1377.決着の時
※加筆修正を行いました。
天狗の『王連』が渾身の力を込めて放った『風』は、これまでスオウを追い回していた突風と呼べるものではなく、一瞬で空へと巻き上げてしまう程の『竜巻』と呼べるほどの『風』の一撃で、スオウはその王連の暴風ともいえる『竜巻』に呑み込まれて、一気に空へと舞い上がるのだった。
しかし空へと巻き上げられていく中で、スオウもまたおびえる様子もなく『ナギリ』や『キョウカ』のように鋭い眼光を王連の居る場所へ向けていた。
そして両手足を可能な限り伸ばしたかと思えば、そのままスオウは刀を放って、連続で衝撃波を放ってみせるのだった。
「むっ……!」
竜巻の中で思うように身動きがとれず、更には相当なダメージを負っている筈だというのに、その竜巻の中から器用に衝撃波を飛ばしてきたことで『王連』は顔色を変えたかと思うと、慌てて身を捻って躱そうとするのだった。
――しかし。
『風の檻』ともいうべき『竜巻』に囚われて空高く舞い上がっていた『スオウ』の放った衝撃波の数々は、確実に全て回避を行ったと思われたが、唐突に王連の右肩に痛みと熱さが伝わり始めるのだった。
「つっ……!?」
王連は避けた筈のスオウの攻撃で自身にダメージ負わされた事に驚き、視線をスオウから自分の肩に移して確認するが、その瞬間にも次々と遠くからスオウの衝撃波が迫ってくるのが見えた。
あのキョウカという妖魔退魔師と同じように、空の上でも器用に身体を動かしながら普段通りの変わらぬ攻撃を繰り出せるようで、人間相手に空の上は安全地帯だと考えていた天狗の王連は、その考えが間違っていたことを悟り、歯噛みをしながら悔しそうに地上へと移動を開始しようとするのだった。
地上へと降り立っていく王連を見たスオウは、器用に『風』の中で大太刀を振り回しながら遠心力を利用するように身体の向きを変えると、今居る空の上より更に高くに衝撃波を放って強引に『風の檻』を抜け出すことに成功する。
そしてその勢いを利用したまま地上に向けて着地を行おうとしていた王連へとグングン近づいていくのだった。
「くっ……!」
衝撃波の反動を利用して一機に迫ってくるスオウを見た王連は、地面に着地した後に一気に距離を取ろうとするのだった。
どうやら離れてから再び羽団扇を利用して空高く飛んで逃げようと考えたのだろう。
そこに遂にスオウが地面に着地すると、態勢を整える前にすでに大太刀を大きく振って、一足先に距離をとっていた『王連』に向けて再び連続で衝撃波を放つ。
どれもこれも速度は『キョウカ』のモノには劣ってはいるが、殺傷能力は同規模程の威力があり、何よりこの衝撃波は常に三つの三日月型の衝撃波が先行して飛んでいく為に、受け手側となる相手はその三つの衝撃波に目を奪われるのだが、実はこの連続衝撃波にはもう一つ上空で放った時と同様に秘密が隠されていた。
一足先に地面に降り立っていた『王連』は、スオウから十分な距離を取った後、再び空高く飛翔を行おうと羽団扇を用いる準備を行っていたが、そこに背後から三つの三日月の形をした衝撃波が飛んでくるのが見えたことで慌てて空を飛ぶ前に躱そうとする。
一つ、二つ、三つと『目に映る』スオウの衝撃波を完全に躱したことを確認した王連は、再び空高く飛翔を行おうとするが、そこで王連の残っている方の腕の肩から先がなくなる感覚を味わい、慌ててそちらに視線を向けてしまった事で、迫ってきていたスオウから一瞬でも目を離してしまうのだった。
「!?」
王連は羽団扇を持っていた腕を失い、更に激痛に顔を歪めていたが、そんな事よりも迫りくるスオウの冷酷な目を見てしまい身体が硬直するのを自覚する――。
「……終わりだよ」
――刀技、『勇桜踏歩』。
スオウの視線によって動けなくなった王連に対して、スオウは得の大太刀を目にも止まらぬ速さで振り切り続けて王連の身体を切り刻んでいく。
スオウの恐るべき刀技の刀速に王連の目でさえ追い切れてはいなかったが、たとえその刀速を目で追えていたとしても切っ先は目に映すことは出来なかっただろう。
スオウの『勇桜踏歩』は、自分の刀の切っ先にあたる刀身を一時的に消す事が出来る『刀技』であり、ミスズの『秘技』である『幻朧』に近いモノであるが、明確に違う点はスオウの『勇桜踏歩』は自分の刀身だけではなく、その得の刀から繰り出される数々の刀技すらをも隠す事の出来る事にあった。
先程の上空での衝撃波や、地上でのスオウの攻撃にも『勇桜踏歩』は使われていて、これによって王連はスオウの攻撃を全て躱したと錯覚させられていたが、実は目に見えないもう一つの衝撃波によってダメージを負わされていたのであった。
「かっ……かっか……! み、みご……と、なり!」
天狗の王連は最後の最後まで笑みを浮かべたままでそう告げていたが、やがて冷酷な目をしたスオウに首を刎ね飛ばされるのだった。
そしてボンッという音と共に、ヒラヒラと札がその場で舞い始めると、スオウは鞘に納める直前の大太刀を最後に振り切って、その札を真っ二つに斬り捨てた。
「これでもう『式』としては使役が出来ないね」
器用に大太刀を仕舞い直すと、スオウは静かにそう呟くのだった――。
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