1590.イダラマ達の山を登る途中
そしてソフィ達より先に『妖魔山』へと目指して向かっていた『イダラマ』は、その『妖魔山』を登っている途中で足を止めた。
イダラマは自分の『結界』の影響下に居る『エヴィ』達ではなく、共に向かいながらも『イダラマ』の『結界』ではなく、独自の『結界』を張りながら進んでいた『コウエン』に視線を向けた。
その視線を受けたコウエンは、イダラマに軽く頷きを見せるのだった。
「いきなり立ち止まってどうしたのさ? さっさと先を急ごうよ!」
「ああ……。だが、しかし麒麟児よ、ここから先は『鬼人』達が縄張りとする領域となり、その先から中腹にかけては次々と厄介な『妖魔』達が連続して現れる筈だ。今後の為にここらで休憩を取っておきたい。少し先に元々『退魔組』の連中が任務で訪れていた駐留地点があった筈だ。今日はひとまずそこを我らが『結界』を用いて使わせてもらおう」
「ええ!? この山に入ってまだ全然進んでいないじゃないか! さっさとてっぺんまで登っちゃおうよ! もう面倒だから、僕が空を飛んで君達を運んであげるよ!」
中途半端なところで休憩を取ろうと言い出したイダラマに不満をもったようで、危険な『妖魔山』の中を自分が空飛んで運ぶと言い出したエヴィであった。
「カッカッカ! 小僧よ、そんな事をすればワシらは『妖魔』共に蜂の巣にされるぞ? それに小僧は山を登りはじめたところだと申したが、実際はここまでくるのにもワシらでなければ、細心の注意を払いながら更なる時間が掛かっておるところだったのだ。それをこの短時間でここまできたのだから、一度ここは休憩を取って、そこからまた万全を喫した状態で上へ向かおうではないか? 焦っては事を仕損じるという言葉もあるじゃろうて」
この世界の実力者たちが揃って休もうと口にした以上、護衛の役割を担う上で『転置宝玉』を貰うと約束したエヴィとしては、不承不承ながらも従わざるを得ない。
「分かったよ……。でもここまで大した連中はいなかったんだし、別にこんなところで休まずにもっと奥で休めばいいのに……」
ブツブツと不満を垂れ流すエヴィに、苦笑いを浮かべるイダラマ達であった。
しかし『イダラマ』と『コウエン』が、ここで休憩を挟もうとしたのには理由があった。
それは先程『サカダイ』の町の方面から想像を絶する『魔力』を彼らが感知したからであった。
――そして、その『魔力』の正体は、何を隠そう大魔王『ソフィ』のものであった。
元々、イダラマは『ケイノト』にソフィが居た時点で、すでに面倒な存在が居ると認識はしていた。
しかし今回の膨大な『魔力』を感知した事で、この『ケイノト』の町の面倒な存在が『サカダイ』の町に移動して、その場所でも力を示したのだろうと確信していた。
そしてようやく今回、コウエンも『サカダイ』の町で『魔神域』の領域『魔法』を展開したソフィの『魔力』と『存在』というモノを理解したコウエンは、イダラマと『サカダイ』に向かった『同志』達の事について話をしたいと考えたのである。
それこそが先程の交わせた視線の意味なのであった――。
このまま『妖魔山』を更に上へと登ってしまえば、彼らとてどんどんと話をする余裕もなくなってくる。
現時点で互いの持っている情報の擦り合わせを行うのであれば、ここで休む事が一番だと考えたのであった。
山の麓からはだいぶ登ってきたイダラマ達一行だが、それでもまだここは『退魔組』の『特別退魔士』達でもまだまだ訪れる事が可能な領域区分であり、この『妖魔山』の全体からみれば入り口付近といえる場所であった。
しかし先程イダラマがエヴィに向けた言葉に嘘はなく、ここから先からが『退魔組』の退魔士連中では荷が重く感じる『鬼人』達の縄張りに入っていき、そして更にその先からは『天狗』や『鵺』といった存在が姿を現す事も珍しくなくなる所謂『妖魔山』の中腹地点となるのであった。
『退魔組』の『特別退魔士』達が使っていた駐留場所なだけはあり、一通り辺りを見回した『イダラマ』は直ぐに『結界』を新たに張る地点を見つけて、効率よく自分達の存在を限りなく認識されなくなるように設置に成功するのであった。
かつてはこの場所で『退魔組』達の『結界』も存在はしていたのだが、かつてのイザコザで『サテツ』がイバキ達の代わりに任務でここを見張っていた『特別退魔士』達を呼び戻した事で、いつしかこの場所の『結界』もなくなって本来の『妖魔山』の自然にかえった状態となっていたようであった。
イダラマや『最上位妖魔召士』と呼ばれる者達であれば、たとえそのような魔力の残滓であっても直ぐに見つける事を可能とするため、この場所に『結界』を張る事を決めたのであった。




