1450.九大魔王エヴィの恐るべき執念
※加筆修正を行いました。
コウエンの放った迸る魔力の波である『魔波空転』は、怨嗟の塊のような奇妙な術を放った首だけの『エヴィ』を狙い向かっていく。
そしてそのコウエンの『捉術』がエヴィを捉えたかと思われた瞬間であった――。
――神域、『時』魔法、『空間除外』。
何と『コウエン』の放った『捉術』が青髪の少年『エヴィ』の首を捉えたかと思われた瞬間に、彼の首のなくなった胴体の周囲に魔法陣が出現したかと思うと『スタック』されていた『魔力』が魔法陣に吸い寄せられていき、あっという間にその魔法陣は高速回転を行いながら『魔法』が展開される――。
そして『魔法』の効力によって、忽然とその目の前で最初からそのようなモノはなかったかの如く『コウエン』の『魔波空転』はこの世から消え去った。
更にそれだけでは留まらずに今度は、首だけの『エヴィ』の目が唐突に『金色』に光り始める。
同時にキィイインという甲高い音が周囲に響き渡ったかと思うと、エヴィの首がその場から消えるのであった。
「むっ!?」
エヴィの首があった場所を見ていたコウエンの頭上から、意識を失っている人間達が無造作に『コウエン』に覆いかぶさろうとするかの如く、身体が宙を舞ってコウエンに向かって飛んでくるのであった。
「ちっ!」
流石に人間の『コウエン』は同じ人間達を傷つけるつもりはないのか、そのまま自分に向かって投げ飛ばされてくる数多の意識のない人間達を避けようと、その場から後方へと飛んで思い切り距離を取ろうとするのだった。
――しかし、そこにはいつの間にか『首』が胴体と繋がっている青髪の少年『エヴィ』が目を金色に輝かせながら待ち受けているのであった。
――呪文、『呪蝕』。
「くっ! 今度は何をしやがった!?」
コウエンは距離を取るために飛んで宙を舞っている状態で、その先に立っていた『エヴィ』の呪いをまともに受けてしまい、自分の身体が何か得体の知れない『モノ』に浸食される感覚を味わうのであった。
それは強制的に相手の『耐魔力』を一時的に全て消失させて、完全に一般人以下にまで抵抗力を奪う呪いである。
「くそがぁっ! 面妖な魔術を次々と使いおって! しかし調子にのるなよクソガキ! この距離であればお主が何かをする前にこちらから先に命を奪ってくれるわぁっ!」
コウエンは間近に迫った『エヴィ』の首を掴むと、そのまま再び『動殺是決』でエヴィを仕留めようとするが、今度はコウエンの指がエヴィの首に触れた瞬間に、エヴィの身体が砂のようにサラサラと崩れるように消え去っていくのだった。
そして完全にコウエンの手からエヴィの姿が消えてなくなると、コウエンの真後ろにエヴィが出現を始める。
――ボクのダいじな『金色のメダル』を返せぇえええ!
「ぐおっ!?」
今度はエヴィが両手でコウエンの首を掴んで恐ろしい眼光を放ちながら、ゆっくりと『力』を込め始めていく。
口からはまるで呪詛を吐くかの如く、返せ返せと呟き続けていた。
他のコウエンの『同志』である『妖魔召士』達も指をくわえて見ているだけではなく、次々とエヴィを殺そうと『捉術』を放とうとばかりに近づこうとしたが、それを妨げる新たなエヴィの『呪い』が発動する。
――呪文、『嘆きの怨嗟』
数多の人の形をしたあらゆる顔の部分がないナニかが、一斉に彼らとエヴィの間に妨げるかのように出現したかと思うと、まるで生きている者達を羨むように、彼らは自分達にない顔の部分を奪い取ろうと『妖魔召士』達に手を伸ばしていく。
「くっ、め、面妖な……!!」
しかし彼ら人間の『妖魔召士』達もこの世界では有能にして、妖魔と戦う為に選ばれた戦士達である。
多少は驚きはしたモノの彼らは、直ぐに『魔力』を手に集約させて『エヴィ』が出した物の怪達に『捉術』を放っていく。
すると先程のエヴィのように、その物の怪達は砂のようにサラサラと原型が崩れていき、消え去っていくのであった。
だが、どうやらエヴィは『妖魔召士』達が、コウエンを助けようとするのを防ごうと物の怪達を時間稼ぎに使う為に出現させただけのようで、エヴィは先程自分自身が味わった事をそっくりそのままお返しとばかりに『耐魔力』を完全に失っている『コウエン』の首をへし折ろうと『魔力』を手に込め始めるのだった――。
「そこまでにしておけ、麒麟児!」
いつの間にか先程までは店の奥で『結界』を張って『アコウ』や『ウガマ』達を守っていた『イダラマ』がこちらも『嘆きの怨嗟』の物の怪達を消滅させた後に、コウエンを助けるように『イダラマ』も両手に魔力を込めて、強引にエヴィの両手をコウエンの首から外すのであった。
「じゃマをスルなラ『イダラマ』!! オマえカラ先にころシてやるぞォッ!」
イダラマに向けて放たれたそのエヴィの声は、先程までとはまた違う声であり、まるで幾重にも反響させたようなエコー掛かった声で、殺意をこれでもかとばかりに孕んでいた。
――そしてその声を聴いた『イダラマ』は無意識に手を震えさせられていた。
(な、何という恐ろしい殺意と威圧感なのだ! 魔力も戦力値も妖魔ランク『4』以下程にしか感じないというのに、こうして対峙してみると別だ。本当に私でさえ呆気なく殺されてしまいそうだ! や、やはりこやつを……! こやつを手放せば、私は今後必ず後悔する事になる!!)
――『天衣無縫』の『エヴィ』はアレルバレルの世界だけではなく、このノックスの世界の『力』を有する住人にも恐れられるのであった。
「お、落ち着け、麒麟児! お、お前の大事なメダルはここにあるんだ。ほら、受け取れっ!」
そう言ってイダラマはいつの間にか『コウエン』から奪い取っていた『金色のメダル』をエヴィに見せつけるように翳すと、そのまま振りかぶって思い切り遠くへと投げるのであった。
「ボクのイのちよリダイじな、アノ御方かラ頂イた大事ナダいじな『金色のメダル』!!」
エヴィはそう叫ぶように口にすると、イダラマの手の拘束から逃れるように再びサラサラと砂のように身体を崩したかと思うと、その灰色の砂のような形状のままで空を舞うようにして、飛んでいくメダルを追いかけるのだった。
そしてエヴィは空中で元の人型の身体に戻ったかと思うと、宙を舞うそのソフィから授けられた『金色のメダル』を震える両手で掴み、もう二度と失うものかとばかりに必死に懐にしまい込んでその場で蹲るのだった。
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