1565.ソフィを見て、焦る大魔王ヌー
「ちっ! エイジの言葉が本当ならコイツ、まじで目を覚まさねぇって事かよ……。流石の俺もソフィの蘇生で蘇らせられねぇようなら、どうしようもねぇぞ」
セルバスが『妖魔召士』の所為ではないとエイジから聞かされた事で、ヌーは信じられない程に焦った様子を見せる。
腕を組みながら手元を何度も口元に持っていき、足で忙しく何度も地面を叩き踏み鳴らし、何かを考え続けるが、何も思いつかずに口では舌打ちを繰り返す――。
大魔王ヌーにとって『セルバス』は、他の『煌聖の教団』とは違って単なる同盟の間柄というわけではなく、それなりに親しい知人といえる魔族であった。
しかしセルバスが目を覚まさない事にヌーが焦っている理由は、今後セルバスが目を覚まさなければ、この四翼の羽根を生やして静かな怒りを周囲に放ち続けている『化け物』が、今後いったいどういう行動に出るかが、彼ですら想像が出来ない事にあった。
――大魔王ヌーは、幼少期の頃に『第一次魔界全土戦争』を経験している。
『アレルバレル』の世界の『魔界』で起きた大変に大きな戦争で、南の大陸に居る某大魔王が当時『人間界』の『ダイス』帝国に所属していた皇帝と結託して『魔界』を我が物にしようと企んで、中央の大陸に襲撃を行った事が始まりとされている。
その大陸こそが大魔王ソフィの居た大陸であり、そこで生活をしていた彼の仲間達が、その南の大陸の魔族の襲撃者の軍勢によって傷つけられた事で今回のように大魔王ソフィが激昂し、表舞台に出てきたのであった。
本来、アレルバレルの世界にある『魔界』での戦争は、毎日どこかで行われる日常茶飯事といった出来事なのだが、大魔王ソフィという存在が表舞台に出てきた以上はその『魔界』でも日常とは遠く離れた出来事に変貌を遂げてしまう。
大魔王ソフィが報復を行うとなれば、その規模がどれ程までに膨れ上がるかが、皆目見当が付かないからである。
――大魔王ソフィの持つ『力』は、あっさりと世界中の大陸を沈める事が可能であり、その気になれば全生命体を永劫の彼方へと送り届く事も可能とする。
世界の調停を担う『天上界』の存在である『魔神』でさえ、ソフィという存在を制御する事は適わなかったのである。
そんな大魔王ソフィが怒りに身を任せて暴れるとなれば、そこに居る者達はたまったものではない。
彼ら『アレルバレル』の世界の大魔王達はソフィを止める事が不可能である以上、ソフィに敵と認識されないように立ち回る事を選んだ。
『アレルバレル』の世界の東西南北の南以外の大陸その全ての『大魔王』や『魔族』達が、大魔王ソフィの仲間を傷つけた南の大陸の首謀者である『大魔王』とその一派、それにその『大魔王』と同盟を結ぶ『人間界』の皇帝軍を滅ぼすために立ち上がり、大魔王ソフィというたった一体の『魔族』のために魔界中の数多くの魔族達が手を組んで行動を起こしたのであった。
――それこそが『第一次魔界全土戦争』の全貌である。
つまりこの大魔王ソフィの仲間を傷つけるという事は、それ程の規模の大戦争を引き起こす覚悟が要るという事であり、今回に至っては『セルバス』という彼の仲間が仮死状態から目を覚まさず、このまま死んでしまうかもしれないという状況下である。
今はまだ冷静に見える大魔王ソフィだが、このままセルバスが死んでしまおうものならば、大魔王ソフィは何をしでかすか分からない。
それはこの『ノックス』の世界に惨状を生み出す事になるのか、それともセルバスの魂を奪おうとする『死神界』といえる『幽世』でパニックを引き起こす出来事を生じさせるのか、はたまた再び『世界の敵』と認定した天上界の『神々』が、この世界に体現を果たして、大魔王ソフィと相対することになるのか――。
――大魔王ヌーは『死神』の大貴族である『テア』という大事な存在を抱えて今を生きている。
『幽世』と敵対を行うという事になれば、当然ヌーやテアも無関係で済ますことは出来ないだろう。
そんな事が実際に起こり得るかどうか、今はまだ現実味があるわけでもないが、絶対に起こらないと断言する事も出来ないのである。
大魔王ソフィはやるといえば必ずやってしまうだろうし、実際に『煌聖の教団』を滅ぼすと彼が決めた事で、壊滅させてしまった前例もある。
かつて大魔王ヌーは自分の思い上がりで、この『大魔王ソフィ』という存在と戦争を引き起こしたが、本気とは程遠い状態のソフィにさえ敗れてしまった。
今はそんな状態のソフィとは比べ物にならない程の『力』を体現させた状態で怒りを露わにしているため、大魔王ヌーは自分自身の『セルバス』に対する感情を後回しにして、何とかしてソフィのために『セルバス』の意識を覚まさせようと、必死に考え始めるのだった。
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