1383.四面楚歌の状況
※加筆修正を行いました。
ナギリはヤヒコを抱えながら前方の『妖魔召士』が使役した妖魔を見て歯噛みするのだった。
同じ人型の取れる妖魔の『式』は『退魔組』の退魔士も放ってきていたが、妖魔召士が使役した『式』の妖魔の方は明らかに威圧感が違っている。
少なく見積もってもランク『5』はあるだろうと即座に理解したナギリは、人を一人抱えた状態で対処の出来る限界を越えていると判断したためであった。
(普段通りに戦うのならば対処は十分に可能だが、流石に今は分が悪すぎる……。それにまだ退魔組の退魔士や『ジンゼン』殿に目の前の妖魔召士も居る。ここは何とかして再び逃げる手立てを作り出すしかないだろう)
そう考えたナギリだったが、背後まで追い縋ってきた『退魔組』の者達は今度こそナギリを逃すまいと先程より多くの『式』を放ち始める。
ボンっという音と共に、先程の妖魔達に加えて追加で3体の妖魔が使役された。
その妖魔達は全員が人型を取っていた為、少なくとも妖魔ランクが『3』を越えている事は間違いない。
妖魔召士でもない『特別退魔士』がこれだけの妖魔を同時に使役することは珍しい。
これまでの戦闘で『禁術』も交えて使っているところからみても、いつ『魔力枯渇』を引き起こすか分からないほどであった。
「ヒイラギ、無理はするな。この場には俺もいるし護衛剣士の『サキ』達も居る。何より『ジンゼン』様もいらっしゃるのだ。お前だけが無理をする必要はないのだ」
普段は寡黙であまり喋らないクキだが、無理をし続けている同じ『特別退魔士』の『ヒイラギ』を見て心配そうに声を掛けるのであった。
「あ、ああ……。でもよ、これだけ好機の条件が揃っている状態で、そう何度も逃げられたら悔しいだろ? 確実に仕留められる内に仕留めとかねぇと……」
普段の任務の時より半ば興奮気味にそう話すヒイラギは、どうやら『妖魔退魔師』という格上の存在を仕留められる好機を前に、相当に重圧を感じているようだとクキには感じられるのだった。
「ああ。そうだな……。だが、お前ひとりで戦っているわけじゃない。魔力が枯渇しそうだと感じた時は俺達をすぐに頼れよ?」
「すまないな……。そうさせてもらうよ」
ヒイラギとクキの会話を聴いていた護衛剣士の『ミナ』は得の刀をぎゅっと握りしめ直すと、いっそう険しい表情を浮かべながら『ナギリ』を睨みつけ始めた。
どうやら好意を寄せる『ヒイラギ』の覚悟を感じ取った『ミナ』もまた、普段以上に気合を入れ直したのだろう。そしてそれはナギリにとっては、あまり好ましくない展開であった。
前方には『妖魔召士』とランクが『5』の妖魔。後方には『退魔組』の『特別退魔士』2名と護衛剣士が3名。
そして『特別退魔士』達が使役している妖魔が合計で5体。更には空で様子を窺う『ジンゼン』も健在である。
対するは『ヤヒコ』を抱える『ナギリ』のみである。流石に『特務』に所属するナギリであっても不利という言葉を否めなかった。
(これは、万事休す……か)
どうにもならない現実に直面してしまった事で、ナギリは胸中でそう呟くのであった。
どうにか手立てがないかと考えていた矢先に、更に退魔組の方で『人型』の式が3体も増えてしまい、更に状況は悪化の一途を辿ってしまったのである。
ナギリがそう呟くのも無理はなかった。
――しかし、ナギリがそう考えた時であった。
何と腕の中に抱きかかえていた『ヤヒコ』が、突如として動き始めるのだった。
「!?」
どうやら『ヤヒコ』に掛かっていた王連の『神通力』が解けたのだろう。
抱きかかえられていたヤヒコが、視線でナギリに地面に下ろせと訴えかけてくる。
慌ててナギリはその場にヤヒコを下ろすが、声を掛ける間もなく『式』の妖魔や、背後の護衛剣士達が刀を握りしめてナギリに向かって前進してくるのであった。
『ブックマークの登録』や『いいね』また、ページの一番下から『評価点』を付けていただけると作者のモチベーションが上がります。宜しければお願いします!




