1396.卓越した実力を持つ者達の攻防
※加筆修正を行いました。
(戦いたくはないが、こうなってしまった以上は戦わざるを得ないか……。出来れば『キクゾウ』と『黄雀』も交えて戦いたいがあちらも戦闘中である以上はそれは望むべくもないか)
「仕方あるまい……」
そう呟いたヒュウガは静かに息を吐く。
眼鏡を外して『瑠璃』を纏う妖魔退魔師『ミスズ』を前にして、遂に『ヒュウガ』も戦闘態勢に入り始めるのだった。
ヒュウガ達『妖魔召士』は戦闘態勢に入ったとはいっても『ソフィ』や『ヌー』達のような別世界の『魔王』のように、膨大な魔力を可視化させるような真似をほとんどする事はない。
つまり『ミスズ』のような『妖魔退魔師』達にとっては『式』を出さない『最上位妖魔召士』が戦闘態勢に入ったとしても『魔力』を感知が出来ない為に、その変貌ぶりに気づくことは出来ない。
だが、今の『ヒュウガ』の魔力を感知が出来る存在にして、ヒュウガが常時張ってある『魔力隠匿』の『結界』を突破出来る者であれば、これまでとは明確に違っている事に気づけたことだろう。
――今の『ヒュウガ』は妖魔ランク『8』に匹敵する程の恐ろしい存在と化していた。
この状態の『ヒュウガ』は魔力だけならば『妖魔召士』組織の暫定の長であった『ゲンロク』に肉薄している為、数多く居る『妖魔召士』の中で五指に入る程の強さといえた。
つまり『オーラ』という『技法』を抜きにした純粋な『魔力値』という基準で考えるのならば、あの『イツキ』より上である。
『ミスズ』はそんな『ヒュウガ』を前にしても表情一つ変える事はなかった。
しかしそれは彼女に他者の『魔力』を感知する手立てがないのだから仕方のないことではあったが、もし『魔力』を感知出来たとしてもそれでも彼女は顔色を変える事はなかっただろう。
それ程までに今の『ミスズ』は目の前の『ヒュウガ』を倒す為だけに集中を行っていたからである――。
――刀技を扱う『ミスズ』と捉術を扱う『ヒュウガ』。
互いに『近距離』『中距離』『遠距離』全てに対応が出来る者同士。どちらも戦闘態勢に入っている今の状態で睨み合いが続いていた。
そして先に動いたのは『ヒュウガ』だった――。
唐突にヒュウガの目が青く光り輝くと、その瞬間にミスズは地を蹴って前へと飛び出した。
――魔瞳、『青い目』。
魔力が迸りながら波となってミスズに向かっていったが、その魔力の波を完全に見切っているミスズは、ヒュウガとの距離を一気に潰して間合いに入り込んでいくのだった。
だが、しかしこの展開は『ヒュウガ』の望んだ通りであった。
ミスズは先手を取る事の出来る『霞みの構え』を取ってはいたが、何もこの構えを取っているから必ず先手を取りに来るとは限らず、あらゆる攻撃手法に裏付けされた技巧を兼ね揃えている『ミスズ』は、たとえ『霞みの構え』のままでも『後の先』を狙う事も可能であった。
つまり『ヒュウガ』にとっては一定の待ちを取られ続けているミスズの状態を嫌って、先にミスズを動かしたいと考えていたのだろう。
だからこそヒュウガはあえて躱されると理解している『魔瞳』を先に放ったのである。
対してミスズは動かされた形となったが、すでにそのことは彼女自身も理解しており、それならば一向に構わないとばかりに『突き』を狙った突進の形で『ヒュウガ』に距離を詰めていくのだった。
そのまま身体ごと体当たりされるのではないかというほどのミスズの突進を前にして、ヒュウガはようやく自分の間合いに居るミスズに対策を講じ始める。
――僧全捉術、『魔重転換』。
「ちっ……!」
ヒュウガを刺突せんとして特攻してくるミスズの動きが僅かに鈍くなる。
それでもかなりの速度が出ている状態ではあるのだが、最早このミスズの速度はヒュウガの中では十分に対処が出来る状態のようで慌てる様子もなく、そのまま向かってくるミスズに対して冷静に追撃を仕掛けていく。
――僧全捉術、『動殺是決』。
まだ十分に速度を保ってはいるミスズに対して、既に対応可能だと判断したヒュウガは完全に捉えたとばかりに殺傷能力が非常に高い『捉術』を選択した。
確実に脳を揺さぶる一撃が直撃したかと思われたが、体当たりを行ってきているそのミスズの持つ刀の切先が忽然と姿を消していた。
「むっ……――!」
ミスズはすでに自身の動く速度が鈍くなったと察した瞬間から、咄嗟に悟られないように自身の刀技である『幻朧』を用いて、刀の切先を消してそのまま突っ込んでいたのであった。
だが、あわやというその瞬間に『ヒュウガ』は、ミスズの刀の切先が消えている事に気づき、伸ばしていた手を引っ込めて、強引に身体を捻って迫ってきているであろう『ミスズ』の刀を躱すことを優先するのであった。
ミスズは二度目の舌打ちをしながら自身の『刀技』が避けられたことを自覚して、そのまま右足で思い切り地面を蹴って、その場から後方へと戻るように空中を飛んで離脱する。
互いに色々と駆け引きを行った最初の戦闘は、どちらも無傷のまま何事もなく事なきを得る結果となるのであった――。
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