1568.魔神の考える優先順位
「な、何て酷い……!」
セルバスの意識が戻り、彼から襲撃が行われた事の顛末を聞かされた直後、自分達の本部の状況を見ようと部屋の外へ出たミスズ達は、ようやくその惨状を目の当たりにするのだった。
廊下や会議が行われているいつもの部屋に、本部の入り口といった至る所に隊士達の死体が転がっており、如何に『妖魔召士』達との戦闘が激しいモノであったかを理解させられた。
「てめぇら側の人間をここまで出来るって事は、どうやら俺が森で相手をした人間や、妖魔とかいう奴らと同等、もしくはそれよりも上の連中が固まって襲撃にきたってところだろうな」
放心状態で本部内の惨状を目の当たりにしていたミスズの横に立ったヌーは、冷静に状況から分析して自分が戦った『妖魔召士』や『妖魔』を比較にしながらそう告げる。
どうやら傷心からくる放心状態のミスズを元気づけようと、彼なりに慰めの言葉を選んだのだろう。
彼がここまで目を掛ける理由として、やはりミスズの事をエイジと同様に認めている存在だからなのだろう。
「はい、ですがこの惨状を招いた原因として『ヒュウガ』一派に対する、私の認識の甘さが招いた結果と言わざるを得ないでしょうね」
拳を握る手が震えているミスズに気付いたヌーは、軽く舌打ちをしてソフィの方に視線を向ける。
「おい、ソフィ! さっきのてめぇの『魔法』では『セルバス』の意識を戻せなかったようだが、今回はどうか試してみたらどうだ? てめぇ程の『魔力』があるなら全員生き返らせられるんじゃねぇか?」
「む……」
ヌーの言葉にソフィが返事をしようとしたが、その前に横に居たテアが慌てて口を開いた。
「――!」(ちょ、ちょっと待ってくれよ、ヌー! この連中がいつ死んだのかは知らないけど、これだけの人数をいきなり蘇らせでもしたら、色々と『幽世』の方で弊害が生じちまうよ!)
「あ? 知らねぇよ、そんなモン。お前『死神』の中では偉いんだろ? ゴタゴタが起きても何とかしろよ」
「――!!」(お前、ふざけんなよ! 私は『死神』を束ねる死神皇様じゃないんだぞ!)
ヌーとテアの二人が言い争いを始めたのを見ていたソフィだったが、ちらりと『魔神』の方を見る。
ソフィに視線を向けられた『魔神』は嬉しそうにニコリと微笑みかける。
「――」(貴方が本当に蘇らせたいのであれば、私は一向に構わないわ)
どうやら『魔神』はセルバスを蘇らせようとソフィがした時に告げられた通り、もう『死神』と徹底抗戦をする覚悟は出来ている様子であった。
『魔神』にとって『死神』とはテアという例外を除き、下界の存在の次にどうでもいいと思っている。
そんな『死神』がソフィに対して『異議』を唱えようモノならば『魔神』は、全力で『死神』を止めようとするだろう。
――彼女の中で優先順位は、圧倒的にソフィの方が上だからである。
「うむ。我は世話になっておるお主らの為であれば、自分の力を使う事に何の躊躇いもないぞ」
そう言うと再び形態変化を始めたソフィだが、今度は戦闘特化の漆黒の四翼の姿ではなかった。
どうやらあくまでもこの場に居る者達の一斉蘇生の為の『神聖魔法』に使うのに必要な『魔力』分を用意しようとした結果なのだろう。
それは先程セルバスが涙を流して苦しむ姿を見せた時に、ソフィが使おうとした『救済』に比べると、その十分の一にも満たぬ程度の『魔力量』であった。
今回のソフィが行おうとする『蘇生』に使う『魔力』を見ても『魔神』は全く慌てた様子はない。
どうやら彼女から見ても今回のソフィの『魔力値』では、天上界から『世界の敵』と認識されないだろうと判断しているようであった。
そしてソフィが詠唱を行い始めると、この敷地内だけではなく『サカダイ』の町全体を包み込むように『魔力』の光が満ち始めるのだった――。
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