1564.イツキの居る牢の中へ
そしてソフィが『セルバス』達の居るところに転移をしてきた頃、ユウゲ達は『鬼人』の案内で『イツキ』の居る『牢』へと辿り着くのだった。
「ここにお前達が言っていた人間は居る。ここはどうやら最初から見張りはいなかったから、そのまま入っても大丈夫だ。じゃあな」
案内を終えた『鬼人』はそう告げると、ユウゲ達を『牢』のある部屋の前に残して、来た道をそのまま引き返していった。
…………
その『牢』に居る『イツキ』は何処か憂いでいるような表情を浮かべながら、左右の手で『魔力』を均等になるように分けながら独りブツブツと言ちていた。
「イツキ様!」
そんなイツキはユウゲの声に出していた『魔力』をそのままに、顔だけを入り口に向けた。
「ん? おいおい、せっかく外に出してやったのに、何でここにいるんだよ」
苦笑いを浮かべながら溜息を吐く『イツキ』であった。
「そんな話をしている場合ではありませんよ。この『サカダイ』の町に『ライゾウ』殿と『フウギ』殿が呼び寄せた『同志』と名乗る『妖魔召士』達の一派が集い、あろうことか襲撃を行っております。奴らの目的は別の『牢』に入れられている『ヒュウガ』様の一派である『テツヤ』殿か、もしくは『ヒュウガ』様一派自体の解放なのか、そこまでは分かりませんが、このままでは我らを含めて全員巻き込まれてしまいかねません。早く脱出をしましょう」
イツキは無言のまま『ユウゲ』の顔を見ていたが、やがて邪悪な笑みを浮かべた。
「なるほど。表が騒がしいと思っていたが、どうやら『ゲンロク』の里にあの化け物を含めた『妖魔退魔師』の最高幹部の連中が居ない事を良い事に、外に居た一派の連中がこれ幸いと乗り込んできたってわけか」
「え、ええ。ですから急ぎましょう! もう我々は『退魔組』でも『妖魔召士』組織に所属しているわけでもありませんし、下手をすれば『ヒュウガ』様一派に非協力的だった事を明るみに出されて処刑されかねませんよ!」
「はっ! あのクソ野郎に処刑されるだ? 馬鹿言ってんじゃねぇよ、やり合うってんならこっちから出向いてぶち殺してやる……と、いいたいところだが、今は大人しくしておいた方が良いな。どちらにせよ此処にいた方が安全だ、お前らもこっちへきておけ」
「は……? えっと……?」
イツキはそう告げると、ぽんっと牢の扉を押してみせると、あっさりと牢の扉が開いて、そこからユウゲ達に入ってこいとばかりに手招きする。
どうやら最初から『牢』に鍵はかかっていなかったようで、簡単に牢が開いてしまうのだった。
ぽかんっとその様子を眺めていたユウゲ達だったが、何かを喋ろうと口を開きかけた瞬間だった――。
「ちっ、ほらな。やっぱりあの化け物が戻ってきやがった」
「ぐっ……!?」
唐突に膨大な『魔力』を感知した『ユウゲ』が頭を押さえていると、全て分かっていたかのような表情を浮かべながらイツキは、諦観するような溜息を吐いてそう告げるのだった。
「だ、大丈夫ですか、ユウゲ様! い、一体何が……?」
『魔力』の感知が出来ないヤエは、突如として苦しみ始めたユウゲに寄り添いながら心配そうに声を掛けるのだった。
「な、何が起きたのですか? そ、それにこの尋常ならざる『魔力』は一体……?」
傍に寄り添ってくれたヤエに安心させるような言葉を掛けた後、ユウゲはイツキに何事なのですかとばかりに訊ねるのだった。
「クソ野郎共の居る『牢』だかその近くだかに、あのソフィとかいう化け物が『結界』を張ったらしくてな。多分その『結界』の前で見張りと『妖魔召士』共が争って『魔力』の一つでも使っちまったんだろうよ」
「な、なるほど……。ソフィというのは『ケイノト』の町で最高幹部の『組長格』と共に現れて、イツキ様と直に戦った者のことですよね?」
「ああ……。ここの副総長殿が知らせてくれた事だが、どうやら『ヒュウガ』の野郎達が居る部屋だか、何だかにソフィっていう化け物が『結界』を施したらしくてな。その『結界』の中で『捉術』や『魔瞳』というよりも『魔力』を使う全般の『力』を全て吸い取って魔力枯渇にさせたり、生命をも奪ったりするらしいんだよ」
「そ、それが本当だというのであれば、我々退魔士は、ど、どうしようもなくなりますね……」
イツキの表情からいつものような冗談ではなく、本当に告げているのだと察したユウゲは唖然としながらそう口にするのだった。
「それに俺の思った通り、その化け物野郎は『結界』が反応した時点で本人にも感知が出来るみたいだぜ? 副総長殿はその事は言ってなかったが、俺達『退魔士』であれば自分が『結界』を張ればある程度その『結界』で起きた事は朧気ながらに感じ取る事が出来るから、何となくそうじゃないかって思ったが、やっぱりソフィって化け物も『結界』の内側で起きた事に直ぐ感知出来たようだな。そんでさっきお前も感じた通り、この膨大な『魔力』は早速何かやらかしたんだろうよ」
ユウゲとヤエはその言葉に、先程『ヒュウガ』の元に向かうのは今ではないと告げた『イツキ』の言葉をようやく理解するのであった。
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