1420.見たことがないサテツの表情
※加筆修正を行いました。
ミスズに連れられてイツキは『退魔組』の者達を入れている牢の前にやってきた。
牢の中に居た者達は誰も喋っておらず静かであったが『ミスズ』が姿を見せると俄かに騒がしくなるのであった。
「お疲れ様です」
牢の前に立っていた見張りの妖魔退魔師がミスズに頭を下げると、直ぐに頭をあげるようにとミスズが手を挙げた。
「シゲン総長からの命令で『サテツ』殿以外の『退魔組』の者達を全員出す事に決めたから、外へ出す準備を直ぐに行ってちょうだい」
「「えっ……、ええっ!?」」
数人の見張りが同時に驚きの声をあげたが、ミスズが一睨みすると直ぐにいわれた通りに牢を開け始めるのだった。
牢の扉は開けられたが、中に居る者達は誰も動こうとはしない。
ミスズが中に居る者達に視線を送ったが、退魔士達は頭領の『サテツ』に視線を送るだけで、変わらずだれも出てくる様子はなかった。
どうやらこの場に居る『退魔組』の退魔士達は『サテツ』に怯えていて、そのサテツの指示が出るまでは勝手な事をするつもりはないようだった。
「何をしているのですか。早く外に出てください」
痺れを切らしたようにミスズがそう告げると、サテツは自分に視線を向けてきている退魔士達に軽く頷いて見せるのだった。
すると直ぐに『退魔組』の隊士達が次々と牢から出ていく。
「結構。今この牢を出られた貴方がたは、ここに居る『イツキ』殿が行った『シゲン』総長との『交渉』によって外に出る自由を得る事が出来ました。今から別室で他の者から詳しい説明を行わせますが、あくまで大人しくしていている者に限りますので、その点をご留意の上でご移動をお願い致しますね?」
「「えっ……!?」」
まさか本当に捕縛を解いて自由にされる為に外に出されると思っていなかった『退魔士』達は、全員が驚きの声をあげてイツキの方に視線を向けるのだった。
「気にしないでください。皆さんせっかく自由の身になれるのですから、暴れたりしないようにしっかりと妖魔退魔師の皆さんに従って下さいね」
イツキは『退魔組』に居た頃の通りに振る舞い、ニコリと微笑みかけながら他の退魔士達を見送るのであった。
「と、頭領補佐……!!」
退魔士達が感動したとばかりに熱い視線をイツキに向けている。
中には目元をウルウルとさせている者も居るくらいであった。
そして退魔士達はイツキに無言で頭を下げる者や、実際に感謝の言葉を口にする者も居たが、その中に『ユウゲ』の姿もあった。
ユウゲは他の者達とは違い、感謝の言葉などは口にはしなかったが、彼の挙動一つ見逃してなるかとばかりにじっくりと見つめ続けているのだった。
それを見たイツキは『ミスズ』が彼から視線を外して、他の連中を外に出そうと促す一瞬の隙を見計らい、ユウゲに視線を合わせると、口元だけを動かしてみせた。
「!」
ミスズが再び視線をイツキに戻す前にユウゲは頷いて見せて、そのまま他の隊士の者達と共に出ていった。サテツの方も『ヒイラギ』や『クキ』が挨拶をしにきていた為に、その二人のやり取りを見逃してしまうのだった。
「それでは後でまた呼びに来ますので、それまでは大人しくしておいて下さいね?」
「ええ、分かっていますよ」
眼鏡をくいっと上げながらミスズは『イツキ』にそう告げると、見張りの者に目配せをしてそのまま牢を出ていくのであった。
彼女はこの後ソフィの『結界』の内容を『シゲン』に伝えに行くのだろう。
大人数居た牢の中が二人だけになった事で『サテツ』は、広くなったと感じながら静かに口を開いた。
「……さっき『ミスズ』殿が言っていた事は本当なのか?」
「シゲン殿との交渉の件の事ですか?」
「そうだ。そもそも何故お前が『妖魔退魔師』組織の総長に直接呼ばれたのか分からないが、俺と別れたあの後に『ケイノト』であったんだろうという事は察せられる。その事には興味もないし深く聞くつもりもないが、お前のおかげで『退魔組』の連中が牢の外に出られた事に関しては感謝している。お前には再び会えたら礼を言うつもりだったんだが、もう一つ感謝する事が増えたな」
「退魔組の屯所から出るときも囮を引き受けさせて悪かったな。そしてありがとな? イツキ」
そう言って『サテツ』は優しい顔をしながらイツキに笑みを向けて感謝の言葉を告げるのだった――。
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