1439.嬉しい誤算と、思い出す絶望感
※加筆修正を行いました。
ソフィとヌーの会話に耳を傾けながら『シゲン』は、先程のソフィの『魔力』から放たれた『技法』について考えていた。
その技法の正体はこの世界にはない『理』から生み出される『空間除外』という『時魔法』の事であった。
先程のシゲンが放った刀技『桜花統崩』は、単なる妖魔退魔師達が使う『衝撃波』ではなく、ある程度の『魔力』であれば跳ね返す彼自身の特有の『刀技』であり、そのおかげで『イツキ』の『捉術』も掻き消す事が出来たのだが、その彼の刀技であっても『ソフィ』の『魔力』を伴った『力』は反対にシゲンの『刀技』を掻き消してみせた。
時魔法の存在を知っていれば『空間除外』の効力だと理解が出来るが、当然この世界の人間である『シゲン』はそんな事が出来るものだと思いもよらなかったようである。
(こちらの攻撃を未然に防ぐ手立てがあったのか、それとも発動を見てから行える技法であったのか。そこまでは分からないが、ソフィ殿には俺の刀技を防ぐ手段がある事は間違いない。それに何よりヒュウガ殿達の居る『牢』に張る事の出来る『結界』には『魔力』を奪う事も出来るようだし、下手をすれば『妖魔召士』と『妖魔退魔師』の両方を相手にする事もソフィ殿は可能なのかもしれないな……)
今は自分達に協力的である『ソフィ』達ではあるが、それもいつまで続くかは不透明である以上、色々と起こりうる可能性を考慮し始めるのであった。
(それにソフィ殿だけではなく、ヌー殿も警戒が必要だな)
ソフィの事を考えていたシゲンだったが、その横で今もソフィと何やら話を続けている背の高いヌーという男にも視線を向け始めるシゲンであった。
イツキを相手にあっさりと勝利した『シゲン』ではあるが、それでもこれまで『金色の体現者』としての『オーラ』を纏った事は数少なく、シゲンが『反射』の力を用いたのもここ数年にはない事であったのだ。
そんなシゲンに『金色』を使わせたイツキを相手に『魔族』と名乗っていた『ヌー』という男は、更に格の差を見せつけて戦わずしてイツキを黙らせてみせた。
妖魔ランクでいえば魔族『ソフィ』は『8』以下はあり得ないとミスズは言っていたが、この魔族『ヌー』もまたランク『8』以上だろうとシゲンは判断するのだった。
(あの『妖魔山』の『禁止区域』の調査には、最低でもランク『8』以上のモノ以外の同行は避けた方がいいだろうからな……)
当然『妖魔山』自体の調査には、ランクが『7』以下の副組長以下の隊士達も同行は許可するつもりだが、その先の『中腹』から『禁止区域』内となってくると、ランク『8』以上が望ましいとシゲンは考えていた。
『妖魔召士』組織からは『エイジ』と『ゲンロク』。この両名が同行。
そして『妖魔退魔師』組織からは『シゲン』『ミスズ』『ヒノエ』『スオウ』『キョウカ』が参加予定であり、そこに『ソフィ』達も同行を願い出ていたが、戦力としては『ソフィ』以外の者達は数には入れるつもりはなかった。
――だが、ここにきて魔族『ヌー』の強さを理解したシゲンは、嬉しい誤算だったと笑みを浮かべるのであった。
……
……
……
「それでは『イツキ』殿。我々が戻ってくるまで『牢』で大人しくしていて下さいね?」
その『牢』は『退魔組』の者達が入れられていた『牢』であったが、今はもう『サテツ』も『ヒュウガ』達の『牢』へと移動しており、他の退魔組の者達も居なくなっている為に、イツキだけとなっていた。
「ああ、分かっている……が、ただ一つだけ教えておいて欲しい」
「何でしょうか?」
眼鏡をくいっと上げながら『ミスズ』はイツキの問いに対して視線を向ける。
「あの化け物……。いや、ソフィ殿の『結界』とやらは、この『牢』にも影響が出るのか?」
「それをあなたが知ってどうしようと言うのでしょうか?」
イツキの問いに間髪入れずに問い返すミスズだが、その目は真意を確かめようとギラつかせていた。
「そんな怖い顔しないでくれよ。別に脱獄しようってわけじゃないんだ。ただ……、あのクソ野郎が最後に上から物を言っていただろう? 最初は頭にきたもんだが、奴の言い分は間違っちゃいなかった。この場で少し鍛錬じみた事をしてみようかと考えただけだ。どうせ当分は暇になるだろうから……よ」
ミスズはじっとイツキの視線を外さずに見ていたが、やがて溜息を吐いた。
「ソフィ殿の『結界』の規模は『ヒュウガ一派』の『牢』に限定されています。当初はここにも……というより『建物』全域に張って頂く予定だったのですが、あまりにもソフィ殿の『結界』は強力すぎるらしいので、一部に限定させて頂くことになったのです」
「確か……ソフィ殿の『結界』は『死の結界』とか言われていたんだっけか」
「ええ……。シゲン総長の部屋に居た貴方も内容はご存じでしょうが『魔力』に対する一切の全ての効力を無効化した挙句に、その術者の『魔力』を全て吸い取った上に、生命を枯渇した魔力の代わりに注ごうとすると、その生命すらも枯渇させて全てソフィ殿に吸われる……らしいです」
ミスズも自分で口にして何と凶悪で馬鹿げている『結界』なのだろうかと、再び怖気が走る想いを抱くのであった。
「何度聞いても呆れて物も言えねぇよな……」
イツキは笑う事も出来ずに溜息を吐くが、しかしそれも当然であろう。
ミスズ達のような『妖魔退魔師』達は『魔力』が使えないと言われても『オーラ』を使えなくさせられるくらいにしか考えが至らないだろうが、イツキのような『魔力』を中心に使って戦う退魔士達は、その全てを無力化させられてしまうのである。
――それは決して笑いごとではない。
そんな夢物語みたいな事を出来る筈がないだろうと口に出来ないのは、彼自身がソフィと戦った所為だろう。
確実に殺すつもりで放った『動殺是決』を直撃させてもピンピンしているどころか、嬉しそうに笑いながら逆に殺そうとしてきた『ソフィ』を思い出して、彼は『結界』も本当の事なのだろうなと背筋を凍らせた。
「貴方が『牢』の中で研鑽を積もうが鍛錬を行おうが、それ自体は勝手ではありますが、もし脱獄しようとするのであれば、覚悟はして頂きますよ? もう貴方の存在を我々『妖魔退魔師』は認識しました。何処へ逃げても必ず貴方を追い詰めて再び『牢』へと繋ぎますから、余計な事は考えないように願います」
眼光を鋭くさせながらそう告げるミスズの言葉を聴いたイツキは、素直に首を縦に振るのであった――。
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