1437.気持ちのぶつかり合い
※加筆修正を行いました。
「ははっ……、なんだよ。ここで俺がいくら考えを張り巡らせても、結局どうにもならなかったって事かよ」
イツキは演技ではなく本当に自暴自棄になってしまっているように見えた。
しかし彼がこうなっている理由も分からなくもなかった。
これまでの彼は自分の強さを隠しながらも上手くこの世界を立ち回り、脅威から身を遠ざけて安全に行動を行えていたが、この『妖魔退魔師』組織と正面からぶつかってしまった事でこれまでの地盤が崩れてしまった。
あらゆる分野に秀でた人材を集めて『煌鴟梟』という組織を立ち上げたイツキだったが、それを成し遂げてこられたのは、あくまで彼の内包する『自信』があったからこそ行えてこれたのである。
彼自身が自分の強さの限界を知らずまた『金色の体現者』としてのオーラを発揮した時による『全能感』であった事に加えて、これまで自分より強いと思える存在に中々出会わなかったことで『自信』を肥大させていったのだが、ここにきて自分と同じ『金色の体現者』である『ソフィ』や『シゲン』といった猛者と出会い戦った事で、その過信していた『自信』を徐々に失わされてしまった。
自分の『自信』の源であった強さの部分で圧倒的な差を見せつけられたイツキは、自分が特別な存在ではなかったという失望感と、自分が見下してきた他の者達と何も変わらなかったのだと受け入れてしまった。
有り体にいえば『上』には『上』がいたという事なのだが、自分より『上』であると認めた『シゲン』と『ソフィ』の両者が一体どれ程自分より差があるのかが、全く掴めていない状態である事がまた『諦観』に拍車をかけてしまっていたのだった。
自分より強いのは間違いないのだろうが、その差が分からない以上はこれからどれだけ強くなれば追いつけるのか。
今後の寿命を費やしたとしても追いつけるのかどうか。
それそらも分からない状態に陥り『無気力感』に苛まされている状態であるといえる。
そしてこの状態こそが、かつて大魔王『ヌー』が、大魔王『ソフィ』に対して抱いたものと同一のものであり、彼は数千年という日数をかけて、ようやく挫折を乗り越える事が出来たのであった――。
実際にソフィと手を合わせて何も出来なかった挙句に、自信の源であった『魔力』を使った『捉術』。
その『捉術』そのものが封じられた上に相手に『魔力』そのものを奪われる『結界』を半永久的に張られ続けると聞かされたイツキは、もうどうしていいか分からなくなってしまったのである。
自分の得意な分野で圧倒的な敗北感を抱かされたイツキを前にして大魔王ヌーは、腕を組んだ状態でイツキを睨みつけていた。
「なんだよ……、何見てんだよ」
その視線に気づいたイツキは、ヌーに視線を返して口を開いた。
「ククッ! たかが『金色の体現者』ってだけでイキがっていた奴が、同じ『金色の体現者』を相手に完膚なきまでに叩きのめされて、情けない面みせてんのが面白れぇと思っただけだ。ざまぁねえな、クズのボン〇ラ! 自分が如何に雑魚だったか思い知ってどんな気分だ? 惨めでどうしようもないってところか? 身の程を知ったならさっさと『牢』に戻れよ負け犬が!」
「ちょっ! ぬ、ヌー殿――……」
あまりに酷い暴言の嵐に、驚いて目を丸くしたミスズが間に入ろうと声を掛けようとしたが、そこでソフィがミスズを手で制止して駆け寄ろうとするのを妨害する。
「そ、ソフィ殿!?」
再び驚いたミスズは制止するソフィを見たが、彼はミスズを見ながら首を横に振っていた。
どうやら成り行きを見守れと言いたいのだろう。彼の視線がそう物語っていた。
「な、何だとてめぇ!? 一体俺がどんな気持ちでいるのか分からねぇくせに好き勝手言いやがって!!」
ぽっきりと自信を折られて地面に足をつけていたイツキは、額に青筋を浮かべながら立ち上がり、ヌーを睨みつけるのだった。
「情けねぇ面して勝手に終わってやがる野郎の気持ちなんざ、これっぽっちも知りたくもねぇよ。力がねぇ癖に仲間の仇を取ろうなんざ身の程を弁えねぇから、そんな気分に陥るんじゃねぇのか? いっぱしの口叩く暇があるなら強くなろうと考えやがれや! 少しでも悔しいって気持ちをもってんなら、自分の野望を叶えようと努力をしやがれ! なっさけねぇ面していつまでも愚痴はいてんじゃねぇよ! 辛気くせぇんだよクソ雑魚野郎!」
「て、てめっ……!!」
再びイツキが『金色』と『瑠璃』の『二色の併用』を纏わせ始めたが、その瞬間に彼が睨みつけていた眼前の大魔王『ヌー』もまた、同じように『金色』と『瑠璃』。
――そして『柘榴色』の『三色併用』を纏わせるのであった。
「うっ……!」
イツキは目の前の大魔王『ヌー』の桁外れの『魔力』を見てうめき声をあげた――。
爆発的に『ヌー』の戦力値と魔力値が増幅されたかと思うと、一瞬で『イツキ』の戦力値と魔力値を抜き去っていき、更にヌーは見下すようにイツキの纏わせているオーラを見た後、蔑むように笑って最後にイツキの顔を見るのだった。
「何だよ? 俺に喧嘩売ろうとしたんじゃねぇのか? 身の程を分からせてやるから、さっさと殴りかかってこいやクソ雑魚がぁっ!」
ヌーが怒号をあげると目の前に居たイツキは悔しそうに歯噛みをしながら『オーラ』を更に増幅させようとするのであった。
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