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最強の魔王が異世界に転移したので冒険者ギルドに所属してみました。  作者: 羽海汐遠
妖魔山編

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1633.ヒノエの願望と決断

 現在ソフィはヒノエを抱えながら空の上を移動している。


 普段よりも速度はそこまで出ておらず、あまり高度を上げているわけでもない為、もしここが『アレルバレル』の『魔界』の上空なのであれば、敵から索敵され放題の攻撃され放題となる。まさに危険な移動状態となるのだが、この世界であればそう易々と攻撃はされないだろうという判断から、ソフィはヒノエの願望を叶えてあげる事を優先したのであった。


 そんなソフィがヒノエの顔に視線を向けると、彼女は目をキラキラとさせながら首を振って、視界に入る景色を楽しんでいるようであった。


『サカダイ』の上空から出発してからまだ僅かな時間しか経ってはいないが、それでも徒歩で歩いていく事に比べたら断然に早く、また全く敵に襲われる心配もない為、まさに平和な遊覧飛行の空の旅といえる状況であった。


 現在ソフィ達が居る場所は、コウゾウやシグレ達が警備を行っていた『旅籠町』を通り過ぎた湿地帯の空の上であった。


 ここから見える範囲に町などは全く見えないが、それでも広がる森や山の景色、空を移動する際の風を切って移動する感覚はどれもヒノエにとっては新鮮なもので、道中ずっと感動しっ放しであった。


「本当にすげぇよ、ソフィ殿! あの森も抜けるには私達でも何度か休憩を取って進まなきゃいけねぇところなのに、空の上からだとひとっ飛びだ! ははっ、本当にソフィ殿達はすげぇよなぁ。いいなぁ、羨ましいなぁ!」


 当初こそヒノエは空の上を移動するという事で多少の緊張もあったようだが、今はその緊張感も完全に消え去ったようで、満面の笑みを浮かべながらソフィに抱かれる形で景色を空から眺めて、そしてソフィとの談笑を心いくまで楽しんでいるようであった。


 そんな感動を噛みしめているヒノエを見て、ソフィも嬉しそうであった。


 だが、そんな嬉しそうな表情をしていたヒノエだが、唐突に真面目な表情へと変えるのだった。


「なぁ、ソフィ殿? 私も自分だけで飛べるようにならないかな?」


 何となくソフィはヒノエと共に空を飛ぶ事になれば、そう言うだろうなと予想はしていた。


「む……」


 ソフィの口から何と答えようかと悩むような声が漏れ出るのだった。


 本来ならば飛ぶ為に必要な事を何も知らぬ人間が、自分の力だけで空を飛ぶ事は不可能と言い切ってもいいのだが、ソフィから見てこの腕の中に居る『ヒノエ』や、妖魔退魔師達。それにエイジ達のような妖魔召士達であれば、空を飛ぶ為にとある訓練を行う事で飛ぶ事自体は可能だろうと考えたのだ。


 空を飛ぶのに必要な事といえば、大まかに『精霊』などが生み出す『(ことわり)』の『風魔法』の知識と、その『(ことわり)』を用いる『魔力』。その『魔力』によって生み出した浮力を利用して、自分の身体を浮き上がらせる為に必要な『魔力コントロール』が必須となる。


 精霊達の『(ことわり)』が存在する『リラリオ』の世界であっても、空に浮かぶだけでも『ニーア』程の魔法使いが持つ『魔力』や『(ことわり)』の知識が必要であり、出会った頃のニーアの『魔力コントロール』では浮き上がる事は出来ても、今のソフィのように自由自在に空を飛ぶ事は不可能である為、本来ならばヒノエが今から覚えようとしても直ぐに可能だと口に出来ないのが実状なのであった。


 しかしここまでソフィが悩むのには理由があり、ヒノエが扱う『魔力コントロール』の観点だけでいえば、ニーアの『魔力コントロール』の比ではなく、ヒノエは『風魔法』の知識を少し学べば空に浮き上がるどころか、直ぐに自在に空を飛べるようになる可能性があるのだった。


