1611.エヴィの呪い
「ふん、よく分からぬ面妖な術を使う小僧だったが、所詮は相手の力を推し量れぬ半端者だったか」
『座汀虚』はエヴィの落ちて行く首を見ながら勝ち誇るようにそう告げると、視線を下に居る『イダラマ』達に向け直すのだった。
「お、おい! 本当に良かったのか、イダラマ!?」
こうなる前に手を差し伸べていればエヴィの命は助かっただろうに、そのまま助けに行く事もせずに『結界』の範囲を広げるに留まったイダラマに、コウエンはこれまでのイダラマの態度を省みたが、どうにもその彼のエヴィに対する扱いにちぐはぐさを覚えてしまい、眉を顰めて疑問を抱くのだった。
「全くコウエン殿は心配性ですな。先程も私は何も問題はない筈だと、そう申した筈でしょうに……」
だが、信じられない程に落ち着いた様子を見せるイダラマは、エヴィの首が地面に落ちたところをみても、全く動じる様子もなく、むしろエヴィを心配するような言葉を掛けたコウエンに対して、溜息を吐きながらそう返すのだった。
「い、いや、しかしだな……!」
コウエンは『同志』の『妖魔召士』と顔を見合わせながら、未だに本当によかったのかと焦る様子を見せたが、イダラマは更にそこで口を開くのだった。
「今いちど思い出してくださいよ、コウエン殿。この今の状況、何か思い当たる節はありませぬか?」
イダラマはそう告げると同時、地面に落ちたエヴィの首を一瞥する。
そしてそのイダラマに釣られるようにコウエンもエヴィの方に視線を向ける。
「むっ……!」
何かに思い当たったようで、コウエンはハッとした表情を浮かべると共に、声が口から漏れ出るのであった。
その様子にイダラマも首を縦に振って、正解だと暗に告げるのだった。
――そうなのである。
今のこのエヴィの状況とは、コウヒョウの町で『コウエン』が同じようにエヴィに対して『捉術』を放った時と瓜二つの状況なのであった――。
だからこそ『イダラマ』は何度も見てきた光景に、一切の慌てる様子を見せずに粛々と『結界』を張ったのであった。
そして頭上で勝ち誇っている様子の『座汀虚』もまた、急激に殺した筈の『存在』の『魔力』が膨大になっていく異変に気付き、イダラマ達を見ていた視線をその『存在』に向け始める。
更に首だけとなったエヴィの目が唐突に見開かれると同時、恐ろしい重圧が『座汀虚』を襲う。
「な、何だこれは……!?」
――それは『エヴィ』が放った『特異』の『力』だった。
エヴィが『死』と同等の苦痛を味わった時や、実際に『死』を体感した時に発動する彼特有の『金色の体現者』としての『力』である。
本来は敵や味方を問わずに、その場に居る全ての存在を対象に、彼が受けた苦痛と同等の苦しみや激痛を与えるという性質を持つ『力』ではあるのだが、エヴィ自身の『魔力値』を上回る者には『重圧』が圧し掛かっているという程度の効力しか齎さない……――、筈だったが。
「ぐっ!?」
突如として『座汀虚』は、自身に想像を絶する程の激痛が襲い始める。
何とエヴィよりも遥かに『魔力値』が高い筈の『座汀虚』だが、そのエヴィの『特異』の効力が、彼の『耐魔力』を完全に貫通して発揮されている様子であった。
――先程、エヴィは自身の扱う『力』の一つにして、相手の『耐魔力』を一般人以下にする事の出来る呪いを『座汀虚』に対して行使していたのであった。
大魔王『エヴィ』はこれまでの長い年月で自分の扱う『力』を隅々まで研究しており、自分に出来る事を最大限に有効活用するための戦闘での戦い方を熟知し、更には理解を終えている。
もちろんにこの結果を未来視したわけでも、予知を行ったわけでもない。
だが、自分の行う戦闘によって、その行く末である結果において、必ずこういう展開になるであろうという予測は出来ており、その予測を確立させるための行動指針といえる相手の誘導や、自分の行う攻撃手段の取捨選択など、幾度となく『九大魔王』として戦い続けてきた経験によって、予測が予見と呼んでも差し支えない程までに昇華しているといえた。
魔族『エヴィ』は、魔族『ソフィ』に認められし、たった『九体』しかいない『大魔王』なのである。
相手が自分より格上であろうが、そうでなかろうが、自分の出せる『力』をその最大限と呼べるところまで発揮させて活用し、戦闘を行う事を可能とする。
たとえその結果が力及ばずに敗れてしまおうとも、彼は戦闘手順に際しての後悔は限りなく『0』に等しい。
やれる事を十全にこなし、命が失われる最期の時まで決して諦観の念を抱かず、出来る事をやり遂げる。
そんな恐ろしい『九大魔王』にして、大魔王ソフィの忠実なる配下は、ゆっくりと首だけとなった目で『座汀虚』の様子を見上げると、同時に口角を吊り上げて笑みを作るのであった――。
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