1404.経験と焦り
※加筆修正を行いました。
テアが思惑を変えてから戦闘は思わぬ方向へと変貌を遂げていった。
戦闘当初は『テア』と『鬼人』が互いに真っ向からぶつかり合っていたが、勝負を急がせようとする『鬼人』の戦いぶりに『テア』側が身を引くように、自ら攻撃を仕掛ける真似をせずに『回避』を優先するような消極的な戦いに変えていったのである。
そしてテアと鬼人が戦いを行い始めてから、決定打が放てないままにある程度の時間が経った。
この場所からはその姿は見えないが、鬼人の本来の契約主である『チアキ』が遠くの方で戦い続ける音が鳴り響き、そしてその契約主のチアキから守るように頼まれた『キネツグ』もその姿が徐々に見えなくなってきている。
――その原因は何を隠そう『テア』のせいであった。
完全に守りに入った『テア』は上手く『鬼人』の攻撃を捌いて防ぎ、自身から攻撃を仕掛けるような真似をせずにひたすら受け続けていた。
それも少しずつ身を引いて、鬼人が気付かない僅かな距離感を保ち続けてであった。
その所為で『キネツグ』の姿が見えなくなってきたというワケである。
そしてそのことにようやく気付いた『鬼人』は相当に焦っているようで、振り回す拳にも目に見えて粗さが目立ってきた。
これまでは丁寧に鬼人の攻撃を目で確認を行ってきた『テア』だが、徐々に視線は手先ではなく『鬼人』の視線をしっかりと捉え始めていた。
ランク『4』の妖魔の『力』任せの攻撃を感覚だけで防ぐのは相当に難しい。
それも視線を相手の次動作に対応する為とはいっても、相手の手元から一時的に外しているのだから、それが如何に恐怖心を煽る事なのか。
これがランク『3』程度のこの世界の『予備群』達が『鬼人』相手に行っていたと仮定するならば、彼らはすでに卒倒している事だろう。
そこで見るからに鬼人の妖魔が、これまでより肩口が開いたのを『テア』は見逃さなかった――。
放った側の鬼人が大振りになってしまった事に気づく前にテアは、その大振りの右拳に対して待っていたといわんばかりに、大鎌を持つ両手に『魔力』を集約し始めたかと思うと、大鎌に『黒いモヤ』が出現し始めた。
そして鬼人の大振りを搔い潜って、そのまま相手の懐に入り込んだテアは下から救い上げるように『黒いモヤ』掛かった『大鎌』を振り上げた。
これまで鬼人の攻撃を耐えに耐え抜いて、隙が出来るのを待っていたテアだった。
……
……
……
「――」(『テア』様の勝ちだな)
キネツグが逃げないように彼の周囲を見張りながらも、遠くから『死神公爵』の『テア』と『鬼人』との戦いを見守っていた『死神貴族』の『ナイトメア』がそう呟いた。
「――」(ああ……。テア様の『漆黒』が宿っている鎌にあれだけ深く斬りつけられたんだ。もうどう足掻いてもあの鬼の化け物に勝ち目はない)
「――?」(……待て、テア様の様子が変だぞ?)
『ナイトメア』の言葉に同意するように『トワイライト』が答えたが、その後に『パーミスト』が視線をテアに向けながらそう告げるのだった。
パーミストの言葉に他の『死神貴族』達もテアの方を向き始めたが、その瞬間に取り囲まれていた『キネツグ』が動きを見せた。
そのまま『死神』達の視線が自分から外れたのをこれ幸いとばかりに、懐から『鳥』の『式札』を取り出そうとするのだった……、が――。
パシンッ! という音が鳴り響くと同時に、キネツグが懐から取り出した『式札』だけを器用に死神の鎌で真っ二つにしてみせるのだった。
「――!」(大人しくしていろ。テア様が何をなされるか見逃すような事になれば、今度はその手首を切り落とすぞ人間!)
「ひ、ひっ……!」
『パーミスト』と名乗っていた『死神貴族』は恐ろしい視線を『キネツグ』に向けると、キネツグは素っ頓狂な声を上げながら怯え始めて、その場で大人しくなるのであった。
……
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