1518.不敵な笑み
コウエンがイダラマの持っている『妖魔山』に対する狙いに協力を申し出ると口にした後、前時代の『妖魔召士』の話を終えて少し経った頃に、イダラマからコウエンの隣に居る『同志』の者達に対して声を掛けるのであった。
「ではコウエン殿には先の話の通り、今後は我々に協力をするという事で共に『妖魔山』に入ってもらうとして、そちらの両名はどうなされるのだ? コウエン殿と同じく我々と行動を共にするという事でいいのかね」
イダラマとコウエンが話をしていた横で、口を挟まずに両者の話の内容を聴いていた『同志』の者達は、突然にイダラマから声を掛けられた事で、慌てて視線を向けるのであった。
「そ、その前にお主に頼みがある! あの者の意識を元に戻してもらいたいのだ!」
「そ、その通りだ! 『コウヒョウ』の町人達を守る事が最前提ではあったが、本音を言えば我らが『同志』のトチ狂った行動を問いただして正常になってもらおうと思い、この場にコウエン殿と戻ってきたのだ。お主らが原因なのであれば、彼を元に戻してもらいたい!」
どうやらコウエンと共にこの場に戻ってきた『同志』の『妖魔召士』達は、エヴィが操った男とそれなりに親しいようで、突然町で暴れ出した彼の事を本当に心配していたようであった。
「ふーむ……。別に戻してやっても構わぬといえば構わぬのだが、そうなると少し困った事になるな」
イダラマは腕を組みながら『同志』達に向けてそう口にするのだった。
「な、何故だ! そもそもお主に何の利点があって、彼を操り利用したというのだ!」
コウエンと親し気に話をしていた事で、すんなりと元に戻してくれるだろうと期待していた『同志』の男達は、決断に渋る様子を見せたイダラマに対して、慌てて問い質し始めるのだった。
「まぁ急くなお主ら。このイダラマは何も『同志』を元に戻さないと告げておるわけではない。ただ困った事になると口にしておるだけだ。ここはまず詳しく話を聞こうではないか?」
「ぐっ……、た、確かに、コウエン殿の言う通りだ」
「あ、ああ、そうですな」
流石に『コウエン』の存在の影響は大きなものであり、彼の鶴の一声で再び声を荒げようとしていた『同志』の男達は素直にコウエンの言葉に応じるのであった。
イダラマはじっくりと彼らの関係性を再確認するように観察していたが、やがて全員の視線が自分に集まったのを見計らって口を開き始めた。
「元々この男を操った理由としては、私達が『妖魔山』に入るにあたり、お主らが襲撃を行う予定であった『サカダイ』に本拠地を置く『妖魔退魔師』組織の連中に、このタイミングで居場所を捕捉される事を回避する為だったのだ」
「確か蔵屋敷の中でお主は、自分がシゲン達に『妖魔山』の管理権を譲渡させるように提案を示したと口にしていたな。そのお主が『コウヒョウ』の町に顔を出しただけではなく、そのまま何食わぬ顔で『妖魔山』に向かうとしれば、この町の『予備群』共から本部に伝えられて、全てが明るみになるだろうからな。それを避ける為にわざと囮としてワシらの『同志』を利用したというわけ……、ん?」
コウエンはイダラマの話を聴いて、順序よく話の筋道を並べて追っていきながら結論を出したが、そこでふと何かに気づいたように眉を寄せ始める。
「待て、イダラマよ。まさかお主は初めからワシら『同志』全員を利用する為だけに、この『コウヒョウ』の町に招集をかけたというわけではあるまいな……?」
彼らは『妖魔山』に共に入るという同じ目的を持った『同志』として、イダラマの招集に応じてこの場に集まったわけだが、今のイダラマの話を聞いた事で、最初から『同志』達全員を自分が『妖魔山』に入る為だけに捨て駒にするつもりで招集したのではないのかと、そう結論に至ったようであった。
コウエンの言葉にイダラマは、不敵な笑みを浮かべるだけで焦って弁解を行うような真似もしなかった。
「お、お主……!!」
コウエンではなく、その隣に居た『同志』がイダラマに詰めかけようと声を発したが、それを再びコウエンが押し留めるように手で制止をかけると、イダラマはそこでおもむろに口を開いた。
「ふふっ。コウエン殿、そこは安心して欲しい。私は貴方がたを捨て駒になどは考えてはいなかったさ。というよりも、あれだけの『同志』を相手にそんな恐ろしい事を考える筈もあるまい?」
イダラマはそこでようやく『コウエン』達に対して釈明を始めたが、このイダラマと直に戦ったコウエンだけはそう説明されても信じて頷く事は出来なかった。
――このイダラマであれば、あの場に居た全妖魔召士を敵に回そうと考えても何らおかしくはないと、コウエンでさえそう思わせられたからであった。
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