1599.魔力吸収の地の更なる進化
「お主は『アレルバレル』や『リラリオ』の世界以外の『理』を用いた『魔法』なども使えるのだろう?」
「あ? ああ……、まぁな。だが、それが一体どうした?」
「この『結界』に我の知らぬ世界の『魔法』を使ってみてくれぬか?」
その言葉にヌーは、疑念の視線をソフィに向けるのだった。
先程ソフィは耐久性を調べるわけではないと告げたが、それでもこの『魔力吸収の地』は相手の『魔力』を吸い取り、更にはヌーの予想ではこの『魔力吸収の地』は相手の使用した『魔』の『力』をそっくりそのまま『アレルバレル』の世界の『理』に置換して、術者と同規模の威力にして返すだろうと考えている。
つまりヌーにしてみれば、自分に犠牲になってくれとばかりに、ソフィが頼んで来たのではないかと考えたのであった。
「て、てめぇ……! 正気か!?」
「むっ? 我は何かおかしな事を口にしただろうか?」
しかし何も悪びれる様子もなく、ソフィは首を傾げるのみである。
「旦那……。ヌーの奴は自分に怪我を負わせるつもりなのかと言っているんですよ」
「ああ、そういう事であったか。すまぬ、これは我の言葉が足らなかったようだ」
本当に分かっていなかったようで、ヌーは大きく溜息を吐くのだった。
(ちっ! そういえばコイツはこういう奴だった。心底ムカつくが、この俺を一切脅威だと感じていやがらねぇって事を再確認したぜ……)
表向きは『魔法』の進化の検証を行うと言っておきながら、事故に見せかけて彼に手傷を負わせようと策略を練っているのかと考えたが、わざわざソフィがそんな事をする理由が全くないという事に思い至るのであった。
すでにヌーは『魔神級』と呼ばれる領域の中であっても、中から上の間に到達している。
同じ『魔神級』の領域に居る『魔族』であっても、ここまでの強さとなった以上は、このヌーにいつ寝首を掻かれるか分からないと意識をするものだ。
しかしこれが大魔王ソフィともなれば、今のヌーの強さであっても何一つ恐れを感じるどころか、彼の中ではまだ路傍に転がるいくつもある石の中で少しだけ、大きく見えるだけの石に過ぎない。
その事を理解して舌打ちをするヌーであった。
「知らねぇ世界の『理』の『魔法』がご所望だったな? いいだろう……! そんだけ見てぇなら、嫌という程見せてやるよ!!」
どうやらヌーは、ソフィの中では自分などまだまだ子どものような扱いなのだと、明確に理解をした事で少しだけヤケっぱちになったようであった。
だが、それでも自分の矜持を強く持つヌーは、ソフィのそのままの言葉に従わず、それなりに驚かせてやろうと『殲滅』を目的とするような『極大魔法』を選ぶのであった。
『ヨールゲルバ』の世界にある『理』から『極大魔法』。
――神域魔法、『揺煌三河口』。
ヌーの『スタック』された『魔力』が僅かに光を放つと同時、その効力が発揮される寸前に忽然と光ごとヌーの『魔力』が消失し、次にソフィの『魔力吸収の地』が紫色の光が眩く訓練場を照らし始める。
――次の瞬間。
腕を組んで眺めているソフィの前で、展開された『結界』である『魔力吸収の地』から『アレルバレル』の世界の『理』に再構築された、一つの『魔法』の『発動羅列』が浮かび上がっていく。
そして次に魔法陣が出現した後、自動的に高速回転を始めるのだった。
『――』(揺煌三河口)
唐突に魔法陣のあった場所から炎が具現化されたかと思うと、そのまま細長く燃え広がり始めていき、真っすぐにヌーの元に向かうのではなく、部屋を覆い囲おうとするかの如く四隅の方に導火線が広がっていく。
更にその炎が部屋を包囲し終えると同時に、回転するようにその細長い炎がヌーに向かって飛び掛かっていくのだった。
更にそのままヌーを襲うのではなく、上、真っすぐ、下と三つのその細長い炎が道となって、ヌーの場所が目指すべきゴールだといわんばかりに繋がっていくのだった。
そしてまさにヌーを目指す三つの河口から、導火線が辿り着こうと燃え広がる速度が早まり、徐々に炎が大きく広がってそのままヌーを覆い隠さんとした時だった――。
――唐突にソフィの目が『金色』に輝き、一瞬の間に四翼の黒い羽を生やした姿となった。
そのまま流れるように右手をヌーの方に向けると、右手をぐっと何かを掴むように握りしめる。
その瞬間にヌーだけを守るように、彼の周囲だけを恐ろしい風が通り過ぎていき、一斉にその三つの筋道を通って進んでいた炎は風に誘導されるがの如く、クルクルとヌーの頭上高くで竜巻のように渦を巻き続けている状態で固定される。
どうやらソフィはヌーを守ろうとして、当初の目的であった『四翼』の戦闘特化の形態になり、ヌーに向かっていった『揺煌三河口』の筋道を強引に風で逸らそうとしたのだが、そこで予想外の事が起きる。
それはソフィが『四翼』の姿になった事で、更に『魔力吸収の地』はソフィの膨大な『魔力』に呼応してしまったようである。
「「!?」」
次の瞬間にはその固定されていた炎が、まるで自分の意思を持ったかの如く、ソフィの影響下から抜け出そうと足掻くように、ヌーの頭上から『揺煌三河口』の炎の渦が、この部屋に居る生物ごと焼き尽くそうと広がり始めていくのであった――。
『ブックマークの登録』や『いいね』また、ページの一番下から『評価点』を付けていただけると作者のモチベーションが上がります。宜しければお願いします!




