1424.見当違い
※加筆修正を行いました。
「それでは貴方がたに伝えるべき事は終えましたので、今後ここに残ったままでいるか、それとも出ていくのかを確認したいと思います」
『退魔組』の者達に話すべき事を全て伝え終えた後、後は『退魔士』達がここに残るか、当面の間の監視下での『自由』を得るかを確認し始めるのだった。
よっぽどの理由でもなければ誰もが『自由』を得たいと考えるのは当然であり、その自由も本来は手に入らないものだった。
偶然にもイツキの行った『交渉』のおかげで降ってわいた幸運の『自由の権利』をわざわざ放棄するる輩は居ないだろうと胸中では『サシャ』も考えている。
しかし一応は尋ねるのが決まりである為に、仕方なく確認を行わざるを得ないサシャは、この場に居る退魔士達の顔を確認していくのだった。
誰もまだサシャに明確に『出ていく』と口にしてはいないが、それは『上』の立場に居る『特別退魔士』達がまだ表明していない為に、他の退魔士達は『ヒイラギ』や『クキ』より先に言うわけにもいかず、どうやら『部屋住み』の者達や『下位』の退魔士達は、内心では早く出ていきたいと口にしたいのを堪えて待っている様子が見て取れるのだった。
そんな彼らの表情を確認していくサシャだが、そのサシャの視線はとある『退魔士』の顔で止まる。
――その退魔士は『特別退魔士』の一人『ユウゲ』であった。
彼は他の者達とは違い、他者の顔色を窺っている様子もない。
それもその筈『ユウゲ』は退魔組の中では現在三人しか居ない筈の最も上の立場に居る『特別退魔士』なのである。
しかし顔色を窺う必要もなく、独断で直ぐに『自由』を手にするために外に出ると言える立場にあるのに拘わらず、むしろ他の下位の退魔士達よりも険しい表情で悩んでいる様子だった為にサシャの目に留まったといえる。
すでに説明を終えているサシャが、いち退魔士に何を悩んでいるのかと聞くのもおかしい為に、そのまま無言のままでユウゲの様子を窺っていると、その近くに居た同じ『特別退魔士』の『ヒイラギ』が口を開くのだった。
「せっかくの好機を『イツキ』が作ってくれたんだ。奴の行ってくれた『交渉』を無碍にするわけにもいかねぇだろう。俺は当然出させてもらう。退魔士としての活動も当分は控えるし、あんたらの監視下に置かれた『自由』であっても構わないよ。外に出させてくれ」
「ああ。ヒイラギに同意する。俺も出させてくれ」
ヒイラギの隣に居た『退魔組』では『上』の立場に居る『特別退魔士』の『クキ』もそう告げると、その護衛であった者達『ミナ』や『サキ』達も手を挙げて『自由』を望むのであった。
『特別退魔士』でまだ表明していない『ユウゲ』が悩んだ様子で無言を貫いている為、彼の護衛剣士である『ヤエ』も手を挙げるような真似をせずに、じっと心配そうに『ユウゲ』を見つめていた。
「だ、だったら俺も出させてほしい!」
「おれもだ! 退魔士はもう辞めて、田舎に帰って畑を手伝う事にする!」
「お、俺も……」
退魔組に属する『上』の立場の人間が『自由』を選んだ事で、その言葉を待ってましたとばかりに『中位』や『下位』それに部屋住みの者達も続々と外に出たいと申し出るのであった。
「は、はいはい! 分かりました。それでは確認の為に名簿を作らせて頂きますので、こちらに名前と役職等々をお願いします」
サシャが事務作業に追われ始めたのを横目に『ユウゲ』は、このまま本当に『イツキ』の元を離れるべきなのだろうかと思案を更に深めていく。
そこに先に外に出ると告げた『ヒイラギ』が『クキ』達を伴って、ユウゲの元へと近づいてくるのであった。
「ユウゲさん。一体何を迷っているのですか? そもそも俺達とケイノトで別れてから何があったんです?」
「ユウゲ殿。ここに残っていても『頭領』や『妖魔召士』様方と出られる保証なんてないんですよ? 貴方は『退魔組』で一番の古株だ。立ち上げの時から『特別退魔士』として活動されている貴方の事だ。ゲンロク様の作られた『退魔組』がなくなる事を憂いで最後まで『退魔組』として残ろうと考えておられるのだろう? しかしここは俺達と共に一度離れるべきだと思う……」
「は? い、いや、違う……。ワシは別に……!」
「謙遜しないで下さい! 俺達は『ユウゲ』さんにこれまで助けられてきたんだ! 貴方の考えている事くらい分かりますよ! 前回も俺達の為に『加護の森』から頭領の元に戻って代わりにお叱りを受けて下さったし、ついこの間だってあの『イツキ』に知らせに門からわざわざ戻って伝えに行ってくれた。貴方はいつでも一番辛い事やしんどいと分かっている事を引き受けてくれていた……! もうこれ以上苦労することありませんよ!!」
「そ、そうですよ! ユウゲ様! わ、私は『退魔組』を離れても、ゆ、ユウゲ様さえよければお傍にいつでも……!」
ユウゲの護衛を務めている『ヤエ』も『ヒイラギ』達の言葉を聴いて感極まったのだろう。
ユウゲの手を握りながら涙を浮かべながらそう口にするのだった。
どうやらヒイラギとクキはユウゲを想って迷っている彼に声を掛けてくれたのだろうが、しかし別にユウゲはこれっぽっちも『退魔組』の事など心配をしていたわけではなかった。
それどころかユウゲは一度は『退魔組』を見捨ててでも『イツキ』に生涯付いて行こうと決めたくらいである。
しかしそんな事を馬鹿正直に話すわけにもいかず、ユウゲは見当違いの勘違いをしている『ヒイラギ』や『クキ』達に何て言おうかと更に悩みが増えてしまうのであった。
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