1637.ヒノエの推察と、ソフィの考察
「本当にすみませんでした……」
護衛隊長の『ウスイ』は、そう言ってソフィとヒノエに飲み物を出した後に、再び深々と頭を下げた。
南門から入って直ぐの場所で露店巡りをしていたソフィ達だったが、そこにウスイが現れて何やら勘違いを働いた為に、ヒノエが手を出した事で揉め事だと勘違いした、見回り中の他の護衛隊達が隊長を助けようと現れた事で少々騒ぎが大きくなってしまい、視線を集めてしまった事で場所を移動しようという事になり、こうして町の中央にある予備群の護衛隊の詰め所にウスイの案内で場所を移動してきたのであった。
他の護衛隊の者達は隊長ウスイの弁解もあり、ソフィ達に謝罪をした後に、彼の代わりにコウヒョウの見回りに戻って行った。
「まぁ、お前がさっきぽろっと言っていた『妖狐』や、暴れた『妖魔召士』とやらの話を詳しく聞きたいと思っていたから丁度良かったんだけどよ、その前に一つ言っておく事がある」
「は、はい! 何でしょうか……」
本来であれば話どころか御目通りさえ叶わない、雲の上の存在であるヒノエ組長のその苛立った様子の声を聴いた予備群の護衛隊長ウスイは、ビクビクとしながらヒノエの次の言葉を待つのだった。
「ソフィ殿と私は遊びでコウヒョウまで来たわけじゃない。お前もここで護衛隊をやってるんだから、本部の特務から通達は届いてんだろう? 明日に私達は総長達と共に『妖魔山』の調査を行うんだ。それで私達は準備と下見を予て先に『コウヒョウ』入りをしたってわけだ!」
「は、ははぁっ! そ、そうだったのですね! 失礼な勘違いをしてしまい申し訳ありませんでしたぁっ! と、遠目から御拝見させて頂いた時に、あ、あまりにもヒノエ様がそちらの御方と、非常に楽しそうにしているところをお見掛けしたものですから、お忍びで逢瀬をしているの……ではっ……と」
「お前、いい加減にしねぇと承知しねぇぞ!」
「ひぃっ! 申し訳ありません!!」
空気を読まずに話をぶり返すウスイに、再び顔を赤らめたヒノエは刀に手を宛がうと声を張り上げて怒鳴るのだった。
「先程お主が口にしていた暴れていた『妖魔召士』というのは、コウエンという男なのではないか?」
このままヒノエとウスイを放っておくと、堂々巡りになりかねないと判断したソフィが、横から口を挟むのだった。
「え、い、いえ……、確かにコウエン殿の姿もありましたが、実際に暴れていた『妖魔召士』様は別に居まして、コウエン殿はその暴れている『妖魔召士』様を止めようと、使役されたと思わしき『妖狐』を連れて北の門より先の『妖魔山』付近の方へと向かわれたのです」
「そうなのか。では『サカダイ』の町に襲撃に現れた一派と、また別の『妖魔召士』達との間でイザコザがあったという事だろうか。それとも同じ一派同士で仲違いがあったというべきなのかもしれぬな」
「確かにソフィ殿の言う通りかもしれねぇな。本来は『サクジ』殿と共に『コウエン』殿達も私らの町に襲撃に向かおうとしていた。しかしそこで行動を共にしていた連中の誰かが意に反する行動を取った事で、それをコウエン殿が止める役割を担い、同じ一派のサクジ殿達に先にサカダイに向かわせたって考えるのが筋かもしれねぇ」
ヒノエは腕を組みながらソフィの推察した内容に、一つの仮説を加えながらそう口にするのだった。
ソフィやヒノエは元より、この町の護衛隊として派遣された『ウスイ』達も『イダラマ』の策によって『エヴィ』の魔瞳で『妖魔召士』が操られていたという事を知らぬ以上、ヒノエの仮説に異を唱える事は誰も出来なかった。
「それで『妖狐』だったか? その妖魔召士が使役したという『妖魔』を止めに向かったという『コウエン』とやらはこの町には戻ってこなかったのだろうか?」
「はい……。あの方角の先には『妖魔山』以外に何もありません。まず間違いなく『コウエン』殿は『妖魔山』に向かったと思われますが、この町に戻ってこない以上はどうなったのか我々にも分からないのです」
ソフィの質問に答えたウスイの言葉に、ソフィとヒノエは顔を見合わせる。
それはつまり、コウエンという男はその『妖狐』に後れをとってやられてしまったか。はたまた、妖魔山の中で別の何者かにやられてしまったかという事が考えられるのだった。
その別の何者かとは、当然に山に生息『妖魔』の存在もあるが、それ以外にも思い当たる者達が『ソフィ』や『ヒノエ』の頭の中に存在する。
――その者達とは、ソフィの探し求める『エヴィ』の存在と、サカダイの町から向かったとされる『イダラマ』達であった。
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