1574.イツキの覚悟
「確かに突然このような事を聞かされては、戸惑うのも仕方のない事ですね。では順を追って話をさせて頂きますが、まず貴方がそこに居られる『退魔組』に居た者達を解放する代わりに貴方は、この場に残る事を選択しましたね? そしてその本来の目的が、別の牢に居る『ヒュウガ』殿の報復の為だった」
ミスズに淡々と告げられる言葉に、イツキは舌打ちをしながらも頷いて見せるのだった。この事をこの場で知らなかったヤエだけが、驚いた表情を浮かべていた。
「しかし我々もそれを認める事は当然ながら出来ません。それに貴方もそちらの方々から色々と聞かされたでしょうが、今回我々『妖魔退魔師』組織の本部に『妖魔召士』の襲撃がありましてね。色々とその原因の調査を進めるに際し、この本部に来て頂いている『妖魔召士』組織の『ゲンロク』殿の元に『ヒュウガ』殿の身柄を渡す事が決定したのです」
「ゲンロクの爺さんがここに来ていやがるのかよ……」
「はい。現在、我々の組織と『ゲンロク』殿の『妖魔召士』組織とは色々と複雑な状況ではありますが『妖魔山』の調査を共同で行うという合意の元、停戦状態にあります。そしてその戦争状態の発端となったといえる『ヒュウガ』殿とその一派の起こした出来事の数々をこちら側の組織の協議の結果、やはり『妖魔召士』組織に引き渡す事が筋だという事で結論が一致しました」
(まぁそれは当然の事だろうな。しかし筋が通っていても、これまで些末なイザコザでさえ、少しでも利益を得ようと考えていたあちらさんの副総長や総長が、あっさりとヒュウガの野郎の身柄を引き渡すとは思えねぇ。何か裏があると見て間違いないだろうな)
考えすぎだと言われればそれまでだが、これくらい慎重に考えてようやく丁度いいと考えられるのが『妖魔召士』組織と対をなす二大組織の『妖魔退魔師』組織なのである。
当然にイツキもそれを理解しているために、この場でミスズが話す内容に嘘や偽りがないとは思いつつ、全ての言葉をそのまま鵜呑みにはせず、話半分で納得するに留めるのであった。
「そこで『ヒュウガ』殿に対して恨みを抱いておられる貴方にとっては、引き渡しが確定した今、もうこの『牢』に留まる理由もなくなりますでしょう? そこでシゲン総長は貴方をここで遊ばせておくくらいであれば、貴方の力を是非今回の『妖魔山』の調査に加えたいと仰られたので、私が貴方にその旨を伝えに来た次第です」
ミスズ副総長の伝える内容自体は理解が出来るというものだが、イツキに対するその一方的な決めつけには納得が出来なかった。
(俺も安く見られたものだ。まぁ、あんな化け物が組織の総長を務めてやがる以上、俺なんか程度の扱いはこんなモノなのかもしれねぇが、俺がヒュウガの野郎に対する恨みまで、勝手に決めつけられるのは気にくわねぇな)
そしてイツキがミスズの通達に対して、やんわりと断りの言葉を返そうと口を開きかけた時、更に被せるようにミスズがその言葉を遮るように口を開き被せる。
「ヌー殿も強くなる為ならば、目先だけの事に囚われずに色々と行動しろと申されておりましたよ。私も若輩の身ながら、自身の経験を踏まえるとヌー殿の言葉は長い目で見れば正しい事かと思われます」
自分より齢が下であろうミスズの言葉と、あの大層に見下してきた大魔王ヌーを思い出した事で衝動的に怒鳴りかけたイツキだが、すんでのところで言葉を呑み込んだ。
「……分かった。但し、ここに居るユウゲは何があろうと俺についてこようとするだろう。俺はそれを止める気もないし、連れて行くとなれば俺はこいつらを優先して守ろうとするが、それでも構わないか?」
「それは構いませんよ。では明確に言葉にして頂きたいのですが、貴方は我々の『妖魔山』の『禁止区域』の調査に協力して頂けますね?」
「ああ……。協力する」
ミスズは軽く目を閉じて小さく息を吐いた。
「結構。それでは『牢』を出て私について来てください」
ミスズがキリっとした表情でそう告げると鍵のかかってすらいない『牢』の扉を開いた後、踵を返して部屋を出て行くのであった。
「と、とんでもない事になりましたね、イツキ様……」
「勝手に決めちまったが、構わなかったか?」
「は、はい……。私は構いませんが……」
そこでユウゲはちらりと自分に寄り添うように、ぴったりとくっついているヤエの方を見る。
「も、もちろん私もユウゲ様についていきます!」
その言葉にイツキも覚悟を決めたようで、最後に溜息を吐きながら『牢』から身体を外へと出すのであった。
しかしそこでイツキは静かに振り返って、再びユウゲの顔を見る。
「?」
ぽかんとその視線の主であるイツキを見上げるユウゲだった――。
「――ミヤジの事を伝えるの忘れてた」
……
……
……
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