両組織の内情をその内側から長く見てきたゲンロクだが、新たな局面を迎えつつある両組織間のやり取りを垣間見て、息が詰まって仕方ないとばかりに溜息を吐いた。
一応はまだ組織の相談役という立場に身を置くゲンロクだったが、このシゲンとミスズを相手にするという事を少し退いた場所から省みて、世代交代を果たして正解だったと、気力と体力の衰えを感じた瞬間でもあった。
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