1540.新たな局面へ
「流石に『最高幹部』達がごっそり抜けている今の状態であれば、もっと容易く我々の『同志』達を解放出来るかと思ったが。前時代の『妖魔退魔師』組織よりも質の底上げが行われているのは本当のようだ」
「はい。まさか我々が『式』を伴いながら、ある程度本気でやっているというのに、ここまで押し切れないとは思いませんでした」
後方で様子を見ていた『サクジ』が独り言ちていると、先程まで『式』と共に戦っていた『同志』の一人が近づいてきて『サクジ』に言葉を返すのであった。
「当然『シゲン』殿や『ミスズ』殿達が居ないのが前提で襲撃は行ったが、ここまでやるとは予想外だった。これは少しばかり作戦を変えて、念入りにこやつらの数を減らす事に注視した方がよさそうだ」
「確かにその通りですな……。ワシら『守旧派』が再び『妖魔召士』組織を束ねる事になったとして、再び武力戦争となった場合、生かしておくと後悔する事になるでしょうしな」
『同志』の言葉に『サクジ』は大きく頷くのだった。
「再び戦局は五分五分といった様相だが、すでに奴らは満身創痍といえる状況で、視線は『式』や『同志』達の方に向いている。今ならば一網打尽にするには千載一遇のタイミングだろう」
「しかし忌々しい事に何人かは戦いの手を緩めず、こちらにも意識を向けている連中も居るようですが」
『同志』の男はこの場所からは少しだけ離れている『妖魔退魔師』の『カヤ』や『ナギリ』に視線を向けながら『サクジ』に報告をすると、当然『サクジ』もその事は気づいていたようで再び頷く。
「だが、それでも一気に形勢を変えられる事には間違いはない。早速『同志』数人程をこちらに呼び寄せて、準備をするとしようぞ」
「では、早速合図を出すとします」
『サクジ』はその言葉に軽く首を縦に振ると、今度は自身の横で腕を組みながら戦闘を眺めていた『妖魔』二体に視線を移す。
すると直ぐに『鬼人』の『瑠慈』が反応すると、サクジに対して口を開いた。
「ようやく出番か? 先程のお主らの会話の流れを汲むならば、俺達が時間を稼げばいいんだな?」
「察しが良くて助かるぞ『瑠慈』。この当代の『妖魔退魔師』達はどうやらワシらの世代の時の『妖魔退魔師』達とは実力そのものが違っておるようで一筋縄では行かぬ。お主と『江王門』は時間稼ぎとは思わずにひと思いに奴らを殺すつもりで動いてもらう事にしよう」
「確かにお主の言う通りにしたほうが良さそうだな。ずっと戦闘の様子を眺めていたが、お主ら人間の扱う『魔瞳』や『術』に対しては、大半の者が対策を取り続けて上手く避けておる。どうやら戦局を巻き返したのも偶然が重なったというワケでもなさそうだ」
ランク『7』に限りなく近い実力を持つ『天狗』の『江王門』は、冷静に『妖魔退魔師』達の戦闘に関しての評価を下すのであった。
「やれやれ……。ワシらの若い時ならば、同じ人間に『青い目』を回避される事など考えもしなかったのだが。まぁ、ワシらの護衛を務めていた前時代の『妖魔退魔師』達が、間近でワシらを守りながらも地道に対策を練っておったのだろうな。次の世代に繋ぐという点では、ワシら『妖魔召士』と『妖魔退魔師』も考えは同じだということだろうな」
今度こそ『サクジ』は、そう独り言ちるのであった。
「では、お主らも頼んだぞ? とくにあの奥に居る『妖魔退魔師』の女を優先的に狙ってくれ。あやつがこの場の司令塔のようだからな」
「承知した」
「あい、わかった」
サクジは『瑠慈』と『江王門』に指示を出すと、その直後から隣に居る『同志』の者達と同様に、大掛かりな印行を結び始めて行くのであった。
…………
「ちっ! 表が騒がしいと思っていたが、まさか本当に旦那の考えていた通りにこんなにも多勢で敵が現れ始めるとは思わなかったぜ」
セルバスは『隠幕』を用いながら、こっそりと屋上へと上がる階段の途中から階下を見下ろすと、廊下と大広間で行われている戦闘の様子を観察しながらそう告げるのであった。
「『妖魔退魔師』達とかいう連中が尋常ならざる奴らだって事は、ミスズ殿や森に居た連中からも理解は出来ていたが、この襲撃を起こした連中も大概やべぇな。あれが旦那の言っていた『魔神級』の領域ってやつか」
ヌーのように昏倒するような事態を避けるためにも『漏出』を用いて『妖魔召士』達の『魔力』を直接測るような真似はしないが『魔力感知』を伴いながら探りを入れるセルバスであった。
「世界が変われば持っている常識も変わるというのは常だが、まさか『アレルバレル』の世界から来て、あの世界以上に気を配らなければいけない世界だとは思わなかったな」
明らかに自分の元の姿であった『大魔王』の身体の頃より、戦力値が上であろう『妖魔』達をあっさりと斬り伏せて行く『妖魔退魔師』や、その『妖魔退魔師』の動きを封じる『捉術』や『魔瞳』が『妖魔召士』から放たれて、戦場に信じられない程の『魔力』の『スタック』が飛び交う戦場を目の当たりにして、セルバスは苦笑するのであった。
「ま、今の俺には関係ねぇな。お前らは勝手に殺し合いでもなんでもしていればいい。俺は俺のやりたいようにやらせてもらうぜ」
セルバスはその言葉を最後に戦場となっている場所に繋がる階段を下りていき、真横で行われている戦場をまるで他人事だといわんばかりに素通りしながら、彼は目的の場所へと向かうのであった。
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