1639.答えの出ない会議
コウヒョウの町からサカダイの町まで『高等移動呪文』で戻ってきたソフィ達だが、唐突に飛んできた事に多少の驚きは隠しきれない様子だったが、それでも門前を守っていた予備群はある程度慣れた様子で『一の門』を開けた後に頭を下げてソフィ達を中に入れてくれたのだった。
そんな部下達の様子を見ながら門の中に入った後、ヒノエはソフィに話しかけてくる。
「行きの飛行でもあんなに短時間でコウヒョウまで行けるっていうのに、ソフィ殿の『魔法』にかかれば一瞬だもんなぁ……。私達がどんだけ急いでも数日は要するっていうのに、本当にすげぇよ……」
コウヒョウに向かう時は『魔法』を会得する事を断念した様子のヒノエだが、今こうして話す言葉を聴く限り、少しだけ後悔している様子が見て取れるソフィだった。
「クックック、この『高等移動呪文』さえあれば、人里の用事などもあっという間に済ませられる上に、町や村から離れた場所に移り住もうとも不便さは一切なくなるからな。覚えておいて損はない『魔法』というか、覚えるなら出来るだけ早めに覚えた方がいい『魔法』といえるものだ」
そう説明するソフィの目は、ヒノエにその気があるならいつでも教えてやっても構わないと告げていた。
「全くソフィ殿はいつでも魅力的な提案を出してくるから困るよ。アンタと交渉事で私は絶対勝てないだろうなぁ」
苦笑いを浮かべながらもヒノエは、ソフィという男を改めて認めた様子でそう口にするのだった。
そしてソフィとヒノエが会話をしながらシゲンの元へ向かっていると、その途中にある部屋からミスズが出て来るのだった。
「副総長、ただいま戻りました」
「あら、ソフィ殿に、ヒノエ組長。おかえりなさい。思ったよりもずっと早かったですね」
「はい! 行きも帰りも感動の嵐でしたよ! 空からの景色はとんでもなくいいし、風は気持ちいいし! 帰りはあっという間だし、とんでもねぇ経験をさせてもらいました!」
「ふふっ、そうですか。私もソフィ殿に『魔法』で里まで向かわせて頂いた時は恥ずかしながら取り乱してしまいましたから気持ちはよく分かりますよ」
「でしょう! でも空から山や森、それに町を上空から見下ろす感覚はまた格別でしたよ! 鳥ってのはいつもあんな感覚で飛んでいるんでしょうねぇ!」
『ミスズ』はヒノエを羨ましそうに見つめると、小さくいいなぁと呟くのだった。
「と、すみません! 伝えておかなきゃいけない事があったんだった。副総長! このままシゲン総長に報告に向かいたいのでついてきてもらっていいですか?」
「何かコウヒョウの町であったんですね? 分かりました、直ぐにキョウカやスオウ組長達も集めますので、貴方とソフィ殿はこのままシゲン総長の部屋に向かっていて下さい」
「すみません、宜しくお願いします! ではソフィ殿、行きましょう!」
「うむ」
ヒノエが一人でどんどんと喋っていた為に、ソフィは一言も話す事が出来なかったが、去り際にミスズがソフィに感謝を伝える視線を送りながら頭を下げてきたため、ソフィも笑みを見せながら頷きで返すのだった。
……
……
……
「ふむ……。少し考えていた事とは違ったか」
ミスズ達がスオウとキョウカを連れて戻って来た後、ヒノエの報告を聞いたシゲンは静かに腕を組みながらそう口にするのだった。
そしてミスズも片手で口を覆うようにして思案を続けていたが、やがて彼女も口を開いた。
「あくまで私の憶測ではありますが、元々コウエン殿の一派はここを襲撃する予定はなく、イダラマ殿と『妖魔山』に向かう予定だったのではないでしょうか。しかしコウヒョウの町でコウエン殿がイダラマ殿達と合流を果たしたところに、例のヒュウガ一派のテツヤ殿とタケル殿に伝言を頼まれた『退魔組』の者達に、外で待機している同志達に事情を伝えられて、そのまま彼らの『同志』であった『コウエン』殿達に助けにくるようにと事情を伝えられた。そこでコウエン殿は仕方なく予定を変更し、サクジ殿達に『サカダイ』に向かわせた。そう考えれば『ライゾウ』殿と『フウギ』殿の言葉と、実際の状況も一致します」
「確かにうちへの襲撃に対しての辻褄は合うが、それならば何故『コウエン』殿だけが『コウヒョウ』の町に残ったのだ? それにヒノエの話では『コウヒョウ』で別の『妖魔召士』と揉め事を起こした挙句、その『妖魔召士』が『式』として放ったであろう『妖狐』と戦闘を行い、そのまま『妖魔山』の方へと向かったというではないか。それはどう説明をつける?」
「コウエン殿が自分の一派と仲違い、若しくは共に居るであろう『イダラマ』殿の一派との間でイザコザが生じたとかでしょうか? むしろそのイザコザが原因で自分だけが残らざるを得なくなり、サクジ殿達に救出を命じさせたのかもしれません」
「そういえば向こうの町で護衛隊長をしている『ウスイ』って奴の情報なんですが、妖魔召士が妖狐を使って騒ぎを起こす前、同じ時分に『コウヒョウ』の中央街の酒場でも死人が出る騒ぎがあったそうなんです。当然これも彼らの中で起きたイザコザが原因なのかもしれません。何にせよこれも推測に過ぎないんですがね」
ミスズの憶測を聴いた後、今度は実際にコウヒョウの町に出向いたヒノエが、ウスイからの情報を交えてこの場で説明するのだった。
捕縛していた例のヒュウガ一派からの情報や、ヒノエが入手してきた情報からの推測と、先程ミスズが出した憶測が絡み合い、結果を知らなければ答えが出ない話へと進んでいき、アレコレと言葉が飛び交っていたが、やがては場が無言に包まれてしまうのだった。
そしてそこに何時まで経っても戻ってこないソフィに痺れを切らしたのか、ヌーが部屋に入ってくる。
「そんなモン、ここでゴチャゴチャ言ってても結論が出ねぇのは当然だろうが、そもそもその場にエヴィが居たって言うなら、アイツが『妖魔召士』だかって人間共を操って『妖魔山』に向かわせたのかもしれねぇしな。そのイダラマって野郎が『妖魔山』に目的があったんだとしたら、魔瞳で人を操れるエヴィを利用して『妖魔山』に自分達が気付かれずに入る為に、コウエンとかいう奴らの一派を利用したのかもしれねぇぞ」
どうやら話を盗み聞いていたのだろうか、ヌーは新たに『エヴィ』という存在を口にして、魔瞳で操った可能性を口にするのだった。
「うむ……。あのエヴィがイダラマという者の言う事に素直に従うとは我には考えにくいが、元の世界に戻る方法などといったモノを交換条件でも提示されたのだとしたら、従う可能性は確かにあるな。我ら『魔族』の扱う魔瞳であれば、いくらでも他者にイザコザを起こさせたり、操ったりするのも思うが侭ではあるからな」
ヌーの言葉に乗っかるようにソフィがそう結論付けると、再び部屋に思案する顔が並び始めて、場は静寂が包まれるのだった。
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