1453.守旧派のはぐれ妖魔召士達の恐るべき熱量
※加筆修正を行いました。
コウヒョウの町にある蔵屋敷の中、集まっている多くのはぐれとされる『妖魔召士』が『イダラマ』が口にした言葉を皮切りに、思い思いの情報を口にしていた。
その中で『コウエン』は持っていた瓢箪で酒を口に注ぐように呑むと、ジロリと再びエヴィを睨みつける。しかしそれでもやはり、エヴィに喧嘩を吹っ掛けるつもりはなくなっているようで、すっと視線をイダラマに向け直した。
「実のところはイダラマ。お主が絵図を書いて『妖魔山』の管理権を『妖魔退魔師』側の組織へと移動させたのだろう?」
コウエンが静かにそう告げると、各々が持っている情報を照らして合わせていた『同志』達は唐突に黙り込み、慌ててコウエンの方へと向き直るのだった。
「いったい『コウエン』殿が何の事を言っておられるのかは存ぜぬが、これは当代の『妖魔召士』組織の連中が度重なる失態をおかした事で起きた結果なのですよ。その結果のおかげで私は『妖魔山』に入るのであれば今しかないと判断したまでだ。そして私と同様に『同志』であるコウエン殿達もまた『妖魔山』に目的を持っていたという事を思い出して話を持ち掛けたのだ。そこに他意などないが、何か不満でもあるのですかな? コウエン殿」
互いに『はぐれ』となった妖魔召士の身ではあるが、本来同じ『組織』であった頃は『イダラマ』と『コウエン』では組織の中での座布団が違い過ぎており、かつてはまともに会話を交わす事すら出来ない地位の差があった。
しかし今ではその前時代での『妖魔召士』組織で雲の上であった存在の『コウエン』に対して堂々と会話を交わしており、むしろ対等のよう言葉を吐くイダラマであった。
「いや不満などはあるわけがないだろう。この状況になるのをどれだけワシらが待ち望んでおったか! あのゲンロクの小僧が件の『妖狐』に怯えをみせて情けなくも居直ったせいで、ワシらはいくら研鑽を積んであの時の借りを『妖魔』共に返したいと思っておって『力』を蓄えたというのに、結局『組織』の頭が代わり、そのまま次代に移ってしまって『妖魔山』に入る事は許されなかったのだぞ? せっかくあの忌々しい『妖魔』共を屠る為に毎日修行に明け暮れたというのに、その成果を示す場を持たずにこのまま衰えて死んでいくのをワシは我慢できなかった! 一体何のためにワシらは『妖魔召士』になったのだと。何故、何の為にワシらは存在しておるのだと!!」
バンッ! と地面を強く叩きながらコウエンは吠えるようにそう口にする。
自分の口上をそのまま自身の耳で聞いて理解するごとに『コウエン』は熱量を上げていった。
まるでこれまでの人生を思い返して、自分の強さを示す場所があるというのに、自分より弱いものにその場所に上がる事を許されずにこのまま朽ちていくのを否定したいと、コウエンは本当に強く感じて、本当に強く、とても強く声を高らかに主張するかのようであった――。
「そうだ!! ワシら『妖魔召士』の本懐とは力を持たぬ同胞の人間達を『妖魔』の脅威から守るために存在するのだ! ノックスの世界に生きるワシら人間達が大手を振って何処でも自由に歩く事は当然の権利だろうが! 何故『妖魔』などに怯えながら仕事や旅を断念しなければならぬ! 何故ワシら同胞の人間達が『妖魔退魔師』組織の者達に守られて日々を生きなければならぬのだ!」
「そ、そうだ、その通りだ『同志』よ! 『妖魔退魔師』組織の連中はワシらを裏切っただけに留まらず、奴ら『妖魔』共を利用して、あらゆる町に生きる町人達に『護衛料』などというフザケたモノを月に渡って支払わさせておる! 結局は自分達の組織を潤わせるために『妖魔』を利用しておるだけではないか! 本当に町人達の安全を考えておるのであれば、法外な護衛料などをせびる真似をする筈がない!」
「その通りだ!! 『シギン』様が『妖魔召士』の頭領であった頃は大人しくしておった癖に! シギン様やあの『サイヨウ』殿が居なくなった途端に、妖魔退魔師共はこれ幸いとばかりに好き勝手を働いておる! しかし、何よりも気に食わぬのは『妖魔退魔師』組織が台頭してきて調子に乗っておるというのに、あれこれ言い訳を口にしながら弱腰の対応しかせぬ今の『妖魔召士』組織と『ゲンロク』達だ!」
「然り、然りだ!! ワシらは戦う事の出来る『妖魔召士』ぞ! このまま死を待つだけならば、ワシらは何の為に稚児の時から研鑽を続けてきたというのだ! 何の為に得た力なのだ!!」
「「然り、然り!!」」
コウヒョウにある蔵屋敷の隠し部屋で、かつての『妖魔召士』組織に属していた『妖魔召士』達は、はぐれとなった今でも思い思いの不満をぶつけ合い、こうして『同志』達の間で賛同を得ながら更に熱量を上げていくのだった。
『コウエン』や『サクジ』達は純粋に『妖魔山』に対して、自身の強さを試すという『誇示』の意味合いが強かったように思えたが、他の『同志』達は『妖魔山』というよりもその『妖魔山』に蔓延る『妖魔』に対しての不満、それに他の『同志』達は更に別の対象となる『妖魔退魔師』組織に対する不満。また更には当代の改革派の中心人物である『ゲンロク』や仲間であるはずの『妖魔召士』に対する不満などを爆発させるのだった。
この不満を言い合っている者達が、単に先程の居酒屋で飲んでいるだけのただの町人達であるならば何も問題はないのだが、残念ながらこの場に居る者達は全員が『妖魔召士』であり、更にはその中でも『上位』に位置する『魔力』を有する前時代の『力』ある妖魔召士達なのである。
そして前時代の妖魔召士組織に属している妖魔召士は、ほとんどが守旧派の妖魔召士達であり、当代の改革派の筆頭であった『ゲンロク』とは違い、各々が自分達の抱く思想の名の下に行動を取る『守旧派』である事も厄介さに輪をかけていた。
守旧派であった前時代の妖魔召士と、改革派の当代の妖魔召士。互いに同じ『妖魔召士組織』を名乗る妖魔召士であっても、その思想は全く正反対といえる場面も多く、こうして熱量が上がれば上がる程に、一度重なった不満をぶちまけられてしまえば、もう止まる手立てがないのではないかと思わせられるイダラマであった。
何よりイダラマもまた彼らと『同志』ではあるのだが、彼自身は彼らとは違い『改革派』側の思想を持つ側の『妖魔召士』なのである。
あくまで彼ら『はぐれ』となった『妖魔召士』達を利用しようとしてこういった場を設けるに至ったが、この場面を見たイダラマは付き合いきれぬとばかりに溜息を吐く始末であった――。
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