1589.総長シゲンの客分
「もしソフィ殿がコウエン殿をも倒していたならば話は早いのだが、何かの拍子にコウエン殿だけが作戦から外れて、万が一にもサクジ殿達だけが襲撃を行ったのであれば、今度は襲撃の結果を聞いたコウエン殿が、新たに我々『妖魔退魔師』組織に報復の襲撃を行う可能性も出て来るのだ」
その場合は『同志』の救出を目的に襲撃を起こしたサクジ達とは違い、今度は明確に『妖魔退魔師』を狙って襲撃を行ってくるであろう。
もし、妖魔退魔師を狙っての襲撃ともなれば、被害の規模が異なってくる。
本部内に侵入して中に居る仲間を助け出して外に出る事を目的とした場合と、最初から妖魔退魔師を襲う事を目的として手傷を負わせたり、実際に命を狙って殺める事を目的とするとなると、当然に違いが生じるのは明白だからである。
それもその襲撃の旗頭となるのが、今度こそ『コウエン』だったとするのであれば、前時代の『妖魔召士』組織の『最上位妖魔召士』が現れる事となるため、悠長にゲンロク達と『妖魔山』の調査のための会合などを起こしている場合ではなくなってしまう。
何時攻めてくるか分からない『コウエン』達のための対策本部を建て直さなくてはならなくなり、一番の目的である『妖魔山』の『禁止区域』の調査が先送りになる可能性が高くなるのであった。
「俺達『妖魔退魔師』としても『妖魔山』の調査は何を差し置いても優先したい内容ではあるが、この『コウエン』殿とサクジ殿との関係性を考慮し、少しの間は調査を保留として全国に居る『妖魔退魔師』組織に所属している人間に『コウエン』殿の居場所を探るように命令を出そうと思っている。ソフィ殿達には迷惑をかける事となるが、こちらもすでに襲撃が実際に行われているため、どうか分かって頂きたい」
ソフィ達に同行を願い出たのは『妖魔退魔師』組織側からであり、他ならぬシゲン総長からであったために、自分達の都合でソフィ達の時間を拘束しなければならなくなった事を謝罪する意味を込めて、この場で深々と頭を下げるのだった。
「シゲン殿、頭を上げてくれ。我達とて『妖魔山』に入るにはお主らの組織の許可が居る立場なのだ。互いに持ちつ持たれつの関係なのだから、そのように畏まる必要は全くないぞ」
ソフィは偽らならざる本音を口にすると、シゲンに頭をあげてくれと告げるのだった。
「本当にすまぬな、ソフィ殿。ではこれから『コウエン』殿とその一派を見た者は居ないか、可及的速やかに全国に居る『予備群』達に伝令を送る。それまでは迷惑をかけるが、この町で今しばらく逗留して欲しい。部下達にもこの本部内や『サカダイ』で当面、ソフィ殿達をこの総長『シゲン』の直接の『客分』として扱うように伝えておこう」
最後の一言は『シゲン』なりの気遣いであった――。
これまでもソフィやヌー達は、妖魔退魔師組織の客分扱いのために、比較的自由ではあったが、少しばかり制限めいたものも当然ながら存在していた。
だが、今回の話し合いでシゲンが口にした、彼自身の客分として扱うと明言した事で『妖魔退魔師』組織の総長が責任を以て預かる身となった。
つまり一時的ではあってもソフィ達は、この組織の中において、幾許かの制限を解除された上で、それなりの幹部に居る隊士や、組織における出来事についても、ある程度の口出しが可能となったのである。
そしてそれは言葉通りの単なる口出しに過ぎないものではなく、総長シゲンの『客分』という効力が付随するためにソフィの口出しに反論を行う事は、総長シゲンの横入りを意味するモノとなるのである。
つまり今回の自分達の都合による、ソフィ達の時間の拘束をそれだけシゲンは組織の長として重く見ているという事を表していたのであった。
「お主の気持ちは伝わった。元より我達はお主らの準備が整うまで従うつもりではあったのだが、お主の気遣いを有難く受け入れさせてもらう。感謝するぞ、シゲン殿」
そしてソフィもまた『シゲン』の言いたい事を十分に理解した上で、その扱いを有難く受け入れるのであった。
『ブックマークの登録』や『いいね』また、ページの一番下から『評価点』を付けていただけると作者のモチベーションが上がります。宜しければお願いします!




