1413.総長シゲンの試すような視線
※加筆修正を行いました。
ソフィ達の部屋で『結界』についてミスズ達が話をしている頃、シゲンだけが居る部屋に『退魔組』の『イツキ』が手を拘束された状態で姿を見せていた。
イツキが『ヒュウガ一派』とは別行動を取っていたという事は『キョウカ』組長からの報告で既に理解しているシゲンだったが、それでも『退魔組』に属する頭領補佐という立場である事を踏まえて話を聞くために、こうして連れ出されたというわけである。
「部下の報告でお前がかつて『煌鴟梟』という約縁集団を率いていた者で、現在は『退魔組』の頭領補佐という役職なのは間違いないか?」
「ああ。それで間違いないよ」
厳かな雰囲気の中で恐ろしい程の威圧を放っている総長『シゲン』に尋ねられた『イツキ』だが、少しも怯む様子を見せずに口を開いて頷いて見せるのだった。
ソフィやヒノエ達に『煌鴟梟』の初代のボスだという事を知られていた時点で、誤魔化しても言い逃れ出来ないと判断しているようで、堂々と普段通りに振舞うつもりのようであった。
「退魔組の頭領である『サテツ』殿はヒュウガ殿の招集に応じて『加護の森』に向かったようだが、お主は何故ケイノトの裏路地に向かっていたのだ?」
「知り合いを俺の家で待たせていたからだよ。合流して俺も『加護の森』に向かう途中だったんだが、そこであんたらの組織の『ヒノエ組長』に見つかっちまって捕縛されたってわけだ」
「成程。その知り合いというのは『煌鴟梟』の者だな?」
「ああ……」
(ちっ、全てを分かっているだろうに、いちいち確認されるのは鬱陶しいな。どうせヒュウガ殿と行動を共にしていなかったにせよ、俺もユウゲ達もヒュウガ殿と同様に牢にぶち込むつもりだろうがよ)
胸中でそう吐き捨てながら睨むように、返事をするイツキであった。
手を縛られているイツキだが、こんな程度の拘束であれば彼はいつでも外す事も出来るし、その気になれば直ぐにでもこの場で戦闘態勢を取ることもできるのだが、それをしない理由は目の前で分かりきっている事をいちいち尋ねてくる存在が、妖魔退魔師組織の総長である『シゲン』だからであった。
イツキもシゲンとは直接手を合わせた事はないが、それでもこれまでの『妖魔』討伐を行ってきたシゲンの噂はイツキも『煌鴟梟』の仲間を通じて聞いているし、こうして実際に本物を前にしたイツキは『戦っても勝てないだろうな』と薄々ではあるのだが理解させられていた。
「で? そろそろ俺だけをこの場に呼んだ本当の理由を教えてくれねぇか? まさか旅籠町に居るあんたらの仲間を襲うように仕向けたのがヒュウガ殿じゃなくて、俺だと疑っているわけじゃないだろ?」
「……」
何かを探るようなシゲンの視線に晒され続けて、いい加減我慢の限界だとばかりにイツキがそう口にした瞬間だった――。
「!?」
シゲンの視線の種類が明確に変わり、探るようなモノだった視線が『標敵』に向けるような視線へと変わったとみるや、イツキは自衛の精神が咄嗟に働き、全身に『金色』を纏った後に、両手を縛る拘束を魔力を使った『力』で強引に引きちぎるとシゲンの視線から強引に離れるように動き、右手をシゲンに向けながら何も考えずに『捉術』ではなく自身の『魔力』をそのままぶつけるのだった。
「むっ!」
シゲンも椅子から立ち上がると、腰鞘の刀を抜き去った――。
完全に『力』をコントロールされたそのシゲンの剣技によって、衝撃波にまでは発展せずに剣圧だけを放って『イツキ』の『魔力圧』を強引に搔き消すと、最初から何も起きてはいなかったの如く場に静寂が戻るのだった。
「ははっ……。流石は化け物揃いの『妖魔退魔師』達を束ねる総長シゲン殿だな……っ!」
あっさりと自分が放った『魔力圧』を完璧に相殺出来るように調節を行われたのを知り、苦虫を嚙み潰したような表情でそう口にする『イツキ』であった――。
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