1382.淡い期待
※加筆修正を行いました。
王連の『神通力』によって動けなくなった『ヤヒコ』を抱えたまま『ナギリ』は森の中を懸命に走り続ける。
可能であればあのまま『加護の森』を出て『サカダイ』が管理する土地の方に避難を行おうかと考えていたナギリだったが、流石にそこまで甘くはなかったようで『退魔組』の襲撃を受けてしまった。
何とかヤヒコを守り抜いて一度は危機を脱したナギリだったが、依然『退魔組』や『ジンゼン』に追いかけられてしまっている状況である。
それも今度は『サカダイ』の方ではなく、ウヨウヨといるであろう『ヒュウガ』一派の潜伏する『加護の森』の中を逆走していっている状態であった。
「流石に挟撃を行われるような事になれば、この状況では切り抜けるのは困難だろうな……」
先程の追手である『退魔組』達と実際に一戦交えた感想としては、やはり退魔士の護衛であろう女性の剣士達や、何らかの禁術を施されてランクが『4』に到達していたであろう『妖魔』はそこまで大したことはないと感じられた。
だが、それはあくまで『妖魔召士』である『ジンゼン』や、他の『特別退魔士』と呼ばれる退魔士を相手にしたわけではない為に運よく難を逃れただけであって、本当の意味で人を一人抱えた状態でも余裕だと判断できたわけではない。
このまま更に潜伏している『ヒュウガ』一派に挟まれる形で退路を阻まれて襲われたならば、今度こそ覚悟を決めなくてはならなくなるだろう。
(このまま来た道を戻れば当然に他の潜伏している『妖魔召士』と遭遇する可能性は否めないが、逆にこちらの味方と合流できる可能性も残されてはいる。特務所属の『カヤ』さんや『タツミ』も途中までは、最初に決めた数珠繋ぎの作戦通りに一定の距離を保っていたはずだ。向こうも奴らに襲撃されてしまっている可能性はあるかもしれないが、抱きかかえて一人で逃走している現状に比べれば、幾分マシだといえるだろう……)
共闘する事で『ヒュウガ』一派の『妖魔召士』達の扱うような広範囲の『術』や『魔瞳』の危険性は注意しなければならないだろうが、この状況では大した差はない。
むしろ動けなくされている『ヤヒコ』を一定期間預ける事が出来れば選べる選択肢が増えて良い事尽くめであるといえるのだった。
淡い期待を抱きながらナギリが逃走を続けていると、彼の走る道の前方の茂みがガサガサと動いたのをナギリは視線で捉えるのだった。
(敵か……? 味方か……?)
思案を続けながらも速度を維持したまま走り続けるナギリは、茂みから姿を現そうとする存在を見届けようと少しだけ速度を緩める。
そして遂に森の茂みから一人の人間が姿を現すのだった――。
「見つけたぞ……!」
茂みから出てきて姿を見せた男は紅い狩衣を着た『ヒュウガ』一派の妖魔召士であった。
「ちっ……」
仲間と合流出来るかもしれないとばかりに『ナギリ』は淡い期待を抱いていたが、その期待は見事に打ち砕かれてしまった。
そして目の前の妖魔召士は懐から『式札』を取り出すと、上空へと放り投げる。
ヒラヒラと札は舞っていき、やがてはボンっという音と共にランク『5』の人型を取っている『妖魔』が出現するのであった。
「追いついたぞ! 手間をかけさせやがって!」
進行方向を塞がれて足を止めたナギリの元に『退魔組』の者達と『ジンゼン』も追いつき始める。
ナギリが恐れていた挟撃の形が現実のモノとなった瞬間であった。
「これはジンゼン様……! 貴方も戦場へ出向いておられたのですね?」
ナギリの前にいる妖魔召士の男は、ナギリを追ってきていたであろう『ジンゼン』を見て、空を仰ぎ見ながらそう口にするのだった。
「ああ……。しかしいいタイミングだったぞ。私は別の場所で『王連』を使役している最中でな。あまり魔力に余裕はなかったところなのだ。退魔組の者達と協力してそいつを押さえろ」
「分かりました。おい、あの人間を襲え。激しく抵抗するようならば殺して構わん」
ナギリの前方にいる妖魔召士が自身の『式』にそう命令をすると、威圧感を放ちながら妖魔が眼光を鋭くさせて一歩前へと歩を進めるのだった。
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