1618.迫りくる帝楽智の魔力波
「愚か者めが、散るがよい!」
『帝楽智』の右手の先、紫色の光が発光されていく。
『魔族』や『妖魔召士』が使う『魔力波』と同じモノが発射されるのだろうが、その禍々しさは『魔王』達の使うものより些か上であった。
そして、どんっ! という音と共に、波動砲と呼ぶに相応しい程の『魔力波』が『帝楽智』から放たれた――。
『帝楽智』の妖魔ランクは、この妖魔山でも比較が難しい領域であるランク『9』に達している。
ランク『9』の存在の強さは、ランク『8』から『8.5』の存在の者達ともまた比較にもならない。
ランク『6』から『7』、そしてランク『7』から『8』に壁があるとされているが、ランク『8』や『8.5』と『9』の間にはそれ以上の壁があった――。
『天狗』の頭領たる『帝楽智』はかつて『天魔』と呼ばれた天狗界の『魔王』である。
一つの種族を導いていく『存在』として『妖魔山』の中腹を縄張りとして座しているが、彼女が『頭領』としての立場になかった、かつての『ノックス』の世界では、彼女もまた『禁止区域』に身を寄せていた存在であった。
ランク『9』の存在である『天魔』の『帝楽智』が放った『魔力波』は、所詮ランクが『8』程度しかないイダラマの『耐魔力』で決して耐えられるモノではない。
――だが、それは無抵抗であったならばの話である。
『帝楽智』の『魔力波』グングンと迫ってくるのを見ていたイダラマは、これまでに見せた事のない表情を浮かべると、恐ろしい速度で手印を結び始めていく。
すでに『結界』は用意しているが、ランク『9』に至る『天魔』の攻撃を『結界』程度で受けきる事はまず不可能。
つまり『帝楽智』の攻撃に対して生存を目指すのであれば、この後のイダラマの取る行動に全てが掛かっている。
傍から見ていたコウエンや、妖魔召士の『同志』達は、誰もがイダラマの死を予感させた。
いくら『最上位妖魔召士』であっても、あれは駄目だ、耐え得るわけがない――。
ランク『8』から『8.5』に至るコウエンや、ランク『6』の同志の妖魔召士達。
――この『ノックス』の世界の住人にして、その『力』がある側の存在である彼らが、諦観の念を抱く程の『帝楽智』の一撃であった。
「『魔』とは無限の可能性を秘めている。この『魔』とはいくつもの応用、運用、適用方法、幾多数多の行使法が存在するのだ! 攻撃を行う事や受けるだけで『魔』の概念が定まらないという事を、誰でもないこの『イダラマ』が証明してみせようではないかっ!!」
――僧全捉術、『鏡魔姿移』
何とあの恐ろしく早い速度の『帝楽智』の『魔力波』が迫りくる中で、焦ることもなくいつも通りに手印を結んだ『イダラマ』は冷静に『魔』を用いた一つの『僧全捉術』を行使すると、彼の分身と呼んでも差し支えない程に彼自身によく似た『イダラマ』が出現を始める。
「な、なんじゃあ!?」
突然にイダラマが二人に増えた事で、コウエンは驚きの声をあげた。そしてそれは周囲に居るイダラマの護衛や同志、それに『帝楽智』も同様に驚いてる様子であった。
そしてイダラマは無事に『術』が成功したのを見届けると同時、直ぐに再び手印を結び始めていく。どうやら分身を作り出す事が目的ではなく、この後に起こす事象こそが本当の目的のようである。
「何をしようとしておるのか分からぬが、何をしようともう遅いわぁっ!」
『帝楽智』が空から叫んだ通り、すでに『魔力波』は最初に張っていた『イダラマ』の『結界』に迫る程に接近しており、そのまま作り出した分身ごと術を施そうとしている本体をも貫いてしまう事だろう。
誰もがイダラマのやろうとしている事が間に合わないと感じており、アコウとウガマ、それに他の退魔士の護衛達も身代わりになろうと必死にイダラマの元に向かって駆け抜けて行くのだった。
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