1622.イダラマと帝楽智のやり取り
「な、何を馬鹿な事を申しておる! こ、この妾が主といつ契約を果たしたというのだ!」
イダラマに自身の『式』とされたと告げられた『帝楽智』は、動揺を隠せずにその場で激昂するのだった。
「こ、この人間がぁっ! デタラメを口にしよって!」
そして激怒しているのは張本人である『帝楽智』だけではなく、その『帝楽智』を種族の頭領とする『天狗』達もイダラマ達に向けて口々に怒号を発したかと思えば、何やらイダラマに向けて殺意を向けてくるのだった。
流石にその殺意に気づかないイダラマではなく、天狗の一体が『呪詛』を呟き始めたのを確認すると、直ぐに身を守る為の行動に出る。
「帝楽智よ、今すぐに『その天狗を黙らせろ』」
次の瞬間、イダラマに呪詛の攻撃を行おうとしていた天狗より先に、更なる『魔力』を伴った『帝楽智』の呪詛によって、天狗は白目を剥いてその場で気を失うのだった。
「なっ!?」
無意識に同胞を気絶させた事に『帝楽智』自身が驚きの声をあげるのだった。
「よく聞け『帝楽智』に『天狗』共よ、この私の編み出した『術』は、強制的に『妖魔』を支配下に置く事を可能とする。その手順や方法などをわざわざ教えるつもりは毛頭ないが、その効果を他でもない自身の目で目の当たりにした事で私の言っている事が本当だと理解が出来たであろう? まだ納得が出来ないというのであれば、いくらでも攻撃を続けるがよい。しかしその時にお主らは後悔する事になるだろうな、誰でもない『天魔』と呼ばれた天狗の首領が自らの種族を滅ぼす事になるのだから……」
「ま、待て! 待ってくれ! そ、それだけは頼むからやめてくれ!」
どうやら『帝楽智』は、目の前の人間と本当に『式』契約を結ばれたのだと信じたようで、慌ててそんな命令を下すのはやめろと告げるのだった。
自分達の長である『帝楽智』が信じた事で、他の天狗達もまだ半信半疑ではあるが、一応は信じる事にしたようであった。
「お主も『妖魔召士』の『式』契約の事は存じているであろう? この私が如何に憎かろうとも『契約』に背くような行いをすれば、直ちにお主には自決してもらう。そしてこの場に居る『天狗』の誰かが私達を狙ってきた場合も同様に、私は『帝楽智』が指示を出したのだと判断する。つまりその場合もお主には死んでもらう事になるが、その前にお主には『同胞』を皆殺しにしてもらうことになる。その事を努々忘れるな」
「くっ……!!」
一度『妖魔召士』と『契約』が行われてしまえば、どのような『力』をもっていようとも『式』にされた『妖魔』側は、逆らうことは出来ない。
『ゲンロク』が組織の長の時代、彼の組織する『退魔組』の『特別退魔士』である『タクシン』が『動忍鬼』を相手に『式』契約が結ばれた後、彼女は逆らう事が出来ずに何年も奴隷のように扱われた。
その時の『禁術』とイダラマが今現在使った『術』は全く異なる『術』ではあるが、その契約の内容は同一のものであるため、最早『天狗』達は『イダラマ』に逆らえなくなったという事である。
無論、この直接の契約を行っている『帝楽智』以外の『天狗』達が、決起して種族が滅びる事を厭わずに死ぬ気で襲い掛かってくるのであれば『イダラマ』を攻撃する事は可能であろうが、確実に『イダラマ』を仕留めきる事が出来なければ、待つのは間違いなくその『イダラマ』から命令を受けた『帝楽智』によっての大規模な同族殺しであろう。
そんな限りなく成功確率の低い博打を打つ覚悟が『天狗』達にあるかは分からないが、少なくとも『天魔』と呼ばれる程の頭脳明晰にして高ランクの『天狗』は、そのような馬鹿な真似を配下達にさせないだろう。
――それを踏まえた上で、イダラマは更に言葉を続ける。
「我々の目的はあくまでもこの先の『禁止区域』だ。黙って主らがこのまま通してくれるというのであれば、お主や天狗の縄張りには手を出さぬと約束しよう。主らには今まで通りに振るまってもらって構わぬ」
「ほ、本当だな……?」
念を押すように『帝楽智』がそう呟くと、何かを思いついたようにイダラマは口角を吊り上げた。
「ああ……、やはり一つだけお主らにはやってもらいたい事がある。我々と同じ『妖魔召士』や『妖魔退魔師』といった人間や、その人間達と行動を共にしている者達が、近日中にこの妖魔山まで来るやもしれぬ。そいつらの目的は私と同様に『妖魔山』の『禁止区域』の調査であろうが、それを主らは全力で止めろ。別に殺さずともよいが、そやつらが我々の向かう山の頂、つまり我々が言うところの『禁止区域』に向かう事を止めてもらおうか?」
少しの間、何かを考えるような素振りをみせた『帝楽智』だが、やがて首を縦に振って頷いて見せた。
「……分かった。詰まるところ大勢の人間達が、この後にまだこの『妖魔山』に来るというのだな? 事情は分からぬがこの『妖魔山』に人間はあまり立ち入らぬから、そんな連中が入ってくれば直ぐに分かるだろう。そやつらを止めればいいだけだというのであれば従うと約束しよう。だからさっさとこの中腹から離れて、山の頂上なり『禁止区域』なりに向かうがよい!」
――心底嫌そうにそう告げる天狗の頭領である『帝楽智』であった。
「ふふふっ! お主のそんな態度を見るのは存外に気分が良いものだ。よし、では契約に基づいて私の命令に従ってもらう。それでは後を頼んだぞ、天狗の魔王『天魔』殿?」
「くぅっ……!!」
「ハハハハッ! 待たせたな、コウエン殿にお前達。どうやら山の天狗達は快く私達を見送ってくれるそうだ。その素晴らしい心意気に応えて『禁止区域』へ向かおうではないか!」
「主は何と……、恐ろしい奴じゃ」
先程までのやり取りを傍で見ていた『コウエン』が静かにそう告げるが、その前を歩いていくイダラマにやがては素直についていくのであった。
そして唇から血が出る程に噛みしめながら悔しそうに、笑いながら去って行く『イダラマ』達の後ろ姿を見届ける『天魔』と呼ばれた天狗の魔王の『帝楽智』であった――。
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