1552.セルバスのシグレを守ろうとする気持ち
「せ、セルバスさんを、よ、よくも……!!」
先程まで泣いていたシグレの目から涙が消えて代わりに殺意が宿っていた。
彼女は『コウゾウ』を『妖魔召士』達に殺められた事で『妖魔召士』に対する怨恨は相当なモノだった。
しかしそれでも一時に比べるとミスズや、こうして慰めてくれるセルバスといった仲間達の助けもあって、少しずつではあるが、元の彼女に戻れるかもしれないと思わせる程に精神も和らいできていた。
――だが、セルバスが目の前で『妖魔召士』に腕を吹っ飛ばされたところを見た事で、彼女は眠っていた『殺意』が再び覚まさせてしまったようである。
「うわあああっっ!!」
恐ろしい速度で立ち向かっていくシグレの動きは、一介の『予備群』ではなかった。
一歩目の踏み込む速度、二歩目の地を蹴る脚力、そこからの跳躍までの一連の流れが洗練された『妖魔退魔師』と見紛う程であった――。
――しかし。
シグレが戦闘態勢の動作に入る直前の叫び声の時に、冷静に手印を結んでいた『妖魔召士』は自分の間合いに入る寸前に一つの『捉術』を完成させていた。
――僧全捉術、『魔重転換』。
当代では『最上位妖魔召士』しか扱えない筈の『僧全捉術』。
それを扱う『妖魔召士』は前時代では『上位妖魔召士』でしかなかったが、当代では十分に扱うに値する『魔力』を有していた。
その威力は『中位妖魔召士』までの者が使う通常の『捉術』とは推して推して然り――。
かつての『旅籠町』で戦った『妖魔召士』ともまた違う『魔力』と術の発動までの『速度』。
その違いを明確に味わう事となったシグレは、自分の刀の届く範囲という目前に迫った状態で無防備になってしまうのであった。
「あ……」
当然、その隙だらけで宙からがくんっと身体の力が抜けるように地面に落ちて行くシグレを見逃す筈もなく、その『妖魔召士』は、渾身の殺傷能力の高い捉術、多くの妖魔を屠ってきた『動殺是決』を放とうと手を伸ばすのだった――。
「させるかぁっ!!」
セルバスは結界内に居るせいで魔力をコントロールが出来ない状態のまま、シグレを助けるために思いきり『妖魔召士』に目掛けて肩からぶつかっていくようにタックルを仕掛けるのだった。
「『耐魔力』もなく『妖魔退魔師』のように動けるでもなく、単なる生身の状態で向かってくるとは、死にたいのか?」
『妖魔召士』の男は、シグレの首を掴もうと伸ばしていた手を引っ込めると、代わりに自分に向けて突っ込んでくる片手しかない男に向けて『魔力波』を放つのだった――。
……
……
……
その頃、カヤ達『妖魔退魔師』を倒したサクジ達は『ライゾウ』と『フウギ』の二人の『同志』という『テツヤ』達が捕らわれている場所を見つけるために本部内を歩いて移動を行っていた。
「どうやら微弱な魔力を持っている者達は、先程『同志』の者に向かわせた場所を除けば、今向かっている場所だけのようだ。そこが『牢』なのだろうと予想は出来るが、何故それならば『ヒュウガ』やライゾウ達の『同志』達の仲間の魔力が感じられぬのだろうな」
「それはもしかすると、我々のようにはぐれとなった者が、妖魔退魔師達に協力していてこの場に『結界』を施しているのかもしれませんね」
サクジの横を歩く『同志』の一人がそう口にすると、サクジは厭そうに眉を寄せた。
「ゲンロクの代になってからの『妖魔召士』達の質は下がっておるから、その可能性もあるかもしれぬな。全く『改革派』の人間は、耳ざわりのいい言葉を使って人を納得させようとするが、やっておる事は決して褒められたもんではない。これだから『改革派』の人間は風上に置けぬのだ」
どうやらサクジは『牢』に捕縛されている『同志』や他の『妖魔召士』達の魔力が感じられないのは、はぐれとなって生活が困窮している退魔士が、こっそりとこちらの組織に身を寄せて『牢』に『結界』を張る役割を担っているのだろうと考えたようであった。
しかし人海戦術という程でもないが、この場に数多く集まっていた『妖魔召士』達は、手分けして本部内を探し回っていた事で、存外直ぐに『牢』とそれに連なる部屋に辿り着くのであった。
そしてサクジ達が『ソフィ』の張った『結界』がある部屋の扉を開けた瞬間――。
――三人の『妖魔退魔師』達が、一斉に来訪者である『サクジ』達を目掛けて襲い掛かってくる。
この三人の『妖魔退魔師』は先程まで『セルバス』と『シグレ』の居た部屋に居た者達であった。
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