1384.圧倒的な強さのナギリ
※加筆修正を行いました。
前方からはランク『5』の妖魔、背後からは『退魔組』の『式』に護衛剣士、そして『特別退魔士』の二人が何やら『術』を施しているのがナギリには見えた。
先程までの状況であれば、どう足掻いても全ての攻撃を避け切る事は難しいところだったが、今はナギリは人を一人抱えているというハンデが取り除かれている。
それどころか抱えていた『二組』の妖魔退魔師も戦闘状態に入っている。
今ならば十分に対処は可能であるはずである。
そしてナギリに視線を向けてきた『ヤヒコ』は、視線を一度だけ後ろへ向けた後に再びナギリに頷いて見せる。
どうやら後ろは任せたぞという意味合いなのだろうとナギリは受け取り『瑠璃』を纏わせた得の刀を握りしめてそのまま向かってくる『退魔組』達に、ナギリもまた向かっていった。
「なっ……! お、王連殿の『神通力』で奴の仲間は動けないんじゃなかったのかよ!?」
手印で術式を展開しようとしていたヒイラギは、仲間の妖魔退魔師を地面に立たせたかと思うと、そのままこちらに向かって全力疾走してくるのを見て、驚きながらそう言葉にするのだった。
「ま、まさか……!! お、王連がやられたというのか!? くっ……! くそっ……! スオウ殿に式札を破かれたか!」
契約紙帳から王連の契約の式札が消えているのを確認したジンゼンは、自身の魔力が残り僅かだという事を自覚しながらも悔しそうにそう呟くのだった。
しかしジンゼンが気にするべき事は、もう終わったことよりも、現実に目の前で起きている事に目を向けるべきだった――。
悠長に自身の魔力の残量を確かめたり、契約紙帳の王連の名を探したりしていた『ジンゼン』は、全く危機的な状況だという事に、意識を向け切れていないのであった。
先程までの『ナギリ』は人を一人抱えた状態で刀を振る事すらできない状態だったからこそ、退魔組の者達に追い立てられて袋の鼠状態だったが、今はもうその足枷は取り除かれて本来の『特務』所属の『妖魔退魔師』が殺すつもりで刀を握って襲い掛かってきているのである。
距離のあるうちに策を巡らせて戦いを継続するか、それとも『退魔組』の者達を囮にそのままこの場を離脱するかを選ぶべきであったのだ。
…………
ヒイラギとクキが使役している『式』は、どちらも人型の取れるランクが『3』の妖魔だったが、今はその『特別退魔士』達であるヒイラギとクキの使った禁術によって、どちらもランクが『4』へと昇華していた。
「グオオオッ!!」
口から涎をまき散らしながら正気を失っている『式』達が、次々にナギリに襲い掛かってくる。
そしてあと一歩踏み込めば互いの間合いだという距離の中、突如としてナギリはその場で足を止め始めた。
当然正気を保っていない『式』の妖魔達は、相手の動きが止まろうがお構いなしに飛び掛かってくるが、ナギリは冷静に刀を構えると、そのまま脚に力を込めて一気に前へと刺突をするように刀を突き出した。
一番先頭で向かってきていたランク『4』相当の妖魔の皮膚を刀で突き破ると同時、唐突に突き入れられた箇所から火柱が上がるのだった。
――刀技、『百火』。
火柱が上がったせいで視界が遮られた妖魔達の背後へとナギリは、音もなく忍び寄ったかと思えば、残りの妖魔達も次々に斬り伏せていく。
「グ……、ゴハ……!」
苦しげな声と共にフラフラとよろめいていた妖魔達だが、ぼんっという音と共に『退魔組』の『特別退魔士』が使役した『式』達は全員が式札に戻されていく。
更にそこでナギリは足を止めずに姿を消したかと思うと、あっという間にその更に背後から迫ってきていた『退魔組』の護衛剣士達に辿り着いてみせるのだった――。
「くっ、くぅ……!!」
この場に居る『特別退魔士』達の護衛を務める護衛剣士は、全員が『退魔組』内では優良とされる剣士達ばかりであった。
――しかしそれでも流石に『妖魔退魔師』が相手では分が悪すぎる。
護衛剣士達はその戦力を高く見積もっても『妖魔退魔師』組織の『予備群』には届かない程の力量である。
予備群に及ばぬ者達が、その更に上の『妖魔退魔師衆』そしてそのまた更に上に居る『妖魔退魔師』に勝るはずもなく――。
「くっ、くそぉ……!」
『ヤエ』と『サキ』が同時にナギリに斬りかかっていくが、ナギリは先程の妖魔に使った刀技を使うでもなく『瑠璃』ではなく『浅葱色』の青のオーラを刀に纏わせたかと思うと、あっという間に斬りかかってきた『ヤエ』と『サキ』の両者の刀を巻き上げた。
「えっ? う、うぐっ!?」
両者の手から刀が失われたことにようやく気付き、互いに自分の手元を見始めたが、次の瞬間にはその両者共に白目を剝いて気を失うのであった。
「殺しはしない……。少し眠っていてもらうがな」
ナギリは刀の柄の部分で『ヤエ』と『サキ』の鳩尾を突いた後、そのまま前のめりになったところに、刀で首に衝撃を与えて強引に意識を絶ったのであった。
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