1492.ソフィの世界の事情
※加筆修正を行いました。
「ソフィ殿達は『魔族』という種族だと言っていたが、寿命の方も我々人間とは違うのだろうか?」
先程のシゲンの言葉に色々と考えさせられていたソフィだが、その唐突なシゲンの質問で我に返るのだった。
「む……、そうだな。元々『魔族』の寿命は長い方だな。戦争などで命を落とす事もなく寿命を全うするならば、数千年は生きる事は可能だ。最も我達のように長きに渡って戦闘を繰り返し行い戦う為の身体の維持に努める事で体内の臓器。それに肌や皮膚の活性を長年行い続けておれば、更に寿命を延ばす事も可能だし、見た目もあまり変わらずに年齢を感じさせぬことも出来る」
もちろん長きに生きる事の出来る『魔族』は、その寿命を利用して更に『代替身体』という技法を編み出してみせて『命』そのものを克服するように、生命を次の身体へ移して再び『魔族』の寿命をリセットするかの如く『転生』を行う事も可能としているが、それは『魔族』というよりは『魔王』の技法の分野に入ってくるために、この場でのシゲンの質問にはそぐわないと判断して、その説明は行わないソフィであった。
「成程。つまりソフィ殿は『魔族』側の支配者と呼んでいいのかどうかは分からぬが、その代表的な立場に我々人間が及びもつかない程の年月を就いているわけだ。そして先程も確認したが『人間』側の政も掌握する立場についている。だが、我々から見てソフィ殿は私欲を優先するような輩には見えない。つまりソフィ殿がその立場に居る理由としては『魔族』と『人間』は対立をしているという事だろうか? その対立が武力を伴った戦争に発展せぬように、それを阻止するために両種族を上手く取り纏めようとしているが、難航しているといったところか」
「結論的にはお主の口にしている通りではるが、困った事にその過程までが違う。ハッキリと口にすれば人間界……、いや人間側には我々魔族側と戦争を起こすどころか、立ち向かえる力すらもちあわせてはおらぬのだ。そして過去に『魔族』側は、世界を相手にあらゆる種族に戦争を起こして滅ぼしてきておってな……。その人間達への大陸や国への侵攻も我が強引に阻止をして現状を保つに至らせたのだ」
シゲンの筋立てた話の訂正を行うソフィの言葉を聞いたシゲンは、何かを察したように軽く頷いて見せた。
「どうやらそちらの世界の人間達は、魔族達に太刀打ちが出来ないと早々に判断したという事か。そして魔族側が人間側の住む大陸に攻め込もうとしたところをソフィ殿に救われたと……。これは同じ人間として思うところはあるが、ソフィ殿のおかげで救われた命なのであれば、人間側は文句を言わずにソフィ殿の『政』を受け入れるべきだと思うがな」
別の種族の者達に自分達の未来の行く末を決められる事に抵抗がある気持ちは理解が出来るが、戦争を選択せずにされるがままを受け入れてしまい、その上で『魔族』の中にもソフィのような理解者が『魔族』側の代表の立場についた以上は、そのまま受け入れて然るべきではないかとシゲンは口にするのだった。
確かに難しい問題ではあるが、もしソフィという魔族がその時代に居なければもっと酷い事になっていた事は間違いがないだろう。
下手をすれば『アレルバレル』の世界の『魔人族』のように、種ごと滅ぼされて存在がなかった事になっていたかもしれない。
――否、間違いなく大魔王『ダルダオス』の世界で『種族掃討』が行われていれば、今の『アレルバレル』の世に『人間』は絶滅していた筈である。
それを阻止して現状のある意味で平和な『人間界』を維持し続けられているのは、何を隠そう現在の『支配者』となっている大魔王ソフィなのである。
同じ種族ではないものが人間界の『政』を司る以上、不満が出るのは仕方のない事ではあるが、もうそうなってから何百年も過ぎてしまったのであれば、今更従う他に道はないとシゲンは口にしたのだった。
もしこれが目も当てられない程に『人間界』を苦しめるような『魔族』側の『政』なのであれば、また話は変わってくるだろうが、シゲンはソフィがそんな事をするような魔族には思えないと理解している為に、そう述べたのであろう。
「確かにお主の見解通りに我々の世界に居る『二種族』の間には隔たりが出来てしまっているが、昔からそうだったわけではなくてな。少し前まで我達の世界ともう一つ別の世界で色々と暗躍していた元『人間』が『煌聖の教団』なるものを組織して、どうやら独自に編み出した魔法とやらで寿命を伸ばして数百から数千の年月をかけて人間界に生きる者達を少しずつ洗脳して、今のような『魔界』と『人間界』の関係に変えたようなのだ。もちろん原因がそやつだけの所為というつもりはないが、少しばかり面倒な事になった事は否めぬ」
ソフィは当然に自分の力が至らぬ結果だと前置きをした上で『ミラ』の洗脳も一因を担っていると口にするのであった。
そしてこの時に再び、ソフィの中でその『煌聖の教団』のミラによって利用された一人の勇者の存在が頭に過るのであった。
――『覚悟しろ、魔王ソフィ! 貴様の圧政も今日で終わりだ!』
それは大魔王ソフィが別世界へと向かう事になった最初の出来事であり、今もソフィを悩ます『統治』を呼び起こす勇者『マリス』の言葉であった。
後から再会した『ディアトロス』から聞かされた話では、この勇者『マリス』もまた『煌聖の教団』の総帥『ミラ』に幼少の頃から目を掛けられてソフィが『悪』だと根底の部分から洗脳されており、討伐をするように仕向けたのも『ルビリス』と『ミラ』の両名のせいだと言っていた。
全てが『煌聖の教団』に仕組まれた出来事であったのだが、ソフィは『統治者』としてその時の出来事に今も悩まされているのである。
どうやら目の前で過去を思い耽っている様子のソフィを目の当たりにしていたシゲンは、静かに思案をするように両目を閉じ始める。
――そしてこの後に『妖魔退魔師』総長シゲンから、思いもよらない言葉が飛び出すのであった。
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