1569.大魔王ソフィは逃亡者たちを捕捉する
ソフィがこの町全体に向けて放った『救済』の規模は凄まじく、発動に必要な膨大な『魔力』は『妖魔召士』達でも類を見ないといえる程であった。
それもその筈、現在のソフィは戦闘特化形態ではないにしろ、あの『金色』と『青』の『二色の併用』状態の『イツキ』とやり合える程の『魔力』を有している状態である。
――そして遂にその『救済』の効果が、生命が失われている『妖魔退魔師』を対象者に発動されていく。
…………
「こ、これは!?」
「あ、あれ? 俺は確かに……」
次々と『妖魔』や『妖魔召士』と戦い、戦死していった『予備群』や『妖魔退魔師衆』達が目を覚ましていく。
死まではいかずとも致命傷を負って動けなくなっていた、数多くの者達も完治した状態で起き上がるのだった。
本部前で懸命に戦った『特務』のタツミ、それに本部内で激闘を繰り広げたナギリやカヤも意識を取り戻す。
――まさに神の如く『救済』が、ソフィの『魔法』によって行われた瞬間であった。
外で身を隠して物陰から様子を窺っていた『ミヤジ』は絶命をしていた人間が、唐突に目を覚まして起き上がっていく姿をその目で見た事で、目を丸くしながら腰を抜かして地面に崩れ落ちてしまう。
慌てて建物の隅へと這うように逃げながら、こっそりと震え始めるのだった。
(な、何なんだ、何が起きたっていうんだ!? いきなり町全体に太陽みたいな眩しい光が発されたかと思えば、倒れていた連中が全員目を覚ましやがった! お、俺は夢を見ていやがるのか!?)
…………
「か、カヤ!!」
カヤの命の失った身体を抱きしめて傷心状態であったミスズだが、突如として自分の腕の中のカヤが目を覚ました事で、眼鏡がずり落ちていくのも無視して、驚きながらカヤの名を呼ぶのであった。
「あ、あれ……? ど、どうしてここにミスズ様が……? そ、それに私は確かに……」
呆然としながらミスズを見たカヤは、ゆっくりと身体を起こして両手を見ながらそう呟く。
…………
「こ、これは……! こ、こんな奇跡を、いち生物が起こせるものじゃろうか……!」
「ふ、ふはははっ! さ、流石はソフィ殿だ。規格外すぎて笑う事しか出来ぬ」
ゲンロクやエイジもまた、ソフィの『魔法』を目の当たりにして、奇跡だとばかりに声をあげるのだった。
「おい、ソフィ……!」
ソフィの『魔法』に感嘆の声をあげたり、感謝する声の中でとある異変を察知した『ヌー』が、耳打ち出来る距離にまで近寄ると静かにソフィの名を呼ぶ。
「ああ。どうやら我が消滅させた連中の生き残りが、まだこの町に居たようだな」
他の者達が騒ぐ中、静かにソフィとヌーの両名は互いに感知した『魔力』の存在を『魔力探知』で追尾をするように追いかけ続けて行く。
そしてソフィは静かにミスズとシゲンに視線を向けた。
「ミスズ殿にシゲン殿、どうやらこの襲撃を行った連中の生き残りと見る者達が、この町から少しずつ遠ざかっているようなのだが、ここに呼び寄せてもよいか?」
突然のソフィの言葉にミスズ達は驚く表情を浮かべるが、直ぐに表情を戻して頷いた。
「可能ならば、是非頼む」
ソフィの申し出に即座に是としたシゲンは、静かに刀に手を宛がうのだった。
…………
そんなソフィとヌーが感知した存在とは、現在『サカダイ』の本部からグングンと速度を保ったまま『一の門』を抜けて、外に居た『同志』達と共に『旅籠町』を目指して逃亡を続ける『ライゾウ』と『フウギ』の両名であった。
「い、一体どうしたというのだ!? 中に居る『サクジ』殿達はどうしたというのだ!?」
中から血相を変えて飛び出してきた『ライゾウ』と『フウギ』にそう告げたのは、外で『結界』を施して待機していた『サクジ』達の世代の『上位妖魔召士』達であった。
「わ、ワケは後でゆっくり話をします! い、今は一刻も早くこの場を離れなければ、あの化け物に殺される!!」
何の要領も得ない返答に外で待機していた数人の『妖魔召士』だが、どうやら血相を変えてこの場を離れろと告げる『ライゾウ』と『フウギ』の様子に襲撃は失敗し、あの『サカダイ』の本部に居た『妖魔退魔師』に返り討ちにあったのだろうと予測するのだった。
「ひ、ひとまずは『旅籠町』へ向かい、そして身を隠しつつ日を跨ぎ、コウエン殿が居る筈の『コウヒョウ』の町へ戻りましょう!!」
「ちっ……! 仕方あるまい。何があったか後で詳しく話せよ?」
「も、もちろんです! むしろ聞いて頂きたい事が多すぎる!」
――『ライゾウ』と『フウギ』も『魔力』に長けた『妖魔召士』である。
そんな彼らは突如として現れた膨大な『魔力』を持つ化け物が、自分達の居る本部内に現れた事で、あっさりと『サクジ』や『同志』の『上位妖魔召士』達が葬られた事を、小さくなっていく『魔力』から理解したのであった。
『同志』達の旗頭となった『サクジ』の居た場所には、他にも『天狗』の『江王門』や『鬼人』の『瑠慈』の存在もあった筈なのである。
当代だけではなく、前時代を含めた『妖魔召士』組織でも無視が出来ない程の『上位妖魔召士』であった『サクジ』が僅かな時間でやられてしまったのだと判断した『ライゾウ』と『フウギ』は確認などもせず、慌てて本部内から飛び出してきたというわけであった。
本能に従って『絶対者』である大魔王『ソフィ』の居る場所から、離れる選択肢を取った事は生存するという意味合いの中では正しい判断であった事だろう。
――だが、彼らが明確にミスをしたと呼べる事は『結界』を用いて逃げなかった事。
そして外で待機していた連中もまた、同様に『ライゾウ』と『フウギ』達と合流を果たした直後、もう必要はなくなったと判断した事で『結界』を閉じてしまった事。
彼らの扱う『結界』は見事なものであり、ソフィでさえ『エヴィ』と共に行動を続ける『イダラマ』の存在を探れないのと同様に、町の外で待機をしていた者達と同じように『結界』を張って逃げていれば、彼らの思惑通り逃げ切れたかもしれない。
その『結界』を張らなければ何処に逃げようが、それこそ世界の果てまで逃げ遂せようとも、大魔王ソフィからは決して逃げることは出来ないのだ。
何故なら、大魔王ソフィは一度『魔力探知』で捕捉した『魔力』を持つ存在をいつでも呼び寄せる事を可能とする技法を有している。
――それは『逆転移』と呼ばれる『大魔王』が持つ技法。
サカダイの町から離れた事で、ようやく危機を脱したと考えられるようになった者達に、絶望を与えるかの如く大魔王『ソフィ』はその『逆転移』を行使するのであった――。
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