1493.一つの提案と新たな発想
※加筆修正を行いました。
「ソフィ殿。これまで貴方がやってきた事は十分に誇れる事だと思うが、それでも貴方自身に迷いが生じているという事は、貴方自身がこのままでいいとは思えなくなっているからではないだろうか」
「確かにこのまま現状を維持し続ける事で一定の安寧は得られるだろうが、問題の解決とはならずに次代へと先延ばしにしているだけではあるのだが……」
魔族であるソフィにとってもこのまま『人間界』の管理を自身が続けたとして、本当の意味で解決出来るとは考えてはいない。
それどころか『煌聖の教団』の出現によって、ソフィ達は人間達を苦しめる魔王とされてしまい、今では当たり前のように『勇者』とやらを差し向けられ続けて討伐の対象にさえなってからも久しい程である。
しかしそんな者達を仕向けられてもソフィは『人間界』に報復する事はおろか、襲ってきた者達を無事に帰させて、更には『魔界』から『人間界』への侵攻を行わせないように力を注いでる程であった。
それだけに留まらずに保護している精霊に従来通りに『勇者』となるものを支援するように『精霊女王』である『ミューテリア』にかつてのように加護を与える事をソフィは推奨していた。
しかし人間と精霊の事を想っていたソフィであったが、前回ミューテリアに会った時にソフィは『精霊族』は『魔王』の庇護を受けている事を人間達に、全て伝えてしまいたいと告げられてしまっていた。
どうやら世界の事を想って善き行いをしている『魔王』を討伐しようとする『勇者』に対して、ソフィ達に庇護を受けている筈の『ミューテリア』が、そのソフィを討伐しようとする人間に加護を与える事が心苦しくなったのだろう。
だが、人間界に居る者達に真実を伝えてしまえば、既に精霊に愛されて加護を受けている者が『勇者』という幻想が崩れてしまい、これまで成り立っていたモノが立ちいかなくなり、甚大な影響が出る事は間違いないだろうし、安寧を望んでいるソフィにとってはそれは決して好ましいものではないのである。
『煌聖の教団』自体は壊滅しているが、まだ『人間界』は『煌聖の教団』が齎した洗脳は続いているだろう。
町の教会などでは『煌聖の教団』の総帥であった『ミラ』を『現人神』として信仰して奉っており、まだまだ多くの『煌聖の教団』を称える声は多い。
精霊族が魔族の庇護を受けていると知れば、そんな『煌聖の教団』の信者達は今度は精霊族も目の敵にするかもしれず、何より信じていた事が泡沫の幻想であったとしれば、今度こそ人間界は絶望して活力自体が乏しくなってしまうだろう。
人間という種族を好ましく思っている『魔王』にとって、それは決して望んではおらず、出来れば『ミューテリア』には通達を思い留まって欲しいとすら考えているのであった。
「ソフィ殿……。世界は違えども同じ人間の立場として言わせて頂くが、我々人間は決して貴方が思うほどに弱くはないぞ」
「何?」
再び考え耽っていたソフィに対してそう告げたシゲンの顔は真剣そのもので、更には少しばかりその顔に不機嫌さが漂っているのを感じ取るソフィであった。
「貴方が『魔族』達の人間達の国へや、大陸侵攻を抑えるだけで『人間』達にとっては十分に救いとなっている筈だ。ハッキリといってしまえば、それ以上貴方は何もせずに見守る事が最善ではないだろうか? 我々人間もまた考える事の出来る生き物だ。貴方がた『魔族』達が善き行いと思っている事が、人間達にとっても全てが善き行いとは限らない。先程貴方が告げていた『煌聖の教団』なるものを束ねる首謀者が居なくなったというのであれば、その後の事は人間達に全て任せるのも一つの手だと思うがな」
『煌聖の教団』という人間達を扇動する組織自体がなくなったのであれば、これ以上は下手に『人間界』への内政干渉を行わずに『煌聖の教団』が現れる前の最低限の干渉に留めて『人間界』の侵攻を抑える事だけに注視してみてはどうかとシゲンは、あくまでソフィに一つの提案として持ちかけるのだった。
そこに強制させるような言葉や、強引な要望などは含まれなかった。
あくまで自分がソフィ達の世界の『人間』であれば、やられて嫌な事やしてもらえたら嬉しい事を同じ『人間』としての観点から思いを伝えたのである。
当然人間ではあるが、シゲンはソフィという一体の『魔族』に対して好意的な部分も持ち合わせていて、こうして接してみてもソフィという魔族が本当に『人間』達の事を考えているという事を理解して、彼なりに『充分な考慮』をした上での発言であった。
「確かにそうかもしれぬな……。人間達に好意を寄せすぎる余りに多分な節介が過ぎていたのかもしれぬ。もう『煌聖の教団』はなくなった以上は、一度意識の改革をする必要性が出てきているのかもしれぬ」
ふと、ソフィはその結論を口にした時、かつて『リラリオ』の世界の『ヴェルマー』大陸の『トウジン』魔国の王となった後の『シチョウ』に、彼は『人間をどう思うか』と訊ねた事があった。
それは人間達は寿命が短いというのに、時に寿命の長い魔族よりも目を見張る程の成長を遂げる事があるとソフィが感じた為であったが、シチョウから返ってきた言葉は『寿命が短いからこそ、人間は必死になって結果を残そうとするからではないか』という答えだった。
確かに寿命の長い魔族が必死になって研鑽を続けて強くなり続けて行くのだから、元々の寿命の差がある人間達がそんな魔族達に追いつくのは至難である事は間違いはない。
――だが、それでも人間達は決して無能ではない。
限られた寿命の中で全員が力を合わせて同じ方向性に進もうと行動を起こせば、今目の前に居る一つの可能性を導き出して見せている『人間』のように、新たな展望をソフィに齎すかもしれない。
ソフィはシゲンという既に一つの思案の中で確立されてこの場に居る、その完成形の『人間』の存在を見て、彼の口にした通りに今後は下手な介入を取りやめて、全てを人間達自身に委ねてみるのもいい結果を生むのかもしれないと、これまでは至らなかった考えに辿り着く事が出来たようであった――。
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