1594.エヴィが九大魔王たる所以
※加筆修正を行いました。
コウエンが強引に話を打ち切った後、明日に備えて全員がエヴィのように横になり始めた。
ここもすでに『妖魔山』の中なのだが、まだ中腹にすら至っていない麓から少しだけ登った場所であるため、まだまだそこまで警戒が必要な程の場所ではない。
そもそもが『妖魔召士』組織の下部組織であった『退魔組』の『特別退魔士』というコウエン達から見れば、有象無象のいち退魔士程度が警備を行っていたところなのだから、そこまで危険性がないというのも当然ではある。
そんな場所で夜を明かすために寝静まった時刻、ふとコウエンは目を開いた。
他の者を起こさぬようにコウエンは、身体を起こした後にゆっくりと歩き始めた。
ちらりと横になって目を閉じている『イダラマ』の姿を一瞥するが、どうやら浅い眠りではあるようだが、目を覚ます様子はなく意識もなさそうであった。
当然にここでコウエンが『魔力』を灯したり、殺意や殺気を抱いた瞬間に即座に『イダラマ』はコンマ数秒で戦闘態勢に入れるだけの訓練は積んでいるだろうが、このまま単に横を歩くくらいであれば問題はなさそうであった。
(こんな状態であっても『結界』は起きている時と同様に、寸分の狂いもなく維持されている。それも単なる人除けの『結界』だけではなく、敵からの攻撃にある程度備えられる程の『結界』のようだ。ワシがある程度本気で放つ『魔力波』でも一度くらいならば弾いて見せるじゃろうな……)
コウエンは小さく溜息を吐いた。
(これだけの『結界』をワシらと合流する前から常に張り続けておったとするならば、こんな浅い眠りだけでは『魔力』が最大値まで戻る事はないじゃろう。こんな事を何日も続けておるというのであれば、こやつの抱く大望とやらの執着は生半可なモノではないらしいな)
こんな状態のイダラマでさえ、あの蔵屋敷の中では『上位妖魔召士』であった『同志』を見事に操りきってみせて、更には『四天王』と呼ばれた前時代の『最上位妖魔召士』の『コウエン』すらも退けたのである。
コウエンはこの時、静かに寝息を立てている『イダラマ』の抱く野望の大きさを再確認し、それだけではなく『イダラマ』に『妖魔召士』として完全に上を行かれているのだと、自覚を持つに至るのであった。
そしてコウエンが『結界』の張られているギリギリの範囲まで歩いて行き、その『結界』外に妖魔達が居ないかを探ろうと『結界』の周囲を見渡そうと顔をあげた時だった。
そこにはいち早く寝静まった筈の『エヴィ』が、月明りに照らされながら岩の上に座って、こちらを眺めていたのであった。
「こ、小僧か……。お、お主、起きておったのか……」
寝起きだからそう感じたのだろうか。コウエンはいつもの飄々としている少年の姿ではなく、全くの別人がそこに居るような感覚を味わうのだった。
「ここがどういうところなのか、これまでもイダラマからは話を聞いてはいたけれど、実際に入ってすぐに気付いたよ」
そう話すエヴィに何か強い違和感を感じた『コウエン』だが、その正体が分からずに黙って彼の言葉に耳を傾ける。
「この方角の先、あの山の先に居る存在が、今もじっとこっちを確認するように見ているね。僕らがこのままこの先へ向かい、あの存在が居る場所に近づけば、まず間違いなくここに居る大半の者は死ぬ。君やイダラマであってもそれは例外じゃない。というより下手をすれば僕もやばいかもしれない」
そう告げるエヴィの見据える視線の先、そこは確かに彼の言う通りに危険な存在が居る。
――その場所こそが、彼ら『妖魔召士』達が定めた『妖魔山』の『禁止区域』が在る場所であった。
「驚いたな……。これだけ離れた場所でも奴らの事を感じ取れたというのか」
再びエヴィは視線をコウエンに向けると、彼の言葉に返事をせず、そのままじっと何かを試すような視線を向け続けるのだった。
そして瞬きもせずに視線をコウエンに向けたまま、ふいに彼の口だけが動いた。
「僕自身が死ぬ事は何も怖くはないけれど、この身をソフィ様の許可なく失う事が何よりも怖いんだ。だから、僕はこの命が失われるだろうと判断した時点で、悪いけど君達を皆殺しにして『転置宝玉』を奪うね?」
――それは大魔王エヴィによる、コウエン達に向けた唐突な賊害宣言だった。
「お主……、自分が何を言っているのか分かって口にしておるのか? 図に乗るなよ小僧。前回は上手くお主にしてやられる結果を招いたが、何度もあんな手がワシに通用すると思う……っ、――!?」
前時代で『四天王』と呼ばれていた『最上位妖魔召士』である『コウエン』は、エヴィの目を見て、唐突に言葉が発せなくなり、そして無意識に身体に震えが走るのだった。
「通用するとかしないとか、そういう話じゃないんだ。僕が殺すって決めた以上は君達は必ず死ぬよ? 君やイダラマ達がどれだけ強かろうが、そんな事は関係がないんだ。君達の息の根を止める事なんて如何に容易い事なのか、その時がきたら教えてあげるから楽しみにしてなよ」
そう告げるエヴィの目は、月明りに負けない程に『金色』に光り輝いていた――。
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