1442.サテツの一芝居
※加筆修正を行いました。
ヒュウガの一喝によって『牢』の中は再び静寂に包まれていた。
未だに彼を心の底から信じ切っている信者というべき『妖魔召士』達は、イダラマという男に信じるヒュウガを利用されたと疑われて歯ぎしりをする者や、話を聞いてはいるが今後の事を考えて憂鬱になっている者。
それにチアキのように後悔をして現実逃避をする者と、この『牢』の中の『ヒュウガ一派』はそれぞれが異なる事を考えているようであった。
「それで話を戻しますが、我々の元に遂に来なかった『イツキ』はどうなったか、貴方がたはご存じですか?」
静寂の『牢』の中で再びヒュウガは口を開くと、最後まで『加護の森』にこなかった『退魔組』のイツキの名を口にするのであった。
「イツキ……、ですか? 退魔組の?」
「そういえば先程お話しした事ではありますが、ここから解放される様子であった『退魔組』の者達の中に『頭領補佐』であった『イツキ』の姿は見えませんでしたな」
「もしかすると『サテツ』殿が捕縛されたと知って、我先にと逃げ出したのかもしれませんぞ」
ヒュウガにイツキの事を尋ねられた『テツヤ』と『タケル』は二人して『イツキ』の事を喋り始めたが、どうやら彼らもイツキの居場所を知らなさそうであった。
「そうですか……。確かサテツ、貴方が『加護の森』に向かう前に『イツキ』は退魔組を見張っていた『妖魔退魔師衆』を引きつける為に囮になったと言っていましたね? 結局その後は会えずじまいだったという事でしょうか」
それまで静観を貫いていたサテツだったが、直接ヒュウガに声を掛けられた事で、内心では溜息を吐きたそうにしながらも静かに口を開くのであった。
「ええ。この場所で目を覚ました時には、俺しか『牢』に居なかったですし、奴はもしかしたらすでに奴らに……!」
そう言ってどこか悲壮感を漂わせるような『サテツ』の口ぶりに、ヒュウガ達もイツキは死んだものだとばかりに勘違いをするのであった。
「……そうですか」
(いや、そんな筈はない。あのイツキが『妖魔退魔師』の『組長格』が相手ならばいざ知らず、単なる『妖魔退魔師』、それもたかが『妖魔退魔師衆』程度数人にやられるはずがあるか! しかしコイツは本当に何も知らなさそうではあるし、危険を察知して本当に『退魔組』から逃げたということか? くそっ! 『加護の森』に居る時に『イツキ』が居れば私たちは捕らえられる事無く、今頃は『コウヒョウ』の町に向かう事が出来ていたかもしれないというのに! アイツは何処に行きやがったのだ!)
サテツと会話をした後も何やら悩んでいる素振りを見せているヒュウガ。
その様子を見ていた『テツヤ』が再びおもむろに口を開いた。
「ヒュウガ様。イツキの行方は分かってはおりませんが、ひとまず外に出られる『退魔組』の『特別退魔士』であった者達に、我々の同志に伝言を頼んでおきましたので、もうしばらくここで我慢して頂けると、我々の同志達がコウヒョウから救出に来るかと……」
「なんですって? それは本当の事ですか?」
イツキの事を考えていたヒュウガは、新たに『テツヤ』が口にした言葉に笑みを浮かべるのだった。
……
……
……
妖魔退魔師の本部にある『牢』の中で『ヒュウガ』達が会話をしていた頃、先にその本部から出ていた『退魔組』の『特別退魔士』の『ヒイラギ』と『クキ』。
それに彼らの護衛であった『ミナ』達は『自由』になる事に希望を抱いていたが、現実には苦難に遭っているのであった――。
「な、何なんだよこいつら……!!」
「ひ、ヒイラギ! だ、駄目だ……。俺の『式』は全滅だ。そ、それに『サキ』達までも……! も、もう終わりだ」
そう口にする『クキ』の前に一体の『妖狐』が出現した。
【種族:妖狐 種位:気狐 戦力値 4400億】。
その妖狐が逃げようとする『クキ』と『ヒイラギ』の前へと躍り出たかと思うと、口から火を吐くのであった。
「うっ!!」
「ぎゃああっっ!!」
その断末魔を最後に『退魔組』の『特別退魔士』は自由を手にすることなく、この世から消え去ってしまうのであった――。
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