1405.変化の連鎖
※加筆修正を行いました。
これまで鬼人の攻撃を凌いできたテアは、相手の隙を狙って一気に懐へと入り込むと『漆黒』と呼ばれる『死神』達の使う黒いモヤのようなモノを大鎌に纏わせた後、下から一気に掬い上げるようにして鬼人の身体を斬り上げた。
その瞬間――。
鬼人の妖魔は自分の死期を悟ったかの如く、なりふり構わずに目の前に居る『テア』に向かって拳を振り下ろしてくるのだった。
「――」(このまま放っておいても勝手に死ぬだろうが、私も自分の力を試そうと考えていたところだ。お前のやる気は私にとってもありがたいぞ)
『漆黒』と呼ばれた黒いモヤがかった大鎌を両手で握った『テア』は、眼前に迫る鬼人の振り下ろしてくる拳に視線を合わせると、次の瞬間にはその目が紅く輝きを放つのだった――。
「!?」
すると真上から拳を打ち下ろしてきていた鬼人の身体そのモノが、後ろへのけぞり始めたかと思うと、そのままテアから大きく弾かれるように吹き飛ばされていった。
やがて遠く吹き飛ばされた『鬼人』はそのまま立ち上がる事も出来ず、そのままぼんっという音と共に一枚の紙札に戻されるのだった。
「――」(やれやれ……、これからが本番だったんだが。まぁ下界の存在ならば、普通はこんなものだろうな)
目を紅くしている『テア』は静かにそう呟くと、自身の全身を覆っている『黒いオーラ』を消し去るのだった。
――鬼人と先程まで戦っていた時のテアは『黒いオーラ』を纏ってはいなかった。
つまり通常状態の『テア』でランク『4』に至っている鬼人と戦えていたという事であり、最後の一撃の瞬間にだけ纏った『黒いオーラ』によって、その普段の状態から何倍もの『力』の増幅が行われたようである。
どうやら彼女自身が口にしていた通り『ダール』の世界で大魔王『ヌー』と戦った時とは、比較にもならない強さを『テア』も身につけていたようである――。
「――」(あの時も咄嗟に襲われなければ、この『力』を使えば私が勝てたと思うんだけどな……。まぁおかげでアイツが強くなれたと思えばいいか。私に感謝しろよ『親愛なる大魔王』……。なんてねっ!)
契約を行った下界の魔王に対して『死神皇』がよく口にする呼び方を真似た『テア』だったが、どうやら少しの照れがあったようで、誰も聴いていないと理解しながらもそう誤魔化すのだった。
あの時というのは『煌鴟梟』のアジトでヌーを庇おうと動いた時に『ヒロキ』に襲われた時の事を言っているのであろう。
彼女はヌーを守るために咄嗟の判断で動いた為『黒いオーラ』を纏う暇がなく、通常状態で今のランク『4』の鬼人と戦った時と同じように『ヒロキ』と戦わざるを得なかったが、もしあの時に『黒いオーラ』を纏えていたならば、また結果はかわっていたかもしれない。
大魔王『ヌー』と出会う前の彼女であればもっと悔しそうにしていただろうが、今の彼女はそこまで悔しそうには見えない。
むしろ『私のおかげでヌーは強くなったんだ』とヌーの為になれたならそれでいいと考える事が出来るようになっており、変わったのは『ヌー』だけではなく相対的に『テア』もまた、ヌーと関わった事で変化が生じ始めている様子であった。
……
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「――」(見たか……? テア様のあの『紅い目』を使ったところを……!)
「――」(あれは『死神皇』様だけが使える『魔瞳』の筈だが……)
「――」(やれやれ……。少しはテア様に追いつけたと思っていたが、あの御方は更にお強くなられていたようだ)
遠く離れた場所からテア達の戦いの様子を余すことなく見ていた『死神貴族』達は、鬼人相手に放った『紅い目』の正体が『死神』を束ねる『死神皇』の編み出した『魔瞳』だったと判断するのだった。
この『魔瞳』は先程テアが使った『漆黒』と同様に、相手の命に対して直接作用する『神位』を持つ神である『死神』達の中でも限られた存在にしか扱う事の出来ない『力』であり、同じ『死神』であってもこの戦いの様子を見ていた『死神貴族』達や、幽世の世界に居る上位の『死神』の存在である『死神貴族』達でさえ、まだ習得が出来ていない『技法』であった。
――現時点では『死神皇』と『死神公爵』である『テア』にしか使用が出来ない『魔瞳』という事である。
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