1514.外された予測
現在イダラマは『透過』技法を用いた自身の研究結果である『魔利薄過』を用いて、この世界から一時的に遮断された存在となっている。
あらゆる物理要素や『理』を用いた『魔法』など、外界からの干渉をシャットアウトしている状態である。
この状態のイダラマに直接的なダメージを負わせる事は非常に困難であり、現代の『透過』技法に関して研究を行っていない『妖魔召士』達では完全にお手上げの状態であろう。
そんなイダラマに対してコウエンは、四つの『スタック』を設置して何やら新たな行動を取ろうと『魔力』を腕に纏わせ始めていた。
本来であれば何をしようと今の『完全回避』といえる『魔利薄過』のイダラマには通用しない筈ではあるが、この目の前に居る『コウエン』だけは侮れる相手ではなく、先程の『妖狐』に対して行った攻撃もまた『透過』技法がベースとなる攻撃の一種を使って、独自の研究成果を出す事に成功しているのをイダラマは見ている。
このイダラマの周囲に作られた四つの『スタック』の設置に加えて、コウエン自体にも侮れない程の『魔力』が纏われている状況は、専守状態のイダラマであっても安心は出来ない。
『魔利薄過』の状態から一方的に攻撃を加える事は容易ではなく、今のイダラマの『透過』技法のかなり進んでいる研究状態でも不可能に近い状態といえる為、この何かをやろうとしているコウエンの攻撃に対して『魔利薄過』を用いて『回避』を選んだ今の状況では、コウエンが何かをやろうとしている事に対して回避を行わないのであれば、コウエンの攻撃の瞬間に『魔利薄過』を解いて『後の先』を狙うしかなかった。
どちらにしても先に『魔利薄過』を使わされた時点で、イダラマは主導権をコウエンに握られた状態といえた。
そしてイダラマはコウエンが『魔力』を腕に纏わせたのを見てからは、四つの『スタック』ポイントを完全に無視して、何かを行おうとするコウエンにのみ注視を行い、僅かでも隙があるのならば『先手』を狙い、どうにも出来ないと判断したのならば、このまま『後の先』を狙う。
そう決断した矢先、何とコウエンはそのまま接近戦を行おうとするかの如く『捉術』を使い始めるのだった。
『魔力』を放出する『魔波空転』や『魔力圧』のようなものであれば『透過』技法を用いて『魔利薄過』状態のイダラマと同じ条件となり、ダメージを負わせられる可能性はあるだろうとイダラマは考えたが、まさかそれすら行わずに愚直な行動に出たコウエンを見て混乱とまではいかずとも、先程考えていた『専守』か『後の先』を選ぶかの判断が遅れてしまっていた。
(まさかあんなモノが私にあたると思うのか? 『透過』技法を用いれば確かに『魔利薄過』を使っている私を捉える事は出来るだろうが、そもそもそれならば単に『動殺是決』という大技をいきなり使うだけに過ぎない。無抵抗ならばいざ知らず、前提条件も何もなしにそんなモノが当たる筈がないだろう。全く何が狙いか分からぬ……)
仕方なくイダラマは『後の先』を狙う為に、コウエンの近距離用の『捉術』である『動殺是決』がくるのを待つのであった。
『後の先』を狙うタイミングは『動殺是決』を使おうとするコウエンが、先程の『透過』技法を用いた瞬間である。
だが、何時まで経っても『スタック』を使う素振りを見せず、コウエンは『透過』技法を使うつもりがないのか、そのままイダラマの首を掻っ攫うように手を這わせて首を掴もうとしてくるのだった。
「血迷ったか、コウエン殿!」
――コウエンが『透過』技法を行わない以上『後の先』を狙う必要すらない。
『動殺是決』は『魔力』を集約させて発動する『捉術』である以上、イダラマの首を掴めない時点で術の失敗が確定する。つまり後に残るのは隙だらけのコウエンだけの筈である。
そして案の定『魔利薄過』によって、コウエンの『動殺是決』はイダラマには当たらずに蔵屋敷の再現と相成り、その直後にイダラマはコウエンに『後の先』の攻撃を仕掛ける為に『魔利薄過』を解こうとした。
――その瞬間であった。
イダラマを取り囲む四つの『スタック』の内、左上の一つの『スタック』ポイントが唐突に光を放ったかと思うと、まだ『魔利薄過』状態のイダラマに向けて『魔力』の波が襲い掛かっていくのであった。
「むっ!」
しかし逆に今の状況であれば、イダラマに『魔力波』は効かない筈であるが、それ故に『魔利薄過』を解こうとしていたイダラマは、強制的に『魔利薄過』を延長せざるを得ない状況に陥ったのである。
そして『魔力波』はイダラマの居る場所を素通りして、完全に回避には成功するイダラマであったが、今度は魔力を整え直したコウエンが、再び『印行』を結び終えていて、今度こそ『妖狐』に見せた『透過』技法の術を完成させていたのであった。
(成程……! 随分と小癪な真似をするものだ。最初に四つの『スタック』ポイントを徐に見せておいて、何かあると思わせておきながら『透過』技法を扱えるコウエン殿が大技を出す素振りを見せておき、それが本命だと思わせておいて、それを餌に私に『透過』技法のままでいさせておくのが狙いだったというわけか!)
――この一連の流れに関しては、その全てがコウエンの手のひらの上といえるのだった。
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