 ――何故なら、ヒノエは空を飛ぶ事などと比較にもならない『青』を纏える程の『魔力コントロール』をすでに得ている為であった。


 そしてこれはヒノエだけではなく、自在に『青』を纏えるこの世界の『妖魔退魔師』達であれば、全員が間違いなく空を飛ぶことは可能である。


 もちろん『妖魔召士』側にしても『風の精霊』達の生み出した『(ことわり)』の知識を学ぶ必要はあるが、そちらも問題なく『妖魔召士』達程の『魔力』と『魔力コントロール』があれば、あっさりと空を飛ぶ事が可能となるであろう。


 つまりヒノエがこの世界でやるべき仕事を投げ打ってでも、空を本気で飛びたいと願うのであれば、ソフィ達の居る世界の『(ことわり)』や、リラリオの世界の『精霊』達の『(ことわり)』や『魔法』の知識を学び会得のために研鑽を積めば、数年もあればあっさりと今のソフィの速度くらいであれば、空を自在に飛べるようになると断言出来た。


 だが、実際にヒノエ達が、別世界へ向かわせられるかと問われてしまえば、まず不可能だろう。彼女達は自分達だけで自由に動ける冒険者というわけでもなく、妖魔退魔師組織に在籍する隊士であり、それも部下達を束ねる『組長』という立場に居る者である。そんな彼女に数年程、別世界に渡り一から時間を掛けて『(ことわり)』を学べと告げたところで、直ぐに頷ける話ではないであろう。


 下手に希望を持たせる事で混乱させて、今ある暮らしを変えさせるわけにはいかない。ソフィはそう考えて答えを出し渋ったというわけである。


 もし、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。というのであれば、ソフィはヒノエを単に空を飛べるようにさせるだけではなく、今の状態からでも『転移』や、大魔王領域達が扱う『()()()()』までを数十年の間に習得させられる自信を持っているが、現実にはそんなわけにもいかないだろう。


 類まれなる資質を持っているヒノエに、これだけの期待に満ちた目を見せられてしまうと、返答に窮するソフィであった。


「も、申し訳ない、ソフィ殿! ちょっとした好奇心というか、単なる思いつきで申しただけなんだ! 忘れてくれ!」


 ソフィが答え方に悩んでいると察したヒノエは、慌ててさっきの質問は無しにしてくれと告げるのだった。


「そうか……。では結論だけお主に伝えよう。お主が全てを投げ打ってでも覚える気があるのならば、我が責任を以てお主を飛べるようにしてやる。だが、それはお主がこの世界から離れる事が前提となる為、お主にそこまでの覚悟があればの話だ」


 ヒノエはソフィの言葉に目を大きく見開いて喜ぶ素振りを見せたのだが、そこから困ったような笑みに変わっていき、やがてゆっくりと口を開いた。


「……ソフィ殿、真面目に答えてくれて感謝する。そっか、私でも飛ぼうと思えば飛べるんだな」


()()()()()()()?」


 空の上、ソフィの手に抱かれているヒノエは、そのソフィの言葉に直ぐ首を横に振った。


「私はシゲン総長の居るこの世界から離れる事は出来ねぇ。私はシゲン総長に心からの忠誠を誓っているからな。だから、私でも空を飛べる可能性があったんだと知れた、それだけで大満足だ! 本当にありがとうソフィ殿!」


 そう言ってヒノエは嬉しそうに笑い、そして自分を抱いてくれているソフィの手を強く握った。


「アンタと話していると、どんな悩みもぶっ飛んじまう。もし、シゲン総長に出会う前にアンタと先に会ってたら、私は迷うことなくアンタについて行ったよ!」


 少しだけ顔を赤らめながら、ヒノエは笑みを浮かべてソフィにそう告げるのだった――。

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