1597.ミスズの許可
その頃『サカダイ』の町にある『妖魔退魔師』組織の建物の中、ソフィ達は宛がわれた部屋の中で『シゲン』達の報告を待っていた。
前回、この『サカダイ』の町に襲撃に現れた前時代の『妖魔召士』達は、ソフィの手によって全員が消滅させられたが、その襲撃を行った『守旧派』のリーダーであった筈の『コウエン』の姿がなかった事で、もしかすると前回の襲撃は囮でまた別の襲撃があるかもしれないとシゲン達は考えた。
状況を重く見た『シゲン』は『妖魔山』の調査を先送りにして、この『守旧派』の襲撃に参加しなかった主だった者達や、サクジ達と行動を共にしていたと思われる『コウエン』の捜索を主とする対策本部を立ち上げたのであった。
すでに全国各地の町に派遣されている護衛の『予備群』達に向けて通達を出している。
この世界は『アレルバレル』や『リラリオ』の世界とは違い、この大陸の面積もそこまでたいして広いわけでない。
それでも今しばらくは待たなくてはならないだろうが、当代の『妖魔退魔師』組織の隊士は、前時代の『妖魔召士』組織を上回る規模に膨れ上がっているため、通達が全国に滞りなく伝われば『コウエン』の足取りなどを掴む事もそこまで難しくはなくなるだろう。
待っている間にソフィは自身の『魔法』に変化があった事を思い出して、どう変わったのかを確かめようと考えるのであった。
その場でゆっくりとソフィが立ち上がると、ヌーやセルバスが直ぐに視線をソフィに向け始めた。
「旦那、何処か行くんですか?」
「むっ? ああ、ここに戻ってきた時に少し気になった事があってな……」
「何が気になったんだ……?」
ソフィが気になったことがあると口にすると、ヌーは一層目を鋭くさせるのだった。
「前回、ここの『牢』の前に我は新たに『結界』を張ったであろう?」
「それは『死の結界』の事だな?」
「お主らはそう呼んでいたな。その新たな『結界』の方なのだが、ここに戻ってきたときに我は襲撃を行った『妖魔召士』の『同志』とやらに対して、その『結界』と同等のものを張ったのだ」
「それはお前が『逆転移』を用いて呼び寄せた時の事だな?」
ヌーはソフィが『妖魔退魔師』達の仲間を蘇らせた時に、この本部内に呼び寄せた人間達の事を思い出してそう口にするのだった。
「うむ。そういえばお主らもその場にいたのだったな。あの時奴らは我の張った『結界』の中でミスズ殿に向けて『捉術』とやらを放ち、そのまま自分の『魔』の『力』によって自滅しておっただろう?」
「ああ……、確かにな」
どうやらソフィがこの事を話す前からヌーは気になっていたらしく、直ぐに当時の出来事の場面を思い描きなが
ら相槌を打つのであった。
「まだ確かめて見なければ、実際にこう変わったのだと口にする事は出来ぬが、どうやら我が思っていた以上に今度の『結界』は我の『魔力』に左右されて変貌を遂げるようでな。今後の事を考えて色々と把握しておかねばと思ったのだ」
「成程な……。もうてめぇが何をしても驚かねぇ自信はあるが、それでも何が出来やがるのか確認はしておきたい。悪いが、俺も行動を共にさせてもらうぞ」
「だ、旦那! お、俺もお願いします!」
「うむ……。だが、流石にここで試すわけにもいかぬし、一度ミスズ殿に何処か空いている部屋はないか聞いてくるとしようか」
ソフィがそう言うと他の者達も一様に頷いて見せるのであった。
……
……
……
そしてソフィ達は忙しそうに自室で行っているミスズの元を訪ねると、直ぐに笑みを見せながら部屋に入れてくれるのだった。
「どうなされましたか? もしかすると『妖魔山』の調査の件でしょうか? 申し訳ありません、それでしたらまだ明確に件の『妖魔召士』の情報は入ってはきておらず……」
「ああ。その事ではないのだ、ミスズ殿」
『妖魔山』に居るであろう彼の仲間の安否が気に掛かり、山の調査を催促しにきたのだろうと考えたミスズが、勘違いをしたまま捲し立てるように言い訳の言葉を並べようとしたが、そこでソフィは待ったをかけるのだった。
「我は少し自分の『魔法』を確かめたくてな。それで出来れば前回の訓練場などのような広い場所を借りたいと思ってミスズ殿を頼ったのだ」
「ほう……? ソフィ殿の『魔法』の検証ですか。それでしたら『特務』の訓練場をお使い下さい! 前回の場所はまだ使用が出来る状態ではないですが、あの施設内には他にも訓練場はございますのでご安心下さい」
「かたじけない、ミスズ殿」
快く許可を出してくれたミスズにソフィが礼を述べながら頭を下げようとしたが、ミスズは慌ててそれを制止して口を開いた。
「ソフィ殿! 遠慮はご無用です。貴方はもう単なる『妖魔退魔師』組織の客分という立場ではなく、我々の組織の総長である『シゲン』殿の客分なのです。出来れば今回のように一言お声を掛けて頂ければ助かりますが、いつでもご遠慮なくお使い頂いて構いませんよ」
ミスズはそう言ってソフィ達に、柔らかい笑顔を向けるのだった。
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