1617.帝楽智の思い
「イダラマっ! 流石にこの状況で『帝楽智』を相手にするのは分が悪い! そもそもが小僧の目的は『転置宝玉』なだけでお主の『同志』というわけでもあるまい! 先日の話はお主にもした筈じゃ、ここは良い機会だと思って小僧を捨ておくが吉じゃ!」
先程の『帝楽智』と『イダラマ』のやり取りを聞いていたコウエンは、自分達だけであれば『帝楽智』は見逃してこのまま進ませてくれるのだろうと判断して、自分達を殺してでも『転置宝玉』を奪い取ると宣言までしてみせた『エヴィ』を身を挺して庇う必要はないと諭すコウエンであった。
「ふふっ、そう結論を急く必要もあるまいて、コウエン殿」
「な、何?」
「出来ることならば、これから私が行う事は『禁止区域』まで取っておくつもりだったが、まぁ『天魔』と呼ばれた『帝楽智』に用いるのならば、そこまで悪い話ではあるまい」
「ど、どういう事じゃ?」
何を言っているのか全く理解が出来ないコウエンは、イダラマを訝しむように見つめながら疑問の声をあげるのだった。
「コウエン殿、申し訳ないがこれから私の行動に対して何も行わずに静観を果たして欲しい。必ず良き方向へ向かわせると約束する」
そう告げるイダラマは、すでに視線をコウエンから頭上に居る『帝楽智』へと向き直っていた。
何故なら、その視線の先に居る『天魔』と呼ばれていた天狗の頭領たる『帝楽智』が、イダラマ達に向けて膨大な『魔力』を持たせた『魔力波』を放つ直前となっていたからであった。
(い、一体イダラマは何を考えておるのだ!? あやつが防御を行うために張っているであろう『結界』は確かに相当なモノでワシらの『魔力波』であっても一度くらいならば無傷で済ませられる程と察するが、それでも相手はあの『天魔』と呼ばれた『帝楽智』なのだぞ? 四天王と呼ばれたワシらであっても『帝楽智』の攻撃をまともに正面から受けるなど死んでも御免だというのに……)
イダラマが何をするのか未だにその全貌を明らかに出来ないが、どうやら『帝楽智』の攻撃から意識を失っている『エヴィ』を守る為に、あの目を背けたくなる程の『魔力』が込められた一撃を受けきろうとしているという事だけは理解が出来るコウエンだった。
「全く、何を考えておるのか分からぬ。この妾は確かにお主らに生き残る道を示してやったというのに、この場を離れるどころか、あろうことかこの妾の攻撃を受けようとするとはな……」
『帝楽智』は眼下で『結界』を施しながら尚、両手に『魔力』を集約させているイダラマを見て小さく溜息を吐くのだった。
この世界に突如として現れた『魔族』である『エヴィ』の事はよく分かっていない『帝楽智』だったが、赤い狩衣を着てこの場に立っている『人間』の事は嫌という程に理解している。
昔から幾人もこの世に生まれ出る『妖魔召士』という存在は、決して人間だからと侮っていい存在ではなく、彼女の『同胞』である『天狗』だけではなく、他の種族の『妖魔』達もまた『式』と呼ばれる『妖魔召士』達が扱う『術』によって契約を施されて使役されたりしているという事も。
――この『帝楽智』はそんな『妖魔召士』と呼ばれる人間の中でも『サイヨウ』という、たった一人の人間の精神を認めるに至り、彼女はあろうことかその人間に自身の『術』や天狗の『心得』、更には彼女自身が所有していた『天狗』の宝衣具なども譲り渡したりもした。
その時のことがあるからこそ彼女は、こうして自分の縄張りといえる山の中腹に乗り込んできた『妖魔召士』達に対して寛容に扱ったのである。
だが、どうやらその気遣いも無碍にされたようで、眼下に居る『妖魔召士』はこの『帝楽智』に対して刃向かおうと戦闘態勢を取っている。
流石に『人間』がそこまで嫌いではない『帝楽智』であっても、自分の同胞を殺めた『存在』と、その『存在』を庇おうとする『人間』まで見逃そうとは思わない。
『帝楽智』の周囲を覆っている『青』のオーラが鮮やかな『瑠璃』の色に輝き始めると、これまでよりも尚『魔力』が高まっていく――。
――どうやら『帝楽智』は『仇敵』を一掃しようと、その有している『力』を用いようと本気になったようであった。
